Interview
インタビュー

累計70万部突破のベストセラー著者どんなに売れても「自分が消費されない」描き方を貫く《イラストレーター漫画家崎田ミナ・第2話》

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『自分の手でときほぐす!ひとりほぐし』がベストセラー!累計 70 万部突破のイラストレーター、漫画家の崎田ミナさん。前夫の DV とモラハラによってうつ病発症、以後 10 年に渡る暗黒期を過ごします。どう乗り越え今のスタイルを見出したのでしょうか。

プロフィール

イラストレーター 漫画家崎田ミナ

1978年群馬県生まれ。著書に『ずぼらヨガ』(飛鳥新社)、『すごいストレッチ』(MdN)、『くう、ねる、うごく!体メンテ』(マガジンハウス)など。新著『自分の手でときほぐす!ひとりほぐし』(日経BP)はベストセラーに。著者累計70万部。

ストレスの多い現代社会では、多くの人が心の病を持つと言われています。『ずぼらヨガ』がヒットし、現在『ひとりほぐし』がベストセラー、累計 70 万部突破のイラストレーター兼漫画家の崎田ミナさんも 20 代後半から 30代前半の 10 年間うつ病に悩まされてきました。好きなマンガの仕事さえ手につかない時期をどう乗り越えたのか。自分のスタイルを武器に快進撃を続ける崎田さんだからこそ語れる、仕事に対するスタンスをお聞きしました。
*全2話、前編はこちらからどうぞ

自己否定の日々、仕事も手につかない状態に

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具体的にどんな症状が出たんですか?

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うつ病は人それぞれですが、私の場合、ひどい時は起きられない、文字も読めない、考えることもできない、近くのコンビニでさえ行くことができない……という状態でした。

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それは辛い。病院には行かれたんですか?

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地元に帰ってすぐに心療内科に行きましたが、私に合った先生に出会えず、2〜3回ほど変えました。ただ、薬だけは処方してもらって飲み続けていました。

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その間、ずっと家で寝ていたんですか?

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いえ、薬でなんとか動けるようになったりもするので、調子がいい時は東京で仕事仲間と会ったりしていました。
だから、私がうつ病だと知らなかった人もいると思います。

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でも、それって微妙な状態ですよね。症状が出たときに締め切りがきたら……。

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そう。だから仕上がりが納得できない仕事もあって、それが原因で依頼がこなくなったりもしました。

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それは何歳ぐらいのことですか?

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うつ病の間は数回ありました。極め付けに 33 歳で連載していたマンガの仕事が終わって、その後、どんどん物事が悪くなっていく感じがあったので、一回クリエイティブな仕事を辞めることにしたんです。その間約3年なので、36 歳くらいまでですね。もう、仕切り直さないとダメだと思って。

このまま 40 歳になるのは嫌だ! ヨガとの出会い

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そんなドン底のときにヨガを始めた?

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はい。その時期の前後、いい心療内科の先生に出会えたり、アルバイトを始めて外の世界を見たり体を動かして、今までの自分の生活自体を見直そうと思っていました。
少し気持ちが前向きになっていたのかもしれません。

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心境の変化があった?

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好きだったマンガの仕事もどんどんできなくなっていって、もう描く気力がどうやっても出てこない。このまま年をとって、体調が悪くてつらい日々がずっと続くのかな。そんな自分の将来を考えたとき、「このまま 40 歳になるのは嫌だ!」と切実に思ったんですね。

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40 歳って、すごく現実的なキーワードですね。

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ええ。それまでうつ病によってうまくいかない日常を、心の中でずっと、前の旦那のせいにしたり、薬のせいにしたりしていたけれど、40 歳という具体的な数字が見えてきたことで、しっかり自分自身の病気と向き合う気になったのかもしれません。

「マンガ家になりたい」という夢をずっと持っていたから、マンガが描けない状態というのがすごく辛かったんですね。だから本当に夢があってよかったと思います。

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でも、なぜヨガだったんでしょう?

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ヨガならゆっくりした動きで健康になれると見聞きしていたので、若い頃からやってみたいと思っていたんです。

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で、実際ヨガを始めたのは?

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34 歳ごろですね。群馬の家の近くでは教えているところがなかったので。

31 歳で東京に転居したんですが、近くにスポーツジムができて、そこでヨガのレッスンがあることを知ったんです。でも、一歩を踏み出す勇気がなかなか出ずにいたら、今の旦那に「初回の分だけオレが出してあげるから、行ってきなよ」と背中を押されて。

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それでハマった?

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1回行って「私にもできそうだ」と思って、目標を“週1でヨガに行く”と定めたんです。最初は1カ月に1回行けただけでも、よく頑張ったと自分を誉めていたくらいですから。

それがだんだん月1回から2週間に1回、1週間に1回になって、ついには1週間に2回行けるようになったんです。

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それは旦那さん、大金星ですね。

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本当に。31 歳で再婚したんですが、ちょうど精神的につらい時期で。その時の状態を知っていたから、いい兆しだと思って勧めてくれたんだと思いますが、あの時、彼が勧めてくれなかったら、今どうなっていたか……。

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しかも、老若男女が通うジムのヨガっていうのもよかったのかもしれませんね。

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年配の方もできるレベルのレッスンだったので、私にもできるかもしれないと思って。何より、ヨガをした後、心がすっきりする感覚があって、「これならいい状態が維持できる」と感じたんです。

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その感覚が心地よかったからヨガ通いが続けられて、その気持ちよさを多くの人に伝えようと試行錯誤して、今のスタイルが確立されたんですね。

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はい

“消費されないこと”が判断の基準に

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『ずぼらヨガ』が売れて、生活が一変したんじゃないですか?

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はい。いろんなところから仕事を依頼されるようになりました。でも、自分の限界は病気を患いこれまでの経験で分かっていたので、「無理してやらない、できないときは断る」ときっぱり決めました。

仕事をお断りするなんて失礼なことだと思うし、今でもお断りメールを出すときはドキドキしますが、自分が健康でないと納得いくものが描けないから、そこの判断はきちんとするようにしています。

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売れたからこその新たな悩みも出てくるんですね

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東京に来てから出会えた信頼できる先生に、「消費されたらダメだよ」と言われたことがあって、その言葉が今の私の指針になっています。

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「消費されない」重い言葉ですね。

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だから量的なことだけでなく、自分が描きたくないこと、描いていてストレスが溜まるものはお断りするようにしています。

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でも、現実問題、やりたくない仕事でも、収入が増えて、実績にもなります。出版となれば名前を売ることもできます。そうなったときに、多くの人が迷うと思うのですが。

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そうですね。でも、私はどんなにお金がよくても、描きたくないものを提案されたら「すみません」します。そこを曲げることが、“消費される”ということにつながると思うので。

夢が叶った先に広がるのは“恐ろしい”世界⁉

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今までこの仕事をしてきてよかったと思ったのは、どんなときですか?

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読者の方に「このストレッチで調子がよくなりました」とか、「自分の体の中のことがよく分かりました」という声をいただいたときですね。

もちろん本のランキングで上位に入ったら、身内が喜んでくれるし、担当やデザイナーとチームでした仕事が評価されたわけですからうれしいけれど。慢心というか、「ここまできちゃったぜ」感は全然ありませんね。

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すでに人気イラストレーターとして成功を収めていてもそう思うのですね……。

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私も1冊本が出せたら、その後の仕事が楽になるのかなって夢を見てたんですが、実際にその立場になってみたら、
“恐ろしい世界にようこそ”みたいな感じだったというか。

本当に大変なのは何かを手に入れてからなんだと思います。だから本が売れたという意味で報われているように見えるかもしれませんが、まだまだこれから新しい世界が広がっていて……。

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次のステージに上がったら、また新しい世界が広がっていると……。

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そうですね。『プリンセスメゾン』という私の好きなマンガがあるんですが、その中で、「欲しいものってさ、手に入れてからが勝負だね」というセリフがあって。きれいに言うと、そんな感じです。

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手に入れてからがスタートラインってことですか。そこに立った人しか分らない世界ですね。

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今でも報われていないと思っているのは、一番なりたかったマンガ家になれていないから。今でもすごい劣等感があるんですね、ストーリーマンガ家さんに対して。

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なるほど……。

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でも、その劣等感があるからこそ、「今、目の前にある仕事を、必ず全うする!」という気持ちに常につなげられているんだと思っています。

取材/I am 編集部
文/岡田マキ
写真/崎田ミナ(本人提供)

この記事を書いた人

岡田 マキ
岡田 マキライティング
ノリで音大を受験、進学して以来、「迷ったら面白い方へ」をモットーに、専門性を持たない行き当たりばったりのライターとして活動。強み:人の行動や言動の分析と対応。とくに世間から奇人と呼ばれる人が好物。弱み:気が乗らないと動けない、動かない。

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