キャリアに悩む会社員がやるべきことはたった一つ「ビジネス書を読む」。キャリアに効く11の読書戦略とは?
ビジネス書は、毎年何千点も刊行されており、どれを読めばいいのか迷ってしまうほど。そこで今回は「ビジネスブックマラソン」編集長の土井英司さんに読むべきビジネス書を見つけるコツを伺いました。
プロフィール
ブックコンサルタント土井英司
仕事・キャリアの悩みを打開するひとつの方法として、ビジネス書を読み込んで実践することが挙げられます。でも、毎日何冊も刊行されるビジネス書をすべてチェックするのは至難の業。
ですが、良書を選ぶにはコツがあります。今回は、30,000冊以上のビジネス本を読んできたビジネス書評家であり「ビジネスブックマラソン」編集長の土井英司さんに、そのコツを教えていただきました。
目次
読書戦略1:創業者や中興の祖が書いた本を選ぶ
以前、サンマーク出版より『一流の人は、本のどこに線を引いているのか』という本を出しました。そこでは、読むべき本に出合える「11の読書戦略」を記しています。今でもこの戦略を、本を選ぶ基準にして間違いないと思っています。これからその戦略を1つずつ解説していきます。
戦略の1つめが、創業者が書いた本を選ぶこと。あるいは、中興の祖の人の書いた本でも、創業者の理念が息づく企業についての本でもかまいません。
ビジネスは、人と同じことをしていたら駄目なのです。それで、創業者のしたことを学ぶことがためになります。やはり、結果を出している方の本は、読んでおいて損はありません。
彼らは、ゼロから事業を立ち上げ、うまくいく・いかない原因を自分なりに考えるとともに、お客様を幸せにすることも徹底的に考え抜いています。ただ単に、数字を上げることしか考えていない人、後から引き継いで考えないまま経営している人たちとは、見ているものが違うのです。その差は大きいです。
例えば、一時期もてはやされた経営者にGEのジャック・ウェルチがいます。でも、蓋を開けてみたら、本業もうまくいかない、手を出した金融ビジネスも結局売却してしまう。一時的なカンフル剤を打って成功するけれど、その後の成長を妨げるようなことやってしまう経営者は、一瞬は評価されます。でも、経営の本質を見極めていないとダメになることが、結構あるのですね。なので、そこのあたりを見極めないで、一時しのぎ的なテクニックの本だけを読んでしまってはいけません。
別の例を挙げましょう。電通の吉田将英さんの著書『コンセプト・センス 正解のない時代の答えのつくりかた』(WAVE出版)が最近刊行されました。本書には任天堂が登場します。任天堂は、「世帯あたりユーザー数」と「リビング設置率」という2つの独自指標をKPI(重要業績評価指標)にしています。つまり、ゲーム機やゲームソフトが売れるだけで、いいわけではない。世帯あたりで何人が本当に遊んでくれているのか、家族の中で子供が1人だけで遊ぶのではなくて、お父さんもお母さんもみんな一緒になって遊んでいるかどうか、リビングにちゃんと設置されているかどうかを指標として見ているのです。つまり、ゲームを通じて家族がみんな幸せになって、コミュニケーションが促進されている状態をイメージしてビジネスをやっているのです。だから、任天堂は、長く続いているのだと思います。
このように、見ている先が違うのです。優れた創業者がいて、その人の理念がぶれずにずっと続いている会社が、いい会社なのだと思います。
もう1つの例は、本田宗一郎をサポートしていた藤沢武夫さん。自著の『経営に終わりはない』で語るのは、メーカーなのだから、ものづくりよりも財テクの利益率が高くなったら、ものを作っている人がやる気をなくすだろうという話。だから、財テクはやらなかったというのです。ここが、長く続く企業とそうでない企業の違いです。会社が、一番に実現しようと思っていたことと違う方向にそれていくと、そこで働く人のモチベーションは、どうなってしまうのかということなのです。
それがちゃんと考えられているかどうかが、究極的に重要。もちろん、売上げも作れなかったら潰れてしまうので、リアルな視点はあるのですが、お客さんを幸せにするのが一番大事という視座が、創業者にはあります。そういった人について書かれた本は外しません。
読書戦略2:成功の種を作った「変態」の本は間違いない
読書戦略の2つ目は、「プロフィールで本物か偽物かを見極める」です。
著者のプロフィールをよく見ると、ただ単にプロジェクトに乗っかっていただけなのか、成功の種をちゃんと作った人なのかがわかります。
種を作っている人の書いた本であれば本物です。
読書戦略3:著者は一流の変態を選ぶ
3つ目の戦略は、「著者は一流の変態を選ぶ」です。
成功する人は、ちょっと「変態」なのですね。変態の逆が凡人。凡人は、損得で物事を決めてしまうので、得しないとやめるのです。だけど、変態は自分がやりたいからやっているので、損してもやるのです。
同様のことを経営学者の楠木建さんが『「好き嫌い」と経営』という本で書いていますが、まさにあの視点なのです。要は、「好き嫌い」で経営している人が一番強い。みんなが、損や挫折をするところで、やめないからです。赤字だからやめるという人は、みんなと同じタイミングでやめてしまうので、たいした結果を生まないのです。
けれど変態は、自分がやらずにはいられないという精神だから、損しようが何しようが突き進むのですね。そういう人しか、成功を掘り当てることはできない。なぜなら、経営では赤字が続くなど困難はつきものだし、そこで折れるような人は続かないのです。
具体的な1冊として、文藝春秋から出たイーロン・マスクの評伝について触れましょう。
著者のウォルター・アイザックソンは、評伝を書かせたら右に出る者がいないと言われる方です。過去に書いた『スティーブ・ジョブズ』(講談社)も傑作でした。
著書『イーロン・マスク』でアイザックソンは、イーロン・マスクの父にも焦点を当てています。「あんな人ありえないだろう」という父から、イーロン・マスクは精神が崩壊するような影響を受けたと思います。ただ。そうは言っても、父はエンジニアなので、エンジニアリングのセンスは引き継いでいるのですね。
読み方としては、何を引き継いで、どんなオリジナリティが生まれたかというところに注目します。人は、遺伝的な要素と環境的な要素が、すごく大事だと思いますが、それら両要素をきちんと押さえて、本が書かかれているので、学ぶところは大きいです。そこにちゃんとフォーカスして、才能の片鱗も具体的に述べているので、かなり興味深く読めるはずです。
読書戦略4~7:データで語れるコンサルタント本
4つ目の戦略は、「コンサルタントから学ぶのは王道」というものです。
コンサルタントは、いろいろな業界を横断的に見ているので、客観的な目線ができているからです。さらに、どうすれば成功するかに関して豊富なデータを持っています。
それがない、単にコンサルタント会社に勤めていただけの人は駄目です。ちゃんとデータを持って語れるコンサルタントであれば、読む価値があります。
続く3つの戦略は、「著者が専門外を書いていたら避ける」、「タイトルにだまされない」、「固有名詞の多い本を選ぶ」です。
これらは、そのとおりの意味で、気をつけてチェックしましょう。ここでいう「固有名詞」とは、企業名や個人名です。それが多いのは、著者がよく調べて書いている本という証拠です。
読書戦略8:冒頭数ページで“いい線が引ける”
8つ目の戦略 は、「冒頭の数ページで“いい線”が引けそうな本は買い」。
役に立つ本は、出だしから役に立つものです。著者が真理をつかんでいたら、冒頭から興味を引かれる話が絶対出てきます。
読書戦略9:ビックデータに立脚した本
9つ目の戦略は、「膨大なデータに立脚した本を選ぶ」です。
先に述べたコンサルタントの本もそうですが、データの裏付けがないのに語るのは、ただの与太話なので、ビジネス書としては通用しません。また、みんなが素直に納得すること、合意するものは、ビジネスにおける真理とは限らないのです。むしろ、不都合な真実というものがあったりします。なので、そうした内容がデータに基づいているかどうかに注目しましょう。
読書戦略10:翻訳書は良書の確率高し
10番目の戦略は、「翻訳書は良書の率が高い」です。
これは、外国の著者のほうが、ちゃんとデータを取っているということです。残念ながら。ちなみに、その作業に時間をかけるので、彼らは頻繁に本を書かないのです。『ビジョナリーカンパニー2』(日経BP)を書いたジム・コリンズさんに、メールでインタビューしたことがあるのですが、「5年に1回ぐらいしか本は出せない。リサーチに時間がかかるから」と言われてしまいました。なので、外国人の著作の邦訳は、外れが少ないです。
読書戦略11:箇条書きに注目する
最後の11番目の戦略は、「箇条書きに注目する」。箇条書きで説明できるということは、著者が内容をちゃんと理解しているということです。シンプルだけど本質をついているというわけです。もし、それができていないのなら、曖昧なことでけむに巻いている可能性があります。
長くなりましたが、これら11の戦略で、良書かどうかは見極められると思います。
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この記事を書いた人
- 都内出版社などでの勤務を経て、北海道の老舗翻訳会社で15年間役員を務める。次期社長になるのが嫌だったのと、寒い土地が苦手で、スピンオフしてフリーランスライターに転向。最近は写真撮影に目覚め、そちらの道も模索する日々を送る。