フリーランス小説家に聞く「表現を仕事にするということ」小説家は会社員の経験が最大限に活かせて、何歳からでもはじめられる稀有な仕事? 小説家・額賀澪に聞く「小説を仕事にする」ということ

小説家になりたい、小説が書きたいから、会社を辞めたいと考えている人、必読。会社員経験、サラリーマン経験は最大の武器になる 松本清張賞受賞の小説家・額賀澪さんに聞きました。

プロフィール
小説家額賀澪
小説家になりたい人にとって、社会人経験は最大の武器になる。会社員でありながら小説を書き続け、松本清張賞を受賞してデビュー。そして小説家として一本立ちした額賀澪さんに、小説家になれるのはどんな人か聞きました。(第3回/全3回)
目次
会社員をしながら「好きなことを仕事にする」

額賀さんは大学卒業後に就職して小説を書かれていたわけですが、どんな仕事をしていたんですか?

大学卒業後、会社員になろうと思った時、文章を書くことや本作りに関連する会社に勤めたいと思いました。だから、広告出版系の会社に就職しました。結果的に、本や印刷物を作った経験がしっかりある状態で作家になれたのは今も本当によかったと思っています。でも悪い方の効果もあって……元編集者なので、自分の担当編集が設定した〆切日に対して、「発売日から逆算すると実は1週間くらいサバを読んでるな」とわかってしまうことですね(笑)

編集者の感覚でいろいろ段取れてしまうんですね。ちなみに、社会人スキルは「好きなことを仕事に」した時に生きると思いますか?

会社員をやっていて良かったと思うのは、社会人としてのコミュニケーション能力をしっかり身につけられたことかなと。また、職業にまつわる小説を書く時、ひとつでも、安心して、自信を持って書ける職業がある、説得力を持って書ける分野を手に入れたことです。取材をするスキルを得たことも大きかったかもしれません。

世に出たものの評価は読者に委ねる

額賀さんは、しっかり取材して執筆されている印象があります。小説家の方は取材する派とイメージで書く派に分かれるんですか?

私は取材する派です。小説がフィクションであるとしても、きちんと知ってからじゃないと嘘をつくのが難しい。わかっていてつく嘘と知らないでつく嘘は、全然質が違う。でも、逆に取材をしてしまうと縛られるという人もいますね。現実に沿わせようとするとフィクションとうまく噛み合わなくなったり。善し悪しと言うより、作家個人が何を大事にして小説を書いているか、じゃないでしょうか。

書いたものについて、「自分が思った通りに伝わって欲しい」という思いが湧くことはありますか?

自分が世に出した作品に対する評価は、気にならないわけではないのですが、出てしまったらあまりその本のこと自体を考えないようにしています。売上とかも考えずに次の仕事に邁進する。出ちゃったものにあまりこだわらないようにしているというか、次の仕事に集中しようと切り替えています。今できることをやる。出てしまったものは、自分の力ではどうしようもないし、何かしたところで大して何も起きないので、「手元にある次の仕事をちゃんとがんばろう」と思うほうが精神衛生上良いと思っています。

小説家は人生経験がそのまま生かせる仕事

「昔は小説家になりたかったんですよ」という声を聞くことがありますが、そんな人にどんな声をかけたいですか?

そんな人にこそぜひ小説を描いて欲しいですね。たとえば、今40歳だったとしたら、大学を出てから20年のキャリアを持っている。小説って、その人の持つキャリアがすべて、めっちゃくちゃ活かせる仕事なんです。だって、現役高校生が書く小説と、50歳で脱サラした人が書く小説は全然違います。さまざまな武器を持った作家が同じ土俵で本を出しているのが、この職業の面白さですから。本人次第で、これまでの人生全部が武器にできるんです。

職業として「小説家」を捉えると、今までとはまったく違って見えてきます。

「小説家」という名前から、芸能人やアーティストのような華やかさを感じる人もいるかもしれませんが、数多くあるフリーランスの一種ですからね。今はインボイスの勉強に追われてますし、毎年2月~3月は確定申告で大変です。私も毎月のように税理士さんと税金の話をしています。それがまた経験値になって小説に生かされることもあるかもしれません。

【額賀澪さんインタビュー 第1回はこちら】
【額賀澪さんインタビュー 第2回はこちら】
関連記事
この記事を書いた人

- 編集・ライティング
- 猫を愛する物書き。独立して20年。文章で大事にしているのはリズム感。人生の選択の基準は、楽しいか、面白いかどうか。強み:ノンジャンルで媒体を問わずに書けること、編集もできること。弱み:大雑把で細かい作業が苦手。