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人生を変えるI amな本何故世界のビジネスエリートは茶道に注目するのか? 日本人なら知っておくべき茶道の魅力

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人生が変わる I am な本。今回は竹田理絵さんの著書『世界のビジネスエリートが知っている 教養としての茶道』(自由国民社)を紹介。

写真/Canva

日本が世界に誇る文化はいくつもありますが、中でも海外から大きな注目を集めているのが「茶道」です。


こう言われると、意外に感じる人が多いかもしれませんね。日本の茶道人口は、高齢化社会とあいまって減少しつつあるからです。


ですが、それは物事を内側から見た一側面にすぎません。


「銀座にあるお茶室には年間 30 カ国以上の方々が日本の文化を求めていらして下さいます」―著書『世界のビジネスエリートが知っている 教養としての茶道』(自由国民社)で、こう語るのは竹田理絵さんです。


株式会社茶禅の代表取締役で、茶道裏千家教授でもある竹田さんは、来日客を茶道でもてなすだけでなく、自ら海外に出かけ、国王・大統領をはじめとする外国人に、茶道の素晴らしさを伝えています。


日本にいると、日本文化の良さがわからないことがありますが、それではちょっともったいない。本書を読むと、竹田さんからそんな声が聞こえてきそうです。今回は本書をもとに、茶道の魅力の一端を紹介しましょう。

娯楽から精神性を重んじる茶道へと発展

写真/Canva

お茶が中国から日本に伝来したのは平安時代のこと。遣唐使の留学僧が、お茶を持ち帰ってきたのが始まりと言われます。


本格的に広まるきっかけとなったのは鎌倉時代。禅宗の一流派・臨済宗の開祖栄西が、中国からお茶の種を持ち帰り、お茶の粉末を湯に入れてかき混ぜる抹茶法を伝えました。抹茶法は、本家の中国ではやがて廃れてしまいます。もし栄西が、このタイミングで抹茶法を伝えていなければ、「今の茶道は生まれていなかったかもしれません」と、竹田さんは述べています。


栄西が伝えたお茶は、当初は禅宗寺院を中心に広まり、やがて日本各地にお茶の産地が生まれます。


室町時代に入ると、時の将軍や大名が、中国の美術工芸品を鑑賞しながらお茶を楽しむ、お茶会が誕生します。こうした娯楽性の高い喫茶の文化に対して、村田珠光は、禅の思想を受けた「茶禅一味」を元とする「わび茶」を創案。精神性を重んじる、今につながる茶道の祖型が誕生します。この思想は、弟子の武野紹鴎(じょうおう)、そして、その弟子の千利休へと受け継がれ深化して行きます。千利休は、「茶の湯」つまり現在の茶道を完成させた人物として、今も多くの人に知られる存在です。


茶の湯は、江戸時代には幕府の儀礼に取り入れられ、茶道と呼ばれるようになります。明治時代に入ると、政財界の人々にとって、茶道の心得は必須の教養となりました。現代では、「日本の心や文化を象徴するものとして、世界的に認知」される伝統として息づいているのです。

これからの時代を生き抜くために必要な茶道の精神

写真/Canva

茶道は、「精神性」を抜きにして語れませんが、具体的に茶道の精神とはどのようなものなのでしょうか。


竹田さんは、それは「和敬清寂(わけいせいじゃく)」という 4 文字の中に凝縮されていると言います。これは、千利休が茶道の基本的心構えの「四規」と示したことで広く伝わり、今に至るそうです。


「和敬清寂」の各文字に意味があり、次のように解説されています。

「和は、お互いに心を開き、和やかに周りと調和する心」
「敬は、自らは謙虚に、そしてあらゆるものに対して敬意を払う心」
「清は、茶室や道具を清潔にし、気持ちも邪念のない清らかな心」
「寂は、どんな時にも静かで乱されることのない動じない心」(本書 106P より)


英語にすると、「Harmony, respect, purity and tranquility」とシンプルで、外国からのゲストにも理解しやすいとのことですが、実はとても奥が深いものです。また、これからの時代、私たちが生きて行く上でも、仕事をしていく中でも活かされていくべき精神だとも、竹田さんはおっしゃっています。


もう 1 つ、茶道が大事にする精神に「わび・さび」があります。「さび」は、「古くなることで出てくる味わいや枯れたものの趣ある美しさ」を意味します。そして「わび」は、「さびを美しいと思う心や内面的な豊かさ」を表すそうです。英語でも Wabi-Sabi と外来語化され、「わび」を「incomplete」、「さび」を「impermanent」と訳すこともできますが、日本特有の美意識ゆえ、海外の人に説明するのは少し難しいかもしれませんね。これに関連して竹田さんは、「現代の機械化され、ものにあふれた日本社会を見渡すと、日本からわび・さびの繊細さや感性が消えつつある」と感じるそうです。このあたり、日本人としてよく考えるべき課題ではないでしょうか。

茶道は敷居が高い?細かな作法が多い納得の理由

写真/Canva

茶道では、お茶の点て方から歩き方の動作に至るまで、さまざまな決まり(作法)があります。この作法は、亭主(お茶会の主催者)が客人をもてなし、そして客人がもてなしを気持ちよく受けるために必要なもの。これが、茶道を「敷居が高い」と敬遠させる要因になっているかもしれません。ですが、こうした作法も「基本的には日常生活のマナーと同じ」と、竹田さんは記します。


本書では 1 章を割いて、お茶会での作法・マナーについて説明があります。もちろん、ここではそのすべてを紹介しきれませんので、2 つだけピックアップしましょう。まず、「お抹茶をいただく前に、お菓子をすべて食べ終わる」というのがあります。これは、なぜでしょう? 竹田さんは、次のように答えています。


茶道で一番大切にしているのは、お客様に一服のお抹茶を美味しく味わっていただくということです。


そのため、先に甘いお菓子をいただくことで、口の中に微かに甘みが残り、少し渋みのあるお抹茶をより美味しく召し上がっていただくことができます。
また、空腹の時にお抹茶をいただくと胃への刺激が強いため、その負担を和らげる目的というのも理由の1 つと言われています。(本書 215P より)


これは説明されて、なるほどと納得できますね。ではもう 1 つ、お菓子を食べ終わってお抹茶をいただ
く時に、お茶碗を回すのはなぜでしょう?


それは、お茶碗には、一番華やかに絵付けされている「正面」があることと関係します。


亭主がお茶碗を置く時、お客様からみてお茶碗が一番美しくみえるように正面が向けられます。これはお客様に対する尊敬や敬意の気持ちと共に、お茶碗の美しさもお楽しみくださいという想いが込められています。


お客様はその想いに応えますが、お抹茶をいただく際には美しい絵柄に口をつけては申し訳ないと言う謙遜の意味から、お茶碗を回して正面を避けた場所に口をつけて、いただきます(本書 219P より)


このように、門外漢からは一見意味のなさそうに思える作法も、実はきちんとした理由があるのです。そこに共通するのは、もてなす側ももてなされる側も、お互いに相手を思いやる気持ち。それが茶道の作法として、目に見える形で現われるのです。


我々は、日本の伝統文化である茶道を、とかく難しく考えがちです。ですが、少しだけ興味の間口を広げて学んでみると、そこには意外にもシンプルで、豊かな世界が広がっていることに気づかされます。本書を手引きとして、あなたも茶道の世界を訪れてみてはいかがでしょうか。

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この記事を書いた人

鈴木 拓也
鈴木 拓也
都内出版社などでの勤務を経て、北海道の老舗翻訳会社で15年間役員を務める。次期社長になるのが嫌だったのと、寒い土地が苦手で、スピンオフしてフリーランスライターに転向。最近は写真撮影に目覚め、そちらの道も模索する日々を送る。

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