Interview
インタビュー

資本主義の終焉―IT×哲学「5 年後の働き方と生き方」②不安が生み出す資本主義の限界がだからこそ「いい社会」「生きるとは」「幸せとは」の本質が必要になる〈尾原和啓×苫野一徳/第2話〉

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不安の元凶は何なのか、それをどう克服すればいいのか。IT の達人・尾原和啓さんと哲学者・苫野一徳さんが、誰もが抱える問題に切り込む対談、第2回。

尾原和啓

プロフィール

フューチャリスト尾原和啓

1970年生まれ。フューチャリスト。IT界の「ゼロイチ男」と呼ばれ、マッキンゼー・アンド・カンパニーにてキャリアをスタートした後、NTTドコモのiモード立ち上げ、リクルート、楽天など転職14回。『プロセスエコノミー』(幻冬舎)、『ダブルハーベスト』(ダイヤモンド社)、『激変する世界で君だけの未来をつくる4つのルール』(大和書房)などがある。

時代の転換点に立つ現在、不安にかられるだけでなく、自分の生き方の本質に目を向け、それを実現することが、状況を改善する第一歩になると苫野一徳さんは言います。

資本主義の限界だから「いい社会」の本質が知りたい

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資本主義が終焉するかどうかは分かりませんが、今日は資本主義の未来について考えるような時間もあってもいいかもしれないですね。資本主義の限界と言われるときには、成長の限界、格差の限界、環境の限界という大きな3つのポイントがあり、今まさに時代の大きな転換点にあると、多くの人が感じているんだと思います。 その中で、「いい社会とは」「生きるとは」「幸せとは」「自由とは」という本質にみんな目を向け始めていると感じています。今までそこがずいぶん抜けてしまっていたので、もう一度立ち直って考えたいという人が増えてきていることが、今、哲学者という存在が注目されている理由なのかなと考えています。

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今までの時代は、世界はずっと右肩上がりで成長していたので、その成長する世界をどうやって自分と紐付けていくかということを考えればよかった。
でも、もう右肩上がりではなくなってきているし、もっと言えばこのまま右肩上がりで行くと、地球がもたなくなるということを、ようやくみんなが考えるようになってきた。
そうなった世の中で、「自分の幸せってなんだっけ?」と考えるようになってきたんですね。

自由な生き方を個人が考え、実行できること

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ええ、そこが本当に大事だと思うんです。私の仕事は、みんなが自由になれる社会や経済、教育のシステムを考えることだと思っているし、こういうことを考える人がもっと増えなければいけないとも思っています。 民主主義社会というものも、2〜3世紀前に、西洋の哲学者たちが中心になって作り上げたものです。このときと同じように今の行き詰まった社会を、みんながより幸せに自由になれる社会や経済のシステムとして構想し直さなければならない。また、「自分がより自由に生きられる生き方とは」ということを、個人個人がもっと考えて、それを実現していくような道筋、尾原さんが示してくださっているような生き方が、もっと広がって、「こんな生き方もできるんだ」「そうしたいな」というものが広がっていくことも重要だと思います。

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そうですね。みんな“自分らしい”とか“個性”という言葉が好きですけれど、本当の意味でそれを磨くことができるようになっていくんでしょうか。

本当の意味で“自分らしい”を磨けるか?

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それをできるような社会システムを作らなければいけないと思うんですよね。1950 年からしばらくの間、資本主義の黄金期で「みんな自由に、平等になれる」と思えた時期があったんです。 それが今、格差が広がってきて、近代の夢が潰えるかもしれないというところにきている。ただ、これを“資本主義の終焉”と言うのではなく、次のステージに押し上げることを考えるべきだと私は思うんですね。

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どうアップデートするかってことですね。

資本主義の暴走の原因は「不安」

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そうなんです。ユルゲン・コッカの書いた『資本主義の歴 史』という本に、資本主義のそうなんです。ユルゲン・コッカの書いた『資本主義の歴 史』という本に、資本主義が大きく3つあげられています。そのひとつが、誰もが私的所有権を持っているということ。 これによって、「みんな経済社会では対等な一個人だよ」ということをルールとしたわけです。 2つめはあらゆるものを商品化したということ。 3つめが金儲け第一主義というか、未来の利潤を最大化す る社会システムということです。 これはあくまでも理念型、つまりモデルであって、これがすべて実現した社会は後にも先にもありません。ただ、これがあまりにもいき過ぎると、必ず富が集中してしまい、格差が拡大してしまいます。それは長く見積もると 1000年近くある資本主義の歴史からみても明らかです。が、同時にこれまで資本主義は、必ず国家が集中する資本を抑制したり、労働者の権利を守ったり、資本の再分配のようなことを行なってきました。 ただ、70 年代以降、国家による規制がずいぶんなくなり、資本が一部に偏っていくことが起こりました。ということは、フォーカスすべき問題ははっきりしていて、いかにこの暴走する資本主義を、「民主的によく、規制された資本主義」にしていくかを考えればいいわけです。ただ、そのための理論も技術もまだ十分そろっていません。でも逆に言えば、アップデートのための課題がはっきりすれば、それに対してみんなの知恵を集結することができるということ。資本主義がなぜ暴走するかと言うと、ひとつは不安なんです。

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お、ここで急に哲学に振りましたね。

恐怖のはじまりは「競争」

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まず、競争で淘汰される恐怖、不安ですね。そしてもうひとつは、借りたものを返さなければならないという恐怖。自己資本だけでビジネスはできないから、融資や投資をしてもらう。それを返すために拡大せざるを得ないという宿命を負っている。 この2つの不安を鎮められる仕組みと、暴走する資本主義をいかに民主的に規制していくか、この辺りを焦点化して考えれば、次の資本主義をアップデートできるんじゃないかと思っているんです。あらゆるものを商品化する中で自分さえも商品化 これ、めちゃめちゃ本質的な話ですよね。さっきの資本主義の特徴を聞ききながら、資本主義の終焉を個人としてどう捉えるかと思ったときに、あらゆるものを商品化したなかで、いつの間にか自分も商品化しなければならなくなった、もしくはそういう囚われが起こってしまった。 だから、会社は社会で競争しなければならないけれど、同時に個人も競争せねばならなくなってしまったと。すると、個人も拡大しなければ捨てられる、もしくは生き残れないという不安に囚われてしまうわけで、それが今の資本主義の一番の本質なのかもしれないということですね。 一方で教育に関して言えば、ここ 10 年で教育コストが上がりました。アメリカで言えば倍以上になってしまって、大学入学のために1人 400〜500 万円ぐらいの借金を背負わなければならないんです。いつの間にか個人の成長も、借りたものを返さなければいけないようになってきている。いつの間に資本主義の暴走が個人にまで飛び火してしまったんでしょうね。

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なるほど。

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それが本当に問題を体現しているから、誰もが「これはおかしい」って思うんでしょう。なぜ教育を受けるために借金を背負って社会に出ていかなければならないのかって。 やっぱり社会がその不安をできるだけ取り除いて、金儲け至上主義ではなく、みんなが自由に生きられるような仕組みをどうすれば作れるのか、ここに行き着くのではないかと思うんです。考えてみれば、「売り手と買い手と社会にとって良い、そんなビジネスをしていきましょうよ」という、近江商人の三方良しの知恵がずっと昔からあったわけですよね。ここに帰ればいい話で、その仕組みを考えるのが、哲学や経済学の大事な課題だと思っています。 また一方で、私達自身が新しい生き方を自ら作っていかなければならないわけです。 ヘーゲルが「ミネルバのフクロウは黄昏時に飛び立つ」という有名な言葉を残していますが、あれって「哲学は後になって気づくんだよね」っていう意味なんです。

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そういう意味だったんですか。なんかめっちゃカッコいいなと思ってました。

ヘーゲル的に「尾原和啓の生き方」は本質

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あれは、哲学ってちょっと後追いなんだよ、哲学はいつも遅すぎるんだっていう話なんです。もっとも私自身は、「ミネルバのフクロウは夜明けを連れてくる」とも言っているんですが(笑)。後追いばかりするのではなく、ちゃんと未来を先駆けて作っていかなければならないと考えています。

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夜明けを連れてくる、んですか?

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ヘーゲルに戻ると、例えばナポレオンがバーっと時代を切り開いた後に、「これからの時代の本質はこれなんだ」と哲学が気づくという感じなんです。だから尾原さんをはじめ、アーティストや起業家など、時代を先取っていく人たちの存在が先にあって、「これからの社会はこういう感じで行くぞ」という本質を、後になってつかみ取っていくのが哲学者の仕事だというのがヘーゲルの言い方で、実際、そういうところは確かにあるんです。だから、尾原さんが示してくださった生き方というのが、多くの人の役に立つと思っているんです。

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哲学と資本主義の終焉がだんだん……。

第3話に続く

*これは 2022 年2月に I am で行われた対談イベントを記事にしたものです。

〈著書紹介〉

『子どもの頃から哲学者』(苫野一徳著)
『激変する世界で君だけの未来をつくる4つのルール』(尾原和啓著)

取材/I am 編集部

◆第1話◆

場所と時間が変われば「価値」が変わる。自分の持っている知見や経験を最適な場所で発揮させるという5年先を行く働き方とは?

この記事を書いた人

I am 編集部
I am 編集部
「好きや得意」を仕事に――新しい働き方、自分らしい働き方を目指すバブル(の香りを少し知ってる)、ミレニアム、Z世代の女性3人の編集部です。これからは仕事の対価として給与をもらうだけでなく「自分の価値をお金に変える」という、「こんなことがあったらいいな!」を実現するためのナレッジを発信していきます。

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