Series
連載

人生を変えるI amな本医師もフリーランスの時代? 激レア、日本にたった 2000 人の病理医がフリーランスになったサバイバルな話

ログインすると、この記事をストックできます。

日本でも数少ない病理医という職種。大概の病理医が病院に勤務するなか、フリーランスとして孤軍奮闘するのは榎木英介さん。著書『フリーランス病理医はつらいよ』 (ワニブックス PLUS 新書)から、レアな仕事で生き抜く掟を紹介。

病理医の数は全医師のたった 0.6%

医療界には、「病理医」という聞きなれない職名があります。


病理医は、検査結果をもとに、患者の病名を診断する重要な職責を担いますが、その数は全国でも約 2 千人。全医師の 0.6%を占める超少数のポジションです。


彼らは、ある程度の規模の病院に配属されることが多く、患者と対面する機会も限られるため、「はじめて聞いた」という人も多いでしょう。


もともとレアな存在ですが、「フリーランスの病理医」という輪をかけてレアな立場で活躍するのは、榎木英介さん。著書『フリーランス病理医はつらいよ』 (ワニブックス PLUS 新書)では、医師としてフリーランスの立場で働くとはどういうことか、知られざる一端を記しています。

新型コロナの真っ最中にフリーランスになると決断

榎木さんは、最初からフリーランスであったわけではありません。


1971 年生まれの榎木さんが、フリーランスになったのは、わりと最近の話。それまで一般病院に勤務していましたが、科学ジャーナリストとしての役割も果たしたいなど、「いろいろな思いが湧き上がり」、どの組織にも所属しない働き方を選んだそうです。2020 年 4 月のことで、新型コロナウイルスが流行し始めた時期とまともに重なりました。

時期を間違えてしまったかもしれないと後悔もチラッとしましたが、もう戻れません。日々ハプニングに見舞われながらも、なんとかやっている最中です。(本書 95p より)

不安はありながら、榎木さんには、フリーランス病理医は「社会から必要とされる存在」という確信がありました。


さらに、フリーランスには明白なメリットが、いくつかあります。


なかでも大きいのは、職場での上下・横の関係の煩わしさから解放されること。


もう1つは、科学ジャーナリストとしての仕事が気兼ねなくできることでした。例えば、記事を書きたい場合、病院に属していればいちいち許可をとらねばなりませんが、フリーランスであれば不要となります。

不安定な立場を複数の収入源でカバー

一方でデメリットもあると、榎木さんは記しています。

それは、非常に不安定な立場だということ。特に心配なのは、病気や怪我で働けなくなることです。仕事ができなくなれば、その瞬間、収入が絶たれてしまいます。新型コロナウイルスの感染拡大が続いていた頃、もし自分が感染してしまえば、仕事ができず、収入がゼロになるのではないかと不安に思いました。(本書 96〜97p より)

また、医師であっても社会的信用は低下。金融機関からお金を借りたり、クレジットカードの新規発行が難しくなります。心配の種は、他業種のフリーランスとさして変わらないのです。


ところで、フリーランスになる際に迷うことの1つに、個人事業主となるか法人とするかというのがあります。


榎木さんは、個人事業主となり、かつ法人(合同会社)を設立することに決めました。


収入面の不安はあったものの、いざ独立してみると、榎木さんの収入はかなり増えたそうです。それは収入源を複数にしたことが大きく、何か理由があってどれかからの収入が一時的に絶たれても、ほかでカバーできるというのが大きいようです。それは、どの収入源も順調であれば、収入はそのぶん大きくなるということも意味します。収入源の複線化は、フリーランスとして盤石な生活を送るためには必須ということだと改めて実感します。

AI が「相棒」となる未来がやってくる

昨今、AI(人工知能)の急激な進歩について、各界で議論になっているのは皆さんご存知のとおりでしょう。医療界も多分に漏れず、AI の本格活用が現実味を帯びています。


少し前まで「AI 脅威論」が幅をきかせていましたが、今は業界ではそうした恐怖感は薄れ、かといって過剰な期待感もないそうです。


榎木さんはむしろ、AI がもたらすであろう医療界の変化に「ワクワク」しているそうです。フリーランスは、「使えるものをなんでも使っていかないと生き残れない立場」という認識もありますが、AI は仕事上の「良き相棒」になるという予感もあるからです。

1 人の病理医には 1 人の AI がつくという、相棒、バディとして診断をする日が来るのかもしれません。のび太君にとってのドラえもんみたいなものですね。相棒には信頼して悩みを相談し、お互いの仕事を補うあう。「AIバディ」は心強いパートナーであり、私たちの仕事を支えてくれるようになるのではないかと思います。(本書145〜146p より)

とはいえ、楽観的な見方ばかりではありません。AI がハッキングされ、誤った診断情報が提供されるなどリスクは依然としてあります。ハイテク化は医療費のさらなる増大につながるかもしれませんし、倫理面の問題も噴出するでしょう。榎木さんは、どこまでいっても人の手が関与できることの重要性を訴えます。完全な機械依存は、諸刃の剣であり、危険性のほうが大きいのです。


本書は、医療界でも「レア」な病理医のフリーランス事情を語ったものですが、広くフリーランスの立場で働く人たちに、「気づき」となる内容が豊富に散りばめられています。フリーランスの方なら、一度読まれることをおすすめします。

『フリーランス病理医はつらいよ』(榎木 英介著/ワニブックス)

この記事を書いた人

鈴木 拓也
鈴木 拓也
都内出版社などでの勤務を経て、北海道の老舗翻訳会社で15年間役員を務める。次期社長になるのが嫌だったのと、寒い土地が苦手で、スピンオフしてフリーランスライターに転向。最近は写真撮影に目覚め、そちらの道も模索する日々を送る。

ログインすると、この記事をストックできます。

この記事をシェアする
  • LINEアイコン
  • Twitterアイコン
  • Facebookアイコン