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絶対に失敗するカフェの作り方カフェは個人経営のほうがうまく行く?「コスト削減」ではなく「ちょい増し」するだけで選ばれる店になれる。

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喫茶店を取り巻く厳しい環境の中で「選ばれる店になる」ためには? 行列が絶えない人気喫茶店「珈琲文明」のマスターが語る、選ばれる店になるために必要なこと。

プロフィール

珈琲文明店主赤澤智

(あかざわ・さとる)昭和42年生まれ。メジャーデビューを目指しバンド活動をしながら12年間塾講師としても活動。大手学習塾の教室長及びエリアマネージャーとして4年半正社員として働いた後、2007年40歳の時に横浜市白楽にカフェ「珈琲文明」を開店。創業開始から今日に至るまでの16年以上(コロナ期間も含め)1度も赤字になったことがなく、黒字で長く続けられる経営を心掛けている。著書に「人生に行き詰まった僕は、喫茶店で答えを見つけた(祥伝社)」がある。

喫茶店を出したい、カフェをやってみたい、と思う人が抱える不安といえば開業資金、そして集客ではないでしょうか。「店に客が来るだろうか」―珈琲文明のマスター赤澤智が伝える「選ばれる店になる」ための超簡単な方法とは?

総合得点が1位の店だけが一人勝ちする!?

A、B、C、Dの4つのお店があるとします。

立地条件は同じですが、それぞれに総合得点がつけられているとします。

A店・・・70点
B店・・・60点(ここを平均点ラインとします)
C店・・・50点
D店・・・40点

だったとき、100人の人がこれらのお店のどこに行くかイメージしてみてください。高得点のお店から各40、30、20、10人みたいなバランスにならないのは容易に想像できるでしょう。そして、今これ見た人のほとんどは「ものすごーく格差があるはずだ」と思っているのではないでしょうか。

「A店が70人、Bが30人でC、Dのお店は0人」とか、「CとDではそれなりに差はあるはず」とか、「80:20パレートの法則だ」とか、いろいろ意見は出るでしょう。

ズバリ言います。
「Aが100人でその他は全部0」です。

え? あまりに極端過ぎですか?じゃあ、「Aのお店だけが黒字でその他は全て赤字」と言い換えてもいいですよ。これ、大げさな話じゃなく実状を見ると本当にこんな感じなのです。

カフェ飽和時代の今、選ばれるが必須

まず、喫茶店という業態が今いる地点を見極めてみましょう。

喫茶店は、1980年代が「普及の時代」でした。この頃ならば、Bの平均点のお店も黒字が十分に出せていました。

しかし今は、有り余るほどおしゃれなカフェや喫茶店が軒を連ね、チェーン店もひしめく状況です。そう、今、喫茶店は「選択の時代」にいます。これだと、平均点のお店など見向きもされません。下手をすれば、SNSなどで、CやDのお店のほうが謎の盛り上がり(笑)をみせるかもしれません。

選ばれる店になるには、時代を見抜く力も必要

はい、これがカフェ、喫茶店の実状です。

「だから皆さんはAのお店を目指しましょう!」って話で終わっては面白くないですよね。実は、実際にこれで終わっているコンサルがたくさんいて、指南書もたくさんあり、路頭に迷う人が量産されているのですが、私は、今回、「ではどうする?」まで踏み込みます。

人気カフェに育てるための奥義「チョットだけ上回る」

「出し惜しみ無しの大盤振る舞い」がこの連載と私のモットーです。

だから、どんな厳しい時代にも選ばれる店になる奥義をお教えしましょう!

それは……

「チョットだけ上回る」です。

「は? 何それ」「それだけ?」という声が聞こえてきそうですが、ここで閉じずにぜひもう少し先まで読んでみてください。
この「チョットだけ上回る」って、多くの人がやっていないすごい技なんです。

突然ですが、プロ野球のかなり優秀なピッチャーに例えて話をします。
「かなり優秀な」ピッチャーって、どんなピッチャーだと思いますか? 
あくまで主観&偏見になりますが、「かなり優秀な」ピッチャー、それは、二ケタ勝利どころじゃなくて、沢村賞レベルのピッチャーは実はそんなに他のピッチャーと実力の差はないのではないでしょうか。なんたってプロの投手はみんな高校じゃ「国一番のエースで4番」だったりしたわけですよね。

そんなエース級のピッチャーよりほんの少しだけ上回ることでプロ野球界でのエースと呼ばれている……気がしません? 

ほんの数ミリだけスライダーの曲がりがイイとかそういうレベルなわけです。もちろん、「それは【ほんのチョット】じゃないんだよ、素人はこれだから困る」という声、ガンガン聞こえてきそうですが、これは他のアスリートにも言えること。

だから、敢えて言いますが「ほんのチョット上回って」いることで一流選手になっていると思うのです。

大谷翔平やダルビッシュ有など、明らかに別次元と言っていい選手たちにさえも当てはめたいので、もちろんこの「ほんのチョット」がどれだけスゴイことかは言うまでもありませんが、とにかく「ほんのチョット」の差が勝敗(商売の世界では「黒字と赤字」)を分けます。

「ほんのチョット」が運命の分かれ道

「標準値」に対して「チョット多め」にするだけ

「じゃあ、どうやったらチョットだけ上回れるのか」なのですが、これ、超絶シンプルです。

それは、「チョット多めにする」というだけ。

まずは、自分が出そうとしているメニューのこの世の中の「標準値」を原材料レベルまで突き止めてください。

コーヒーなら1人前に10gの豆が標準値とされています。お米ならご飯茶碗1杯分ですよね。じゃあ、パスタなら……? ケーキなら……? ありがたいことにいつの間にか世の中では、勝手に標準値が決まっています。これを活用しない手はありません。

これらの目に見えて加算可能なモノにはとにかく何かと「少し多め」を心がける、本当にこれだけでいいんです。そして、大事なことなのですが、これって「努力も才能も関係ない」ということ。ただやればいいだけなんです!

個人経営は「コスト削減」よりも「ちょい増し」で

これが大型チェーン店になってくると話は別。企業努力として「コスト削減」というのがありますよね。原料をほんの数グラム減らすだけで利益が何億と違ってきたりするので、もちろん引き算は大切です。

しかし個人店が引き算をすれば、利益以前にそもそも人が来ないので店は潰れます。

足し算は確かにコストがかかりますが、アスリートやアーティストにとっては喉から手が出るほどほしい「ほんの少しのアップ」が簡単に手に入るんです。すごくないですか?

ただし、「質、量ともに多め」に関しての注意として、やみくもに増やすのではなく、とにかくまず「標準値」をあらゆる部門において突き止めましょう。そして、そのほんの少し上をいく。これだけです。

どのくらいが「ちょい増し」かを数値化する

人間の体温は37℃を超えると具合が悪くなるように、ビールもアルコールが5~6%を超えてくると「強め」と感じるように、いろんな部分で「キモとなる標準値」は存在します。

そこを徹底的に突き止めてください。

コーヒー1杯で言えば基準値が10g。でも、少し多めである12g程度だと出している喫茶店はザラにあります。しかし、15gあたりからグっと重厚感は増してきます。

私のお店「珈琲文明」ではお1人様に対して23gの豆を使用しています。これはもはや「少し」じゃなく大幅に上回っているので味の違いもさすがに素人の人でもすぐわかります。

ちょっと増しどころではない珈琲文明のサイフォンコーヒー(写真提供:珈琲文明

珈琲文明はコーヒー専門店ですのでメインメニューであるコーヒーにはこうして圧倒的な違いを出していますが、その他のドリンクにしても通常であればコップに8分目の量が多いところを9分目まで入れることにしていますし、コーヒーに至ってはお1人様につき約1.5杯分の量が入っています。

メニューだけでなくテーブルサイズや照明の明るさも

さらにこれはメニューの質量だけに限った話ではありません。

天井の高さ、カウンターの奥行の寸法、照明の光度など、明るいからいい、暗いからいいじゃなくまずは標準値から計算して全ての面で、ほんの少し上回るようにします。

多岐にわたる様々な部分のスタンダードを突き止め、それを上回る(場合によっては意図的に下回るのもありですが、これについてはまた今度)ようにするのです。

「チョットだけ上回った」店は最高に心地よくなる

例えばカウンターの奥行は30~40cmが一般的ですのでここで50cm以上の奥行にすることでグッと居心地がよくなり、「カウンターはテーブル席より地位が低い席」みたいな感覚はなくなりますし、またカウンターの奥行を広めにとったところで実は店内のお客様動線及び作業動線を侵害することにもならずデッドスペースが生まれることにもならないものなのです。

もちろん予算的な限界等は生じます。そこではじめて優先順位など、知恵を絞って考えるようにするということです。これについてはまた追々お伝えしていくことにしましょう。

こうして様々な部分で「他よりチョットだけ上回る」ことで、お店は冒頭のAのお店になれます。黒字で長く続き多くの人に選ばれるお店となることでしょう。


メソッドを2020年に初の著書として出版。「人生に行き詰まった僕は、喫茶店で答えをみつけた

次回は、喫茶店を開く際の立地についてお伝えしますね。
珈琲文明店主、赤澤智でした。

この記事を書いた人

赤澤智
赤澤智珈琲文明店主
脱サラ後40歳でカフェ経営を始め16年。
強み「しっかり腹落ちしたことならば成果が出るまで粘り強くいつまでも続けられる」。
弱み「人見知りが激しく、興味のない物事(人含む)にはまったく関心がない」

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