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小説家・吉田 親司/インタビュー第1話作家に必要なのは「ビジネスマナーと人脈」だった⁉ 専業作家直伝、好きを仕事にするために必要なモノに納得!

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ベストセラーがなくても、専業作家歴20年、著書100冊以上。ベテラン作家が語る、好きなことを仕事にして生き残り続ける方法とは?

プロフィール

小説家吉田 親司

1969 年、福岡県生まれ。日本 SF 作家クラブ会員。2001年に『新世界大戦 Episode3』(KK ベストセラーズ)で作家デビュー。著書は『ミッドウェー要塞 1941』(電波社)、『ガ島要塞 1942』(経済界)、『女皇の帝国』シリーズ(KK ベストセラーズ)、『マザーズ・タワー』(早川書房)、『作家で億は稼げません』(エムディエヌコーポレーション)など 100 冊を超える。

誰でもインターネットに創作物を投稿できる時代。ネット小説から大人気作家になるのも夢じゃない? しかし現実はそんなに甘くはない……。『作家で億は稼げません』著者の吉田親司さんは 2001 年に処女作を発表してから20年、100 冊以上の本を執筆。
100 万部のミリオンセラーがなくても受賞歴がなくても、専業作家として筆一本で生きた吉田さんは「待っていても仕事はやってこない!」と語ります。出版不況の時代を生き抜いていくためには必要なビジネスマナーと処世術について伺いました。

*全2話、後編はこちらからどうぞ

作家の仕事は執筆だけじゃない!?営業しないと専業は難しい

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『作家で億は稼げません』を読ませていただきましたが、吉田さんはすごいペースで執筆されているんですね。

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私としては年間5〜6冊出版するのがベストですが、正直ここ1年は3〜4冊ペースになっています。

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年間6冊として、2カ月で1冊ペース……。その間、執筆だけではなく、営業もされるんですよね?

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そう。執筆以外で必ず行なっているのは、新刊本の献本、そして新刊の企画書を書いて出版社に送ること……。シリーズの文庫化がされる時には、読みやすくするための筆入れもします。

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すごい!同時進行の層が厚いですね。

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そうですね、でもそうやっていかないと、専業でやっていくのは難しいんじゃないでしょうか。

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雑誌やムックの企画などでオファーされることもあると思うのですが、その選別はどのようにしているんでしょう?

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時間とスケジュールが許す限り、やれることはすべてやるというスタンスなので、オファーされた仕事は基本、すべて受けるようにしています。

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それはスゴイ!でも中には吉田さんの書きたいテーマではないオファーもありますよね。そのときはどうするんでしょう?

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引き受けたうえで、何かしらの形で自分の色をひとつ入れて書こうとは考えています。
ただ、一度だけアニメのムック本の短編を頼まれたときは、原作自体を知らなかったのでお断りしましたが……。

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あまりにも接点が少ない仕事に関しては断る?

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基本できないし、無理して書いたところで、その原作が心底好きな方に失礼になりますから。

待っていても仕事は来ない! 出版社に直接アプローチ

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吉田さんが書きたい題材がひらめいたときには、どのようにアプローチするんですか?

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2つ方法があります。1つは企画書を書いて出版社に送る。もう1つは7割ぐらい原稿を書いたうえで、「こういうのを書きたいので、ちょっと読んでいただけませんか?」と連絡して、編集者に預けます。

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え、原稿を渡しちゃうんですか?出版されるかどうか分からないのに。

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今も1つ、“この出版社ならいけるんじゃないか”と思って預けている原稿があります。正直、反応が鈍いので、ダメだったら他にも何社かあてがあるので、そちらに持っていこうかと思っているんですが。

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同じ原稿を他の会社に?

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ちょっとは書き直しますけれど、内容によっては A 社がダメでも B 社の編集さんだったら OK ということもありますから。
もちろん企画書を出して、「これでいきましょう」と言われてから書くのが理想ですが、こういった一種の押し売りみたいなことも、割とうまくいったりするんです。

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実力行使ですね。企画書を出してから書く原稿と、預ける原稿とでは、何が違うんでしょうか?

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企画書は同時に2〜3本送り、使えそうなものがあったら、そこから話を進めていくという形になるので、どうしても自分が書きたいと思うものがあったらまず書いてしまうんです。
さすがに 100 冊書いてくると、経験上、色々と分ってくることもありますから。

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預けたけれど、何もレスポンスがない状態で保留されてしまったら困りませんか?

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その場合はこちらから「よそに持って行きますけれどいいですか?」と連絡を入れ、確認をとった上で他社にアプローチします。そこをきちんとしないと、編集者の面目を潰したり、面倒なことになりかねませんから。

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なるほど、関わりのあるところにどんどんアプローチしていくという感じなんですね。

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ええ。中には「うちでは無理だけれど、よそだったら本になるかもしれないから、そちらの編集者を紹介します」と回してくれることもあるので。

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そういう横のつながりもあるんですね。

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世の中、詰まるところ人の縁ですから。だから、商品としての原稿を用意しておけば、どうにでもなるんじゃないかとも思います。

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商品としての原稿があれば、あとは自分のアクション次第だと。

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基本、待っていても仕事は来ないので、自分から動かないと。ただ、若い作家さんの中には、不用意に動くことで編集者と軋轢が生まれることもあるので、そこら辺は『作家で億は稼げません』を参考にしていただければと思います。

覚えにくいペンネーム、つけていませんか?

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今は SNS や note、You Tube などで誰でも発信できますが、その中で小説家を仕事とするときに必要なことはなんだと思われますか?

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たしかに自分の作品を発表する場はたくさんありますが、どれも大量消費が前提。使い捨てられるものがほとんどなので、忘れられないような工夫が必要だと思います。

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具体的には?

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内容以前に、まず名前を覚えてもらうことが大切です。
小説投稿サイトで書籍化された本を見ると、覚えてもらう気ないだろうという名前ばかりですから。

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たしかにネットでも書店でも、作家名で探すことが多いです。

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売れなくなったらペンネームをコロコロと変える人もいますが、それでは今までの読者を切り捨てることになるので、あまりいいことではないと思いますし。

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最初にある程度コンセプトを決め、ずっと使い続けられる名前で活動した方がいいということですか。

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そうですね、悪評がついた場合は別ですけれど……。

人付き合い苦手でも OK。細いつながりを保つことが大切

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営業するにあたって人脈が大切だと言われていましたが、人付き合いが苦手な人はどうしたらいいでしょうか?

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取り入って気に入られる必要はありません。どんなに人当たりをよくしたところで、売れなくなったらさようならの世界なので。ただ、関係が悪くなっても、こちらから関係を切らないことが大切です。

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意見の相違があったり、気に入らないことがあっても縁を切ってはいけないと。

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私も喧嘩をした編集者がいましたが、それでも年賀状を送ったり、たまにメールを送ったりしています。何がどう仕事につながるか分かりませんから。

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やれることをすべてやることで、次の仕事につながっていくんですね。

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そう、細いつながりでも、作っておけば移った先の出版社で仕事をもらえたりしますから。

どんな職種でもビジネスマナーは大切

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吉田さんは会社員をしていた時代もあるんですね。

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8年2カ月ほど SE をやりましたが、それは本当に食べていくためだったので、正直面白くありませんでした。

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その間も小説は書いていたんですか?

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ええ、朝起きて2時間、帰宅して1時間。さらに片道 15分の電車の中でも、当時出たばかりの“リブレット”という PC を持ち込んで。そうやって書いた小説を新人賞に出しまくり、落ちまくり……。

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その会社員時代があるからこそ、好きな小説を書き続けられる喜びと、そのための覚悟ができたのでしょうか?

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そうですね。でも今になってみると、社会人経験をしていてよかったと思うこともあるんですよ。

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たとえばどんなこと?

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一番役に立ったのは電話のかけ方や取り方。今、電話嫌いの若い人が増えていると聞きますが、気持ちはよく分かります。相手が見えないっていうのは怖いですからね。

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今はほとんどメールや SNS で用が済むから、自宅に固定電話がないという人も多いでしょうし。

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そうですね。編集者との連絡も基本はメールですし。ただ、文面が長くなりそうなときは、あらかじめ SNS やTwitter で都合を聞いてから電話をかけるようにしています。編集者も忙しいですから。

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そういう気遣いもやはり会社員時代に身につけた?

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ええ。やはりいろんな人と関わったので、あれでだいぶ鍛えられたと思います。

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社会人としてのマナーの重要性はどんな仕事でも共通しますね。今は小説投稿サイトで学生時代にデビューする人もいますが、社会経験は積んだほうがいいと?

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社会経験どころか、今、専門学校などでは「兼業作家を目指せ」と言っているんです。正直、作家だけで食べていくのは難しいですから。

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そうなんですか?

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うまく本を1冊出せれば 40〜50 万円ぐらいのボーナスにはなるので、副業や兼業としては悪くないだろうと。

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まさに「2つ目の仕事」を好きなことにする働き方ですね。作家だけで稼がなくてもいいわけで。

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まず兼業で始めてみて、もし売れたらそこから独立を考えてもいいんじゃないかと思います。同じ仕事をしても、今は 20 年前の半額ほど。お金の面では本当に厳しい状況になりましたから。

吉田親司さん著書『作家で億は稼げません』
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取材/I am 編集部、岡田マキ
文/岡田マキ
写真/CANVA、本人提供

この記事を書いた人

岡田 マキ
岡田 マキライティング
ノリで音大を受験、進学して以来、「迷ったら面白い方へ」をモットーに、専門性を持たない行き当たりばったりのライターとして活動。強み:人の行動や言動の分析と対応。とくに世間から奇人と呼ばれる人が好物。弱み:気が乗らないと動けない、動かない。

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