Interview
インタビュー

フリーランス小説家に聞く「小説家になれる人」小説家に必要なのは文章力や面白さより「書き上げる」力。すべての仕事に通じる「やり切る」力だった!

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小説家を目指すなら読んでおくべき、現役小説家が教える「小説家になるために必要なスペック」。受賞多数の額賀澪さんが大学で小説家志望の学生に教える「小説家への道のり」とは?

プロフィール

小説家額賀澪

1990年、茨城県生まれ。東京都在住。日本大学芸術学部文芸学科卒。広告代理店に勤めた後、2015年に『屋上のウインドノーツ』で松本清張賞を、『ヒトリコ』で小学館文庫小説賞を受賞し、デビュー。その他の著書に『タスキメシ』『転職の魔王様』などがある。

表現やクリエイティブの仕事に憧れるけど「私にそんな仕事ができるのだろうか」と考える人は多いのではないでしょうか。「私はフリーランスで小説を書くという仕事をしている」と語る小説家の額賀澪さんがどのようにして小説家になったのか、幼少期の体験について伺いました。(第2回/全3回)

選ぶ仕事に親の職業は影響するのか

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小説家という職業において、幼少期の家庭環境はどのくらい影響すると思いますか?

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うちは本を読まない家でしたね。小説家の中には、両親が読書家だったから自然と本にハマったという人もいますが、うちはそうではありませんでした。ただ、あるネット上の企画で、別の作家さんから「あなたの子ども時代は?」とインタビューされる機会があったのですが、そのとき「ああ、額賀さんは子ども時代、いい環境だったんですね」と言われたことがありました。

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そうなんですね。それは、どう「いい環境」だったのでしょう?

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うちが自営業をやっていて、両親も祖父母も皆働いていたことです。その姿を見ながら、なんとなく「仕事をする」ということについて体感で学んでいたのではないかと。自然と「仕事を自分で生み出す」という感覚や、能動的に働くという感覚が身についたというのはあるかもしれません。

「自営業の親を見てきたことが、フリーランスの土台になったと思います」

心に深く刺さったことは、情熱になり、仕事になる

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幼少期を振り返って「小説家」になるきっかけがあったとしたら?

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両親や祖父母は自宅にいながらも、子どもにずっと構っていられないから、ビデオを買ってくれました。だから、ディズニーやジブリをたくさん見られる環境だったんです。セリフをそらんじてました。見なくても次にくるセリフがわかる。インタビューしてくれた作家さんが「ディズニーとジブリのチョイスが良かったんじゃないか」と言ってくれて。ジブリはやはり、ものづくりという視点で見ても、ものすごく緻密に計算されていると思います。

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本を読むようになったのはいつ頃ですか?

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活字に触れた時期は遅いんです。「幼少期から絵本を読んでいました」みたいなことはなくて、小学2年生のときに出た『ハリーポッターと賢者の石』が最初です。ハリーポッターで本にハマったという人は同世代の作家でも多いですね。ハリーと歳を重ねるペースがほぼ一緒だったことも大きい。近い歳の主人公と一緒に歳を重ねて成長した、私たち世代には特別なファンタジーなんですよね。

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小説を書く具体的なきっかけはありましたか?

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小説を書くきっかけになったものといえば、ジブリの『耳をすませば』でしょうか。実は幼少期、『耳をすませば』と『紅の豚』は、うちにありませんでした。たぶん、親が「子どもは楽しくないだろう」と思って買わなかったんだと思いますが、小学生になってから金曜ロードショーで見て。「主人公が小説を書く」ということに、「そうか、小説って読むだけでなく、自分で書くのもありなんだ」と気づいたんです。

小説家になる絶対条件は「書き上げること」

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小説家になれる人、なれない人の決定的な違いは何でしょう?

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「小説家になれるかなれないか」でいうと、文章力とか面白いものが書けるとか、という前に、「ちゃんと書き上げられるかどうか」のほうが重要だと思います。もう何年も大学で文芸創作の授業を担当してるんですが、学生たちにはよく、「無理やりでもいいから、終わらせる!」と伝えています。

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小説家は孤独な職業でもありますよね。書き上げるために必要なものは何でしょうか?

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「小説について話せる仲間がいること」は、意外に重要な気がします。私の高校時代なんて特にそうだったんですが、小説を書いている子って孤独なんですよ。読書が好きな子はまあまあいるけれど、小説を書いている子はクラスに何人もいるわけじゃない。私は大学時代に文芸学科に通っていたので、「小説を書いている」って大っぴらに言える場所だったんです。普通に小説を書くことについて同世代で語り合えたのは大きかったですね。

「大学で文芸学科に入ってよかったのは、大っぴらに小説のことを語り合えるようになったこと」

好きなことを仕事にするには「好きではないこと」もやらなくてはならない

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額賀さんは、大学在学中から、いったん就職をして小説を書こうと思われていたのですか?

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もちろん在学中にデビューできればいいと思い、チャレンジはしていました。でも、大学のゼミの先生が「就職はしたほうがいいぞ」って言っていたんです。その先生は現役の小説家で、会社員は若い頃に3カ月だけ経験されたそうなのですが、「自分が小説家として会社勤めの人のことを書こうって思ったときに、会社員経験が3カ月分しかなくて大変だった」と。世の中の多くの人が会社員だから、会社員として働く感覚は持っていた方がいいと思いました。

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現在は、小説家として大活躍されていて、好きなことを仕事にされている額賀さんですが、過去の自分のように「小説家になりたい」という学生に強く伝えていることはありますか?

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過去の自分のように「小説家になりたい」という学生に強く伝えていることはありますか?
学生に対してよく言うのが「好きを仕事にするということは、好きじゃないことをいろいろやらなきゃいけないからね」ということです。時折、「小説家になりたい。コミュニケーションが苦手だから会社員になんてなれない」という子がいる。「小説家、めちゃくちゃコミュニケーション能力必要だよ」っていう話をすると、「え、無理無理!」って慌てる。

「好きなことだけをやっていればいい、という仕事はないのでは?」
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多くの人にとって「好きを仕事にする」ということは、「好きなことだけをやっている」ように見えているのかもしれませんね。

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だから、学生には、「小説を書くのが好きで、それを仕事にしたいなら、『苦手な人としっかり対話して自分のアイデアを通す』とか『お金の勘定を自分でちゃんとやる』とか、そういうことが必要になってくる。『好きをお金にする』って、決してずーーーーっとハッピーってわけではないんだよ」と口をすっぱくして伝えています。

【額賀澪さんインタビュー 第1回はこちら】


【額賀澪さんインタビュー 第3回はこちら】

この記事を書いた人

MARU
MARU編集・ライティング
猫を愛する物書き。独立して20年。文章で大事にしているのはリズム感。人生の選択の基準は、楽しいか、面白いかどうか。強み:ノンジャンルで媒体を問わずに書けること、編集もできること。弱み:大雑把で細かい作業が苦手。

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