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海外出稼ぎは実は危険? 経済記者が考える1ドル=150円の「超円安」がキャリアに与える影響

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働く人が知っておきたい経済の話。外国為替市場で円相場が1ドル=150円を突破しました。当面は続くとの見方が多い「超円安」時代は、あなたのキャリアにどのような影響を与えるのか。経済取材歴20年のベテラン記者が、これから選ぶべき業種や働き方について解説します。

10月3日の外国為替市場で、円相場が約1年ぶりに1ドル=150円を突破しました。市場では、当面はこれに近い水準の円安ドル高が続く可能性が高いとみられています。ほんの少し前までは、ニュースで「大谷の年俸は500万ドル」などと耳にしたら、「1ドルがざっくり100円だから、500万に100をかけて・・・」と計算していたのに、あっという間に150円。ここまで大きな変化が起きると、私たちの人生にも大きな影響がありそうです。経済記者として20年間、日本経済の動きをウォッチしてきた筆者が、「1ドル=150円時代」がみなさんのキャリアに与える影響を分析します。

ボロボロになった製造業が一気に反転攻勢へ

まず気になるのは、今後の転職先として選ぶべき業界、避けるべき業界はどこかということでしょう。超円安時代に選ぶべき転職先は、ずばり、製造業です。しかも、国内に大規模な製造拠点を持っている、重厚長大型の企業ほど追い風を受けることになります。

国内製造業は、長い間「いいところなし」の状態が続きました。かつて「ジャパン・アズ・ナンバーワン」などとこの世の春を謳歌したものの、1990年代後半から2010年代にかけて、見る影もないほどズタズタのボロボロに凋落します。

かつてはワールドカップなどの国際的なイベントのスタジアムには「東芝」「シャープ」「日産」といった日本企業の広告が躍っていましたよね。東芝は大赤字で主要事業がバラ売りされ解体状態、シャープは台湾企業に買収され、日産は一時仏ルノーの傘下に入りました(現在は対等な資本関係に)。三洋電機や日本ビクターなど、買収や経営統合で姿を消してしまった会社もたくさんあります。

様々な理由が語られてきましたが、著者は結局のところ行きすぎた円高が長期間にわたり続いたこと原因だったと考えています。日本で作った200万円の車を海外で売るとき、1ドル=100円なら1台2万ドルですが、1ドル=80円だと1台2万5千ドルになってしまいます。「安くて高品質」というメイドインジャパンのメリットが完全に失われ、日本でものづくりをするのは不可能と言っていい状況になってしまったのです。

ですが、今は1ドル=150円です。200万円の車を1万3千ドルで売れてしまいます(2万ドルで売ったら利益が7千ドル増えます)。この水準が長期にわたり続くとするならば、当然ながら半ば休眠状態だった国内の生産拠点はフル稼働になりますし、一度は海外に移した製造拠点を国内に戻す動きも加速するはずです。

注目したいのは、かつて「産業の米」といわれた鉄です。日本製鉄やJFEではこれまで、鉄を作り出す高炉を止める流れが続いてきました。もしも長年休止させていた高炉を再稼働させる動きが出てくれば、国内でのものづくりに再び火が付き、潮目は一気に変わると思います。今から転職するなら、輸出中心の製造業でしょう。

「どこで働くか」も重要に 海外出稼ぎは危険

製造業やサービス業は今後、人手不足が深刻化する可能性があります。理由は、外国人労働者の比率が高いから。円安が続き円の価値が下がれば、外国人労働者が日本に出稼ぎに来る魅力が薄れます。外国人労働者が減ってしまうことはリスク要因でもありますが、人手不足を補うため賃金が上昇する可能性も高くなります。

サービス業の場合は、「どこでやるか」の場所選びが重要になります。大きな工場がある街は生産拡大で人口が増えますし、街を行き交うのはお財布が温かい人たちばかり。これまではちょっと寂れた雰囲気が漂っていたであろう工場城下町で働けば、円安の恩恵をばっちり受けられるはずです。「お店を開こうかな?」なんて考えている人は、工場城下町が狙い目だと思います。

円安の文脈で最近しばしば目にするのが「日本から海外への出稼ぎ」です。たしかに、アメリカで月給3000ドルの仕事に就いたとすれば、1ドル=100円なら30万円ですが、1ドル=150円ならなんと45万円です。

ただし、物価も大きく違うという点を忘れてはいけません。日本にいるときと同じ感覚でお金を使っていたら、貯金をするどころかあっという間に家計が逼迫してしまうはず。海外出稼ぎでメリットを得られるのは、ITなど現地でもかなり高いレベルの給料をもらえるスキルがあり、しっかりと節約できる人に限られると思います。バイト感覚での海外出稼ぎは、おすすめできません。

フリーランスや契約社員の道を選ぶのは慎重に

同様におすすめできないのは、輸入した原材料を使い、国内の消費者向けにビジネスする業種です。電力、ガスなどのエネルギー関係や外食産業、輸出の比率が低い食品メーカーなどがこれにあたります。

円安で上がった輸入コストを価格に転嫁できればいいのですが、長く続いたデフレのため消費者の財布のひもはカッチカチ。昨年から今年にかけては値上げの動きが続きましたが、消費者の不満はもう爆発寸前。これ以上の値上げはどんどん厳しくなっていきます。

もう一つ、フリーランスや契約社員といった働き方も、おすすめしにくくなると思います。日本は食料やエネルギーを輸入に頼っているため、円安が長期化すれば物価も高止まりしてしまいます。さらに円安が進むようなことがあれば、生活に必要な出費はどんどん増えてしまいます。たとえば年3%の値上げが10年続けば、1杯1000円のラーメンは1300円を超えてしまう計算です。

フリーランスや契約社員といった働き方はにはもちろん魅力もたくさんあるのですが、物価上昇が続く中で収入アップを見通しにくいという点において、超円安時代には慎重な選択が求められそうです。

(執筆:華太郎)

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