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絶対に失敗するカフェの作り方カフェ経営術。脱サラしてカフェを開きたい人に絶対伝えておきたいたった2つのこと。

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横浜で土日の行列の絶えない喫茶店「珈琲文明」のマスターがお伝えする、小さなカフェの立ち上げ方と長く続ける方法。今回は、店が混雑した時のオペレーションについてお伝えし、連載を締めくくります。

個人店やマスター1人の小さなカフェを、長く続けていく方法を珈琲文明の店主赤澤智がお伝えしていく連載も本日最後。驚くほど具体的に、かつ「絶対に失敗する方法」をお伝えしながら、逆張りをすることで成功へと導くメソッドを公開しています。50話は、「オペレーション」についてお伝えします。

珈琲文明店主・赤澤智がお伝えします(写真:珈琲文明提供)

1 「カフェ経営」は、成功している人から情報を得て

さて、この連載ももう50回。基本的には私がカフェ立ち上げ時から研究してきた「絶対に失敗する方法」の逆張りをすることで、可能な限り長く続くカフェを立ち上げて運営していく方法をお伝えするという企画ですが、お伝えしたい「絶対失敗する方法」がありすぎて、実はまだまだお伝えしきれていません。

私のお店(珈琲文明)がどうにか16年半続いていることは運やタイミングという要素も多分にあると思います。

とはいえ、私はこの「赤澤メソッド」を長年、私が主宰している「カフェラボ」でお伝えしてきており、私のメソッドを踏襲してくれた全国にあるカフェが今のところ一件も潰れず全店が黒字で複数年経営を続けていると言う事実があるので、ある程度、個人店の立ち上げや運営を目指す皆様には価値のある情報だと思います。

ですから、この連載の読者に参考にしてほしいのは、珈琲文明ではなくむしろ、「カフェラボ」から立ち上がったカフェ全てです。何かを始める時参考にすべきは、「実際に自分がやりたいと思うシチュエーションで実際に成功している人」だと思うので、もしよかったら、ぜひ訪問し、そこを参考にしてみてください。

ちなみに、行ってみてほしいカフェを4つアップすると、杉並区阿佐ヶ谷「ペンギンカフェ」、北海道江別「純喫茶ファロ」、北区十条「十条珈琲」、群馬県草津温泉「森田コーヒー」です。

2 立て込んでいる時に効率よく回す方法を知っておいて

自分のお店が混雑しているという幸せな状態をまずイメージ

さて、最終回に「これを伝えておきたい」と思うことについて耳から血が出そうなくらい考えに考え抜いた結果、「オーダーが立て込んでいる時にどうやって効率良く提供することが出来るか」についてお伝えしておきたいと思いました。

これは、カフェラボを経てお店を開いた人たちが日々の運営上悩んでいることだったりします。つまり、カフェ立ち上げの時にはほぼほぼ意識が向いていないことです。なぜなら、これ、繁盛店になって初めて生まれる贅沢で幸せな悩みだからです。

ですから、読者の皆様がこれから開くお店も軌道に乗りこのような悩みに直面する日が来ればこの記事を書いてきた甲斐があるというものです。

「ピークタイムの効率よいオーダー提供方法」についてお話をしたいと思いますがその前に以下の前提をまず皆さんの頭の中でシミュレーションしてみてください。

「店内には現在、6名のお客さまが既にいて、そこに新規のお客さまが3名来店、オーダーを伺い、作っているところに今度は4名様が来店、ほどなくして1名様が来店したと同時に店内にいたうちの1名様がお会計しようとしている」

さて、あなたはどのようなオペレートをするでしょうか?

この時の私の行動パターンを示すことで最終話を締めくくりたいと思います。臨場感出すためにハードボイルドタッチ(?)の現場中継風にお送りしますね。

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オペレーション1:「最も所要時間のかかるもの」から手がける

店内では計6名のお客様が思い思いのことをしてくつろいでいる。

それぞれ年齢も性別も職業もまちまちで全く接点のない人たち……いや、そうではない。この店を「サードプレイス」として選んでいただいたという接点がある。

そう思うだけで胸が熱くなるのだ。

♪シャリーン(ドアが開く時の鈴の音)

「いらっしゃいませ!お座りになってメニューをご覧になってお待ちください」

新規3名が来店(Aとする)、注文は、「文明ブレンド(深煎り)とチョコレートケーキ 」と「白楽ブレンド(中煎り)とチーズケーキ」そして「カフェオレとよもぎ草餅」だ。

コーヒーはサイフォンで提供(写真:珈琲文明提供)

オーダーをさばく際の鉄則がある。

それは「最も所要時間のかかるもの」から手がけることだ。今、この場合では「カフェオレ」であるが、その前によもぎ草餅を炙る七輪風電熱器の網の予熱に十分な時間をとりたいからまずは電熱器の電源をONにする。

そして、ミルクパンに入れた牛乳を弱火で7分タイマーをセットし、その7分の間に2つのコーヒーを淹れる。コーヒー1杯を淹れるために要する時間は約4分。2杯分だと豆を挽く時間がプラスされるので5分強かかる。

豆を23gずつ量り、挽き、フラスコ内のお湯が沸騰したら、お湯はロートをのぼり、豆との歓喜の邂逅ダンスを鎮めるように俺は竹べらで攪拌する。最初の攪拌の後、タイマーが鳴るまでの間、使用済ロートが1本洗える(洗浄機に入れる前の下洗い23秒)。ロートを1本洗いコーヒーのミルクをピッチャーに用意して40秒弱。

火を止めて二度目の攪拌をするやいなや、俺は後ろを振り返り、食器棚からカップ&ソーサーを取り出す、コーヒーが落ちきる前にコーヒーに背を向けるこの時の俺はまるでケンシロウ(北斗の拳)のようだとよく思う。

コーヒーのほうから「おい待て、まだオレは落ちていないぞ!」と言う叫びに対し、
「おまえはもう出来ている」
と背を向けたままの返答と同時にフラスコ内にブブバババァァァ~タワバ!

という感じで落ち切り、コーヒーは完成するのだ。

オペレーション2:「あくまで入店順」に提供する

そんなことに悦に入る間もなく、今度は4人(Bとする)が来店。間髪入れずに更にご新規1名(Cとする)が来店する。着席後もしばしの間は上着を脱ぐなどの時間があるため、新規への「お冷(ひや)提供」より先に、最初に来店した3名へのオーダー提供に向かう。

この時まだカフェオレは未完成なので、カフェオレのカップのみを提供する。
次に来たBのオーダーは「季節のブレンド(深煎り)と季節のスイーツ」「季節のブレンド(中煎り)」「カフェオレ」「みかんジュースとカレーパン」だ。Cは、「文明ブレンド」を注文。

これらオーダーを受けてから、最初のAのオーダーであったカフェオレのミルクが温まったタイマー(7分)が鳴り、カフェオレを提供し、Aのオーダーは全て終了。

カフェオレは目の前で注ぐ(写真提供:珈琲文明)

さて、Bのオーダーが少しバラけたなと思いつつ、いつも通り鉄則にのっとり

・カレーパンのパンを焼く前のトースターを予熱開始
・カフェオレのミルクを熱する
・コーヒー2名分とカフェオレのコーヒー及び後からきた別の1名様のコーヒー、計4人分のコーヒーを一気に作成。

Bの全オーダーを提供し終わってからCのオーダーを作り始めるとかなりの時間Cを待たせることになるため策を講じる。Bの4名が全員コーヒーであれば問題はないのだが、そうはいかない状況である。

ここでやりがちなのが、「4名様のうち2名の定番ブレンドと後から来た別の1名の定番ブレンドを先に作って出す」なのだが、これは4名様テーブル内の提供物にタイムラグが生まれるので避けたいところだ。

また「先の4名のドリンクをすべて提供し終えたらケーキに行く前にCのコーヒーに移り、ケーキ提供を後回しにする」のも、避けたい。例えば居酒屋で「とりあえずビール」はいいとしても、そのままなかなか料理が出てこなくて「カラ酒」を長い時間飲んでいるのは嫌なものであるように、コーヒーとスイーツの提供もなるべくタイムラグはないようにしたいのだ。

ではどうするか?

Bのオーダーのうち、コーヒーカップ及びカフェオレカップ、つまり器だけを先に提供する。あくまでも順番的には「Bを先にした」という行為は非常に重要だ。その後すぐに別のテーブルにいるCのコーヒー(器だけではなく)を提供してしまう。

オペレーション3:お客様のリアクションもオペレーションの一部

その間にカフェオレのミルクも温まり、「みかんジュース」と共にコーヒー(の中身、当店ではサイフォンのまま提供)を持っていく。

このあたりで「チーン!」とカレーパンのパンが焼ける音がするはず。Bは若い女性のお客さまで、リアクションがまさに打てば響くような人たちだ。

「わぁ、氷もジュースで作ってあるんだ!」
「サイフォンのまま自分で注ぐなんて初めて!1.5杯分?たっぷり入ってる!」
「このカレーパン、パンが器になってるんだ!ちょっと写真撮ってもいいですか?」

となったところで、カフェオレをポットで左右から注ぐ実演提供に「わぁぁぁぁ~!」 と感性があがる。その直後、壁掛け時計がボーンと3回鳴り、一同「びっくりした~!」と驚く。と同時に、天井の空がシュワ~っと暗くなって「天上の夜空」には星が出てきてまた「おぉぉぉぉぉ~!」となる。

時間によって天井の色が変わる珈琲文明(写真:珈琲文明提供)

どんなメディアや雑誌の取材、はたまたネットのクチコミより、こうした現場でのダイレクトなリアクションこそが最高に嬉しく、またこの店の魂というものが存在するのであれば、その魂は今、嬉々として店内を漂っているはずだ。

そう、お店が忙しくなってくると、オーダーを提供することだけに意識がいきがちだが、店をやっている醍醐味も味わうことも忘れてはならない。それがそのまま、店主の印象、店の雰囲気に影響するわけだから。

さてここで、Cの男性がお帰りだ。
この人とはオーダーや会計の時しか言葉をかわしたこともないけれど、紛れもなく大常連さん。私が「ザ・サイレントロイヤルカスタマー」と呼ぶお客さんだ。
こっちから話しかけはしないけど「大好き光線」はいつも発しているつもりだ。お会計の後、ドアを開けるその人の背中に向かって心を込めて発するのは、

「ありがとうございました。またお待ちしております」

さぁ洗い物が結構溜まってしまったぞ。
するとまた、

シャリーン♪

「いらっしゃいませ!」

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50回の連載を振り返って

さて、改めて、1年に渡る連載をお読みいただきありがとうございました。

かつて私は「音楽をやるために」」生きていました。それがある日、「幸せになるために」生きていくことに変わりました(あ、音楽は止めてません)。

その途端に人間関係もそうですが、それこそ世の中の様々な景色が変わって見えるようになりました。それはとても清らかで好ましい世界でした。

けっして「コーヒーを通じて世の人を幸せにしよう」と思ったわけではありません。

私は「家族や自分自身が幸せになること」にあくまでも重きを置いているいわば「スーパーエゴ店主」であり、またそのスタンスはこれからも変わることはないでしょう。

「音楽と教育業界しか知らない人間が全く畑違いの飲食店をやることに不安はないの?」と訊かれたことがありましたが、そんなもんあったに決まってますよ(笑)。

とはいえ、カフェの恐るべき廃業率の高さなどは統計知識として知っていたもののなんとなく我が事として捉えることもなく、きっと「知らない者の強み」いや、単なる「世間知らず」だったのだと思います。

ただ、開業前に私が見て来た数えきれないくらい多くの個人店カフェや喫茶店(いずれもワンオペの)のどこよりも今となっては私のお店(珈琲文明)の来客数は多く、操縦が難しいことになっています。あくまで、自惚れや驕りということではなく事実としてです。

もしも私が開業前にどこかの個人カフェで修行させてもらっていたりした場合、そこのオペレーションキャパを今は超えているため対応能力もなく行き詰っていたのかもしれませんので、未経験や無知は絶望どころか時に強みになるとも言えるのかもしれません。

とはいえ、成功例とその秘訣を先に聞いていたら……と思うことも数多ありました。

珈琲文明の店内(写真:珈琲文明提供)

これからカフェを開くみなさんには、もちろん不明な点の1つ1つ明かりを照らして潰していくという地味な作業は頑張ってほしいと思いますが、私のこの連載を読んでいただくことによって、その作業を出来るだけ最短最速にショートカットしていただけたら光栄です。そして、その術を惜しげもなくここに書いてきたつもりであります。

とにかく私は何も知らないところから始めましたが皆さんはぜひ私が4年半かけて準備し、関連本を118冊読み、数多くの実店舗を訪問し、試行錯誤を繰り返したその私の「肩の上」にヒョイっと乗っかっちゃってください。

さあ、カフェ開店に向かう心の準備は出来ましたか?
最初に必要な知識は身につきましたか?
何度でも連載を読み直して、また、私の著書「人生に行き詰まった僕は、喫茶店で答えを見つけた」や、ぜひカフェラボのnoteなどもお読みいただき、黒字で長く続くカフェを運営していきましょう。
さて、I amの連載は本当にこれで最後です。

「ありがとうございました。またお待ちしております!」

珈琲文明店主・赤澤智でした。

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この記事を書いた人

赤澤智
赤澤智珈琲文明店主
脱サラ後40歳でカフェ経営を始め16年。
強み「しっかり腹落ちしたことならば成果が出るまで粘り強くいつまでも続けられる」。
弱み「人見知りが激しく、興味のない物事(人含む)にはまったく関心がない」

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