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人生を変えるI amな本あなたの思考力をアップグレードする「地頭力」とは?

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思考力を高める方法は巷に溢れている。15年もの間、多くのビジネスパーソンの思考力をアップグレードし続けてきた細谷功氏の「地頭力」ほど堅実なものはない?

時代をくぐり抜けて認められた「地頭力」とは?

「地頭力」という言葉を聞いたことがありますか?


読み方は「じあたまりょく」。日本史好きなら、「じとうりょく」と読んでしまったかもしれませんが、コンサル業界の用語から派生した言葉です。


意味は、「仕事や人生の問題をスピーディーに解決し、さらには新しいものを創造することができる『考える力』」。一種の思考法といえるでしょう。


この造語を生み出したのは、ビジネスコンサルタント・著述家の細谷功さん。「地頭力」という言葉を一般に広め、ビジネスから日常生活までわかりやすく解説した『いま、すぐはじめる地頭力』(2008 年、大和書房)がベストセラーとなりました。この本を今の時代に合わせてアップデートした増補新装版『今すぐできて、一生役立つ 地頭力のはじめ方』(大和書房)が今また注目されています。


15 年を経て色あせない「地頭力」とは、どういった思考法なのでしょうか。そのエッセンスを一部紹介しましょう。

「仮説思考力」ー結論に自分を置く

インターネットやスマホ、AIの発達によって、大概の知識や情報は容易に手に入れられる時代になりました。物知りであるだけでは、強みとならない時代となったのです。そんななか、重要性を増しているのが、自分の頭で考える力=地頭力です。入手した知識・情報に自分なりの付加価値をつけて発信することが、大きな強みとなるわけです。


細谷さんは、地頭力を下図のような三層構造としています。

『今すぐできて、一生役立つ 地頭力のはじめ方』(大和書房)より

もっともベースにあるのは知的好奇心。「なぜ?」という問いかけで思考力を起動します。さらに論理思考力と直感力が地頭力を下支えします。


その上で、3つの応用的な思考力「仮説思考力」「フレームワーク思考力」「抽象化思考力」が必要となります。これらが重要な屋台骨となります。


「仮説思考力」から順に見ていきましょう。これは、最終目的地たる結論を仮設定し「無理やりにでもそこに自分を置いてみる思考法」です。これについて、次のような説明があります。

具体的には、①いまある情報での最善の結論(仮説)を想定し、②情報の精度を上げていきながら適宜その仮説を修正し、③最終結論に至る思考プロセスのことをいいます。仮説思考することのメリットは、結論をある程度想定しておくことで最終結論に至るまでの情報収集や分析の作業を最短かつ最小の労力にできることです。(本書 88p より)

もしかして、「難しい…」と思いませんでしたか? この思考法を妨げるものに、ある程度の精度がなければ意味がないという「完璧主義」や、今ある情報では足りず、もっと情報が必要だという考えがあります。このハードルは乗り越える必要があるのです。


とはいえ、切羽詰まった時は、誰でもこうした思考法を実践していると、細谷さんは指摘します。例えば、寝坊して約束の時刻に遅れそうなとき。その時刻に到着するには、いつまでに何をすべきか、目的地から遡って考えるでしょう。この時間的な切迫感は意外と大事で、むしろ「切羽詰まった状態をつねにつくる」ことが、仮説思考力の秘訣だといいます。

「フレームワーク思考力」―課題の外枠を押さえる

2つめは「フレームワーク思考力」。こちらは、①対象物の全体を俯瞰して「外枠を押さえ」てから、②全体の枠をさらにある特性に従って「分類・分解する」というプロセスからなります。


ここで、「外枠を押さえ」るというのが気になるかと思います。まず下の図を見てください。

『今すぐできて、一生役立つ 地頭力のはじめ方』(大和書房)より

これは、取り組みたい事柄を模式的に表したものです。そこには、たくさんの課題が散らばり、ぼんやりとした枠が形作られています。多くの人は、自分の身近な領域にある課題から手をつけ、少しずつ外側に広げてゆく「ズームアウト型」の思考法にするでしょう。あるいは、思いつくままにあちこち着手する「虫食い型」を選ぶかもしれません。


細谷さんは、ズームアウト型であれば「わかるところ」しかわからない、虫食い型であれば「モレとダブリが発生する」など、いずれの思考回路も欠点があることを指摘しています。対してフレームワーク型の場合、「わかろうがわかるまいが、わからないところも含めて」全体(外枠)を押さえてしまいます。課題のモレやダブリをなくし、全体を均等な視点で見ることができるというメリットがあります。

『今すぐできて、一生役立つ 地頭力のはじめ方』(大和書房)より

「お客様の要求が次から次へと増えてくる」は、営業担当者あるあるですが、これは「ズームアウト型」や「虫食い型」の思考法が原因のことが多いそうです。これが「外枠を押さえ」る発想では、(わからないなりに)お客様が要望してきそうな可能性の全体像を押さえてしまうのです。モレやダブリの可能性もチェックして、こちらからお客様に確認してしまう。そうすれば、要求が後からどんどん増えてくるという問題を防げます。

「抽象化思考力」ー枝葉はあえて切り捨てる

3つめが「抽象化思考力」。ここでいう「抽象化」とは、「ある目的に合った物事の特徴を抽出し、それ以外の特徴はすべて枝葉として切り捨てる」というものです。

本書では、「スニーカー」が例に挙がっています。A くんが1足のスニーカーを持っている場合、「A くんの左のスニーカー」と「A くんの右のスニーカー」という具体的な表現がまずあります。それを抽象化すると、「A くんのスニーカー」となり、さらに抽象化すれば「スニーカー」そして「履物」となります。


このように抽象化する目的は、「一つの分野の知見を共通の特徴を持つ他分野にも適用して応用範囲を広げる」ためです。人は、自分の専門分野について「瑣末なものにこだわってしまう」という性質があります。また、「自分の置かれた環境は特殊である」という思い込みも往々にして見られます。そのせいで、進歩や変革から取り残されやすくなるのです。そこで、瑣末な枝葉を切り捨てたり、他の環境との共通点を見つける抽象化思考力が役に立つというわけです。


さらに細谷さんは、抽象化思考力は「単純に考える」ことだとも説いています。ただ注意したいのは、「単純」は「短絡」とは似て非なるものである点。何か新しいツールに触れたとき、素晴らしいと妄信したり、逆に全否定してしまうのが短絡思考。「長所と短所を把握した上で最大限に活用しようとする」のが正解です。単純化しつつも、良い点とダメな点を「切り分ける」のが大事なのです。


本書は、普段我々がなじんでいる「いつもの考え」を「新たな思考回路」へとアップグレードしてくれる好著です。読んで実践することで、思考が変わり、行動も変わり、生み出す結果も変わっていくでしょう。ビジネス書に苦手意識を持っている方にも、おすすめしたい 1冊だと思います。

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この記事を書いた人

鈴木 拓也
鈴木 拓也
都内出版社などでの勤務を経て、北海道の老舗翻訳会社で15年間役員を務める。次期社長になるのが嫌だったのと、寒い土地が苦手で、スピンオフしてフリーランスライターに転向。最近は写真撮影に目覚め、そちらの道も模索する日々を送る。

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