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絶対に失敗するカフェの作り方コーヒーが美味しい小さなカフェで、ジュースの価格を下げると経営が行き詰まる理由

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横浜で土日の行列の絶えない喫茶店「珈琲文明」のマスターがお伝えする、小さなカフェの立ち上げ方。今回のテーマは「値付け」です。

マスター1人で経営する小さなカフェを立ち上げて、長く続けていく方法をお伝えしていくこの連載ですが、驚くほど具体的に、かつ「絶対に失敗する方法」をお伝えしながら、逆張りをすることで成功へと導くメソッドを公開しています。今回は、個人店、マスター1人の小さなカフェの値付けの仕方についてお伝えしていきますね。

珈琲文明の店主・赤澤智がお伝えします(写真:珈琲文明提供)

「原価に一定割合の上乗せ」はやってはいけない値付け方法

はい、まず非常に多くの人がやりがちな「やってはいけない値付け方法」……つまり、絶対に失敗する方法をお伝えしますね。

それは「原価に一定割合を上乗せする」というものです。

というと「え!? 原価は定価の3割とか、よく聞くじゃん」と言われるかもしれませんが、それ自体は間違いではありません。ただ、安直に原価を3割にしようとして、100円で仕入れたから300円で売る、というような単純計算での価格設定がNGだということ。

これは個人店のカフェのみならず大手チェーン店にしても同じ。いや、実は、大手チェーン店こそこの考えで売っていないんです。

例えば、某大手ハンバーガーショップでハンバーガーの原価は高いが、ポテトやドリンクの原価はとんでもなく安いであろうというのは、多くの人が想像がつくと思います。

これ、極端なことをいうと、お客さんが全員ハンバーガーの単品だけを購入する店になってしまったならばあの一大巨大企業の経営が破綻してしまうということなんです。

ですから、「原価と定価の割合はアンバランスであること」がまず常道だと心得てください。

大手チェーン店はバックエンド商品で利益を得るのが正しい道

この話をもう少し詳しくするためには「フロントエンド商品」と「バックエンド商品」という考えを知っておく必要があります。

簡単に言うと「フロントエンド商品」とは「客寄せパンダ商品」のことで「バックエンド商品」とは「利益はここで得る商品」のことです。

先の大手ハンバーガーショップの例で言えばもちろん「フロントエンド商品=ハンバーガー」で「バックエンド商品=ドリンクやポテト」ということですね。

他にもフレンチレストランなら「フロントエンド=メイン料理」で「バックエンド=ワイン」寿司屋なら「フロントエンド=寿司」で「バックエンド=日本酒」ということになるでしょうか。

牛丼屋やラーメン屋のフロントエンドは「牛丼」であり「ラーメン」で、バックエンドは「大盛り」であったり「トッピング」であったりします。

つまり多くの飲食店では看板メニューそのものではほとんど利益を得ておらず、意外な部分(バックエンド)こそがキャッシュポイントなのです。

個人経営のカフェでは客寄せ商品でしっかり利益を得る

さて、大事なのはここからです!

大手チェーン店を含む、多くの飲食店のキャッシュポイントが「バックエンド商品」にあるとしても、「個人店のカフェ」はこれを絶対にやってはいけません。

個人店で、大事なのは「フロントエンド」つまり「客寄せ商品、看板商品」でもしっかりと利益を得るということ。

そもそも個人店では「フロントもバックもない」と考えるべきなんです。

マスター1人の小さなカフェでは、メニュー数を絞り込むというのも鉄則。なので、とにかく看板商品でしっかりと利益も出すというところがまずは出発点です。

それを踏まえて、個人店での値付けの仕方について述べていきます。

まず、あなたのお店の4番バッター、圧倒的主力商品の値段を決める

赤澤メソッドでは「ドリンク中心、ランチを出さない」のが本流ですので、まずメインドリンク、仮にここでコーヒーとしておきます。

コーヒーの価格は600円以上、あるいはどんな田舎や地方でも500円以上としておきましょう。

原則としてその他のドリンクはコーヒーの値段と同価格で上下に設定する

これは「松竹梅商法」と呼ばれる方法です。最も売りたいものをまず据えて、それの上と下を用意することによって中が売れていく、というような手法も取り入れます(※ただしここではほとんどを「中」が占めるような構成としていきます)。

ではどういうものを「上」つまりとりわけ高い商品にするのかというと、「仕入れ値が高いもの」という声が聞こえてきそうですが、実は、他にも検討する要素があります。それは、「オペレーションに時間を要するもの」「お店のコンセプトから外れるもの」も、高額設定にすべきだということです。

珈琲文明のサイフォンコーヒー(写真:珈琲文明提供)

あえて「頼まないで」というメッセージを込めた高額ドリンク

コーヒーの値段と同価格で、他の飲み物を上下に設定するーー。

これについて、実際に私のお店を例にして詳しくお話ししますね。

通常のコーヒーに比べて「カフェオレ、紅茶、ビール」は高額設定にしています。

カフェオレはお客さんの目の前で実際にポットを左右から注ぐデモンストレーションがありさらにミルクを鍋で沸かすという工程も少し時間がかかります。

また紅茶は「ここはコーヒー専門店だからコーヒーを飲んだほうが絶対に得だよ」というメッセージで、さらにビールに関しては「なるべく頼まないでほしいけどどうしても頼みたいっていうならこの値段で」という辛辣なメッセージなんです!(※こうすることで酔っ払いが騒ぐといった店内居酒屋状態を回避できます)。

かつて当店では「ココア」と「スパイシーミルクティ」というものもあり、いずれも800円近くしていました。いずれも作業動線が他のコーヒー等とは異なる動きとなりそれだけに時間がとられてしまうので、高額商品となりました。

が、これが結構出るんですよね!

ただ、流石に、大量に出るとオペレーションが総崩れしてしまうため、そういうメニューはガツンと値段を上げるのがコツです。

ソフトドリンクは少し安めに設定するも割と強気でいく

いっぽう今度はコーヒーよりも安い飲み物について見ていきます。

珈琲文明でコーヒーよりも安いドリンク……それはソフトドリンクです。

ジュースは原価も安いこともあり、先に述べた「原価を元に価格設定する」というやり方をするととんでもなく安い値段になるので、これは、絶対にやらないようにしてください。

途端に多くの人がジュースを頼むことになり、コーヒー専門店というブランディングも大失敗します。

ですから安値にするにせよせいぜい看板商品よりも50~90円以下に抑えておきましょう。

スイーツはセットにして千円でお釣りがくる設定にする

次にスイーツ類の値付け方法について、まず、前提として「ドリンクが出た上でさらに追加オーダー」として成立するという考えのもとで値付けを考えます。

単品での値引きは「絶対しない」こと。

ドリンクとのセット割引のみ適応します。

おそらく皆さんにとって参考になるのは現在の珈琲文明の価格設定よりも創業当初の値段のほうだと思うので、その時私が考えた方法論をお伝えします。

それは「セットにして千円でお釣りがくる」という価格です。

創業当時、文明ブレンドが600円、ケーキが480円で同時に頼むと100円引きになるので980円になります。

また、これはちょっと数字のマジックのような話になりますが、人は偶数のほうが安く感じ、奇数は高く感じるとされています。

つまり970円となるとちょっと高く感じるのにそれより高いのに980円だと千円しないんだとなるような感覚です。

こういうことを知っておくのと知らないのでは年間通じてその利幅(970円で売ったのと980円で売った場合の10円の違い)は恐ろしく変わってきます。

他にも心理学が根底にある効果的な値付けの手法というものがいくつかありますので、興味がある方は「フレーミング効果」や「アンカー効果」などのワードで検索してみてください。

個人的に強く思っていることはやはり小手先の値付け技術などではなく、「ちょっと高いけど凄く美味しい商品」というものを真剣に追及することです。消費者もそれをしっかりと支持するものだと思いますし、それは逆にいえば小手先の値付けに騙されるほど現代の消費者はバカではありません。

絶対的に自信のある看板メニューであればその情報発信をする熱量は自然に上がるものですし、それはお店や店主の態度や姿勢にも表れるはずですので、自信を持って堂々とそのメニューで勝負していくようにしてください。

グッドラック!

珈琲文明店主・赤澤智でした。

この記事を書いた人

赤澤智
赤澤智珈琲文明店主
脱サラ後40歳でカフェ経営を始め16年。
強み「しっかり腹落ちしたことならば成果が出るまで粘り強くいつまでも続けられる」。
弱み「人見知りが激しく、興味のない物事(人含む)にはまったく関心がない」

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