絶対に失敗するカフェの作り方カフェを経営していると起きる、クレームやトラブルはこう解決する。
横浜で土日の行列の絶えない喫茶店「珈琲文明」のマスターがお伝えする、小さなカフェの立ち上げ方と長く続ける方法。今回は、小さなカフェを運営している中で起きるクレームやトラブルの話です。ネットへのネガティブな書き込みにはどう対応するのか、厄介なお客様には何を伝えればいいのか、についてお伝えします。
マスター1人で経営する小さなカフェを立ち上げて、長く続けていく方法をお伝えしていくこの連載ですが、驚くほど具体的に、かつ「絶対に失敗する方法」をお伝えしながら、逆張りをすることで成功へと導くメソッドを公開しています。連載の終わりも見えてきた48話は、「クレーム対応やトラブルシューティングケーススタディ」についてお伝えします。
日々のカフェ運営というのは常に順風満帆であるはずもなく、クレームやトラブルは発生するものです。だからこそ、「トラブルはある」ということをまずは念頭に置いて運営していくべきでしょう。
今回はそういった「トラブル」への対応を実際に私のお店(珈琲文明)で起こった例を挙げながらお話をしていきたいと思います。
目次
カフェに対するネット上のネガティブな書き込み
事実と反するものにはレスをする
まずはネット上のネガティブ書き込みに関することです。
「グーグル」や「食べログ」等こちら(店側)の意向とは無関係に評価が公表されていて店舗側は逃げも隠れもできません。
ということで、みなさん、実際にグーグルや食べログで「珈琲文明」を検索し、さらにその中の最低評価(★1つ等)のコメントを読んでみてください。
「え?いいの?」と思われたそこの優しい読者さん!もちろん読まれたくないに決まっていますが、何しろ、逃げも隠れもできませんから。それがネット上の情報ってものです。
ネガティブなコメントの中で「具体性に欠ける中傷的内容」のものはスルーで良いと思いますが、書かれていることが事実と反していたり第三者への印象操作の恐れがあったりする場合はレスをしっかりと書いて説明しておくのがよいと思います。そうすることで、サイト上が荒れ放題になることを牽制することができますから。
大切なのは鈍感でいること
ネット上の評価において私のお店(珈琲文明)は高いのか低いのかは正直わかりません。
でも自らのクレド(信条)とイズム(主義・哲学)に則り公明正大に堂々と営業しているならば、事実無根以外の書き込みには何もできません。
先方には匿名性があり、こちらは住所も店名(多くの場合店主の名前も顔も)も白日の下に晒されているというのが飲食店のネットの世界というものです。
まずはそういう世界への免疫や時に鈍感力(?)も身に着け、必要以上にビビらないようにしてください。
店にとって重要なことは譲らない
ちなみに珈琲文明がこれらネット書き込みの悪評で多かったのは「長居を注意された」「時間がかかるからおすすめしないと言われた」がツートップです。
この2つのことはカフェ経営において実はかなり重要な問題ですので触れておきます。
「長居を注意された」
そもそもいったいどれくらいの時間いることが長居というのか?
ここが結構曖昧なのだと思いますが、経営する側から考える「長居」というのは、「お客様が心地よく過ごしてくださるのに相応の時間」と「損益分岐点を超えて店が損をしてしまう時間」の交差するところを超えた時間です。
往々にして小規模個人店の損益分岐点は「1回転」、つまり「席数と客数が同数」あたりなのだと思います。この、損益分岐点というのは、トントンという軽い感じではなく、「潰れる」のだということを肝に銘じてください。
そして、その「長居」となる時間は、その場所が、蕎麦屋なのか立ち食い蕎麦屋なのか大箱チェーン店なのか個人店カフェなのかでも異なってくると思いますが、ここではあくまでも小規模(8~20坪以下の)個人店カフェです。
これらをもとに考えると「開店と同時にすぐ満席になってそのまま閉店までそのお客さん全員が帰らずにいたら店は潰れる」のです。もっと言えば、「損益分岐点」を超えた後の時間、その店はひたすらボランティアになります。
「え?でも開店から閉店までって8時間くらいあるしさすがにそんなにいないよ」と思った方はもう少し深く考えてみてください。
1人で1席のカウンター席での8時間なら営業時間の間に1回転だとしても、3人掛けのテーブルに1人が座った場合はどうでしょうか。空いている2席にはもう誰も座りませんから、8時間で3回転しなければ損益分岐点は超えません。
つまり3人掛けのテーブルにお1人で3時間滞在したらお店は潰れるということになります。
お客さん側からしてみたら全く悪気はないのかもしれませんが、悪気がないからこそ少し厄介といいますか、知らぬ間にそれは「あなたのお店は大好きですが潰れてください」と同義になっているとも言えるのです。
もちろん、こんな話を店側がすると、炎上するのであまり言われていないのですが、この連載は「絶対に潰れるカフェ経営」を伝えた上で、その逆張りをすることで長く続く利益の出るカフェを経営する方法をお伝えする企画ですから、あえて言います。
私が小規模個人店カフェ店主代表として心の叫びを記しておくので、どうか、お客様としてこの連載を読んでくださっている方にも、理解していただける方がいると嬉しいです。
そして、それより何よりこれから店主となるあなた自身はこうした損益計算から逃げないでほしいと思います。そこから逃げたら、絶対に失敗します。
「時間がかかるからおすすめしないと言われた」
次に「時間がかかるからおすすめしないと言われた」という低評価についてです。
珈琲文明のとりわけ土日祝日営業中のほとんどの時間は「混雑札」というものが扉にかかっています。そこにさらに「全くおすすめしません(※写真参照)」という貼り紙もしています。
この時実は、「完全満席」というわけではありません。どこかしら少しは空いているといった状況であることが多いのですが、そういう状態のお店でオーダーも長く待たされ、すぐ隣には他人が座ってるような圧迫感がある中でコーヒーを飲んでも落ち着かないと思います。だからこそ、文字通り「全くおすすめしません」と真っ正直にお伝えしているわけです。もちろん、それでも大丈夫と言ってくれたお客さんをお断りすることはありません。
短期的に1円でも多く売上を得たいというのであればドンドン入れるべきなのかもしれません。しかしながら、このI amでここ1年に渡って私が説いているのはあくまでも「長く続くカフェ経営」であります。
長く続かせていくためには来店過多を防ぎ、調整弁のように時に人の流れを止めることも必要なのです。
さて、今日は最後にこれまで私のお店で起きたトラブルの中でも難易度の高さMAXだと思われる事例が結構最近あったのでそれをここで共有して終わりたいと思います。
カフェで実際に起きたトラブルへの対処法
「土曜の絶賛ピーク時、年輩の男性が来店」
さて、ぜひとも一緒にシミュレーションしてみてください。
ある男性がお店に入ってきました。混雑札を出していたので、私は、「お時間がかかりますが大丈夫ですか?」とお尋ねしたのですが、そのお客さんは「聞こえない」「コーヒーちょうだい、いくら?」と言われました。
本当に聞こえていないようだったことと、お酒で酔っているようだったので筆談でお話をし、コーヒーをお出ししました。すると、そのお客さんは、大きな声で「ウマイかマズイかわからんが先生がウマイって言うんならウマイんだろうなー」というようなことをおっしゃっていました。
来店からの一部始終を見て近くにいたお客さんは、状況を汲んでくれるかもしれませんがきっと居心地良く感じないでしょう。また、二階席をはじめ遠くに座っている人は、状況がわからず「なんか、大きい声を出してる人がいて怖い」と思ってしまうかもしれません。
私は、お客さんと目を合わせて話そうとしましたが、基本的にずっと下を向いて喋っていて、筆談の際もずっと文字だけを追っているような状況でした。
こちらはどんどんオーダーも立て込んできていて、口頭で注意することが出来ない状況。ただ、そのお客さんは酔っていることは置いておいても、根は悪い人ではない感じで、悪意も感じられない。紙に「静かにしてください」って書くのもなんだか角が立つ……ではどうするか。
私はこれらをものの一瞬で考えて、次の一手を出しました。
さて、ここまで読んでくださったみなさん、このような状況になった場合、どうするのか正解だと思われますか?
~各自シミュレーションタイム~
答えは出ましたか?
それでは、私がその時とった行動を今から述べますが、それが正解というわけでも最善というわけでもないのであくまでも参考として読んでみてくださいね。
~私が取った解決法~
まず、こっちを見ていただくために、「私の顔を見てください」という紙を渡しました。そしてその方がこちらを見たところで、「もう少しお静かにお願いします」と書いた紙を、自分の顔の前に持っていき、その方の視界に入るようにしました。
すると、その方は大きな声で話すのをやめて、その後は、静かにお店で過ごしてくれたのです。そして、帰り際にそれまで書いた紙に、「ありがとう」と書いて戻してくれました。
実際の筆談のやり取りの紙を載せておきますね。
ただでさえ字が汚い私が速記殴り書きのような文字をここに晒すのは非常に恥ずかしいのですが、全てをお伝えする連載だからこそ、勇気を出してアップします。
ちなみにここにある「ありがとう」の文字は「そそぎましょうか?」に対するものではなく、帰り際に追加で書いてくださったものです。
私が思うに、トラブル対応に正解などありません。相手の気持ちを害したりこっちも嫌な気分になったりすることも多くあります。先に述べたように「正解はない」。だからこそ、この時のように、相手から最後に「ありがとう」と言われ(書かれ)たことで、「もしかするとこれは初めて正解を得られたのかもしれないなぁ」と胸がいっぱいになりました。
トラブルやクレーム対応に関してはいつどういうことが起こるのかわからないものですが、ただ、何のトラブルもなくお店を経営できるということは皆無と言っていいでしょう。人と人が交差する場所ですから、さまざまなことが起こります。
経営とは、トラブルが起きるのをできるだけ予防しながら、起きたときは丁寧に対応していくことなのだと思います。
その際、様々なこれまでのご自身の人生経験や考えや気持ちを総動員して行動に出れば、おそらくそれが正解かどうかはともかく自分自身の中では納得いく行動がとれるのではないでしょうか。
ネガティブな書き込みも、トラブルも、起きること。そう捉えて進んでいきましょう。
珈琲文明店主・赤澤智でした。
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この記事を書いた人
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脱サラ後40歳でカフェ経営を始め16年。
強み「しっかり腹落ちしたことならば成果が出るまで粘り強くいつまでも続けられる」。
弱み「人見知りが激しく、興味のない物事(人含む)にはまったく関心がない」