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人生を変えるI amな本読まれる記事の法則性は「出し惜しみをしない」。スマホ時代に読まれる文章のたった3つのコツ

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月間 1 億 5 千万 PV を誇る朝日新聞社のウェブメディア「withnews」。立ち上げ時から編集長として活躍してきた奥山晶二郎さんの著書から、スマホ時代に読まれる文章・構成の秘訣を紹介。

朝日新聞社が 2014 年に立ち上げた「withnews」。


スタートから 5 年で月間 1 億 5 千万 PV を達成するなど、競合が乱立するなか、大成功を収めたウェブメディアです。

創刊から編集長として関わってきたのが、奥山晶二郎さん(現・サムライト取締役 CCO)。読む・読まれないが数字としてシビアに反映される世界で、「読まれるだけでなく、読まれた後」まで考えたコンテンツ作りに邁進しました。


新聞記者出身で、未知の世界で試行錯誤するなか、奥山さんは、読まれる記事には法則性があることに気づきます。その法則を 1 冊にまとめたのが、著書『朝日新聞ウェブ記者のスマホで「読まれる」「つながる」文章術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)です。

オチは惜しみなく冒頭にもってくる

せっかく書いた記事なのだから、最後まで読んでもらおうと、結論・オチを引っ張って終わりにもってくる……ウェブ記事でよく見かけるスタイルですね。


奥山さんは、こうした記事は読まれない、むしろ離脱されやすいものだと記します。


ヒットするのはむしろ、オチが冒頭にあるものだそうです。奥山さんは、「withnews」の具体的な例を挙げます。

「やたら 100 点取る息子 そのカラクリに『自己肯定感上がりそう!』」(2022 年 5 月 10 日配信/河原夏季)

このタイトルの記事、「やたら 100 点取る」のオチは、読んですぐに出てきます―担当教師は、全問が正解した時点で 100 点の点数をくれるというのがオチです。タイトルから、オチが出てくるまでスマホ画面 1 枚ぶん。興味がわいた方は、記事のあとのほうまで読んでいただくというスタンス。


もう一つ重要な点があります。それは、キーワードはタイトルに必ず入れるというもの。思わせぶりなタイトルにして、本文を読んでみないと、どんな内容か分からない……ではいけないのです。上の例では、「やたら 100 点取る」というキーになる言葉が含まれていますね。


本書では、もうひとつ例が出されています。

「息子が突然、白目を……トゥレット症、当事者として体験した不安の日々」(2022 年 5 月 8 日配信/長谷川美怜」

キーワードは「トゥレット症」。この病名を検索する人が少なからずいることを把握して、タイトルに含めたそうです。狙いは的中しました。もしこれが、「息子が突然、白目を……、当事者として体験した不安の日々」だとどうでしょうか? 逆に読みたくなる人はいるかもしれませんが、子のトゥレット症に悩む親御さんには届かなかった可能性が大きいです。

商品から人へと「主役」をずらす

ウェブ記事のなかでも難易度の高いのが商品紹介です。ほとんどプレスリリースのような記事を書いても、なかなか読んでもらえません。奥山さんも、これには試行錯誤がありました。


そのなかで発見したのが「主役をずらす」という手法でした。「紹介そのものは主役にしない」という言い方もしています。一例があります。


「もも味・バナナ味ポテトチップス『ライバルは LINE』湖池屋の戦略」(2015 年 6 月 3 日配信/奥山晶二郎)


そこには商品の名称は一応入っていますが、目が引かれるのはむしろ「ライバルは LINE」でしょう。

記事では、変わった味の商品が世に出るまでのプロセス、そこでの気づきなど、次のようなことを開発者の言葉を通して紹介しています。
・商品開発の背景には、「若者のお菓子離れ」という深刻な問題意識があった
・湖池屋は、お菓子を通じたコミュニケーションを大事にしている
・「会話のきっかけ」がお菓子の価値ならば、他社のお菓子だけではなく、LINE のスタンプもライバルになる
こうした担当者の思いを書くことで、単なる新商品の紹介にとどまらないコンテンツに生まれ変わります。(本書 73〜74p より)

記事のメインは、商品ではなくてあくまでも商品開発に携わった「人」。ここへずらすことで、読み手の共感を誘う記事になりました。

地味な記事はディティールを徹底描写

著名人を取り上げた記事、特にインタビュー記事は、確実に PV を上げるものとして、ウェブメディア界ではもてはやされています。


奥山さんも、こうした記事は否定しませんが、問題もあるとします。

みんなが話題にするものは数字が期待できるため、たくさんのメディアが記事にします。そうなると、内容はほぼ同じなのに「発信元」だけが違うコンテンツが膨大に出回ることになり、「誰が書いたのか」は意識されなくなります。(本書 151p より)

そこで注目すべきは地味な記事。例えば、「フォロワー数 500 の大学生が語るリモート授業の不満」はどうでしょうか? たしかにこれは、メディアが競ってとりあげたくなる記事ではありません。しかし、これが「希少性」という大きな価値を持つことがあると、奥山さんは指摘します。


とはいっても、もちろん希少性だけを武器にしては、本当に注目されない記事で終わってしまいかねません。これにはちょっとコツがあります。

・徹底的にディティールを描写する。
・よくありそうな話だからといって話を省略しない。最初から最後まで、全部追いかける。
・目安として、3000 文字くらいの文章にしてみる。(本書 152p より)

これら 3 ポイントが、コンテンツの質を底上げするそうです。


ところで、ここで文字数という基準が出てきました。この「3000 文字」というのは、あくまでもマイナーテーマという希少性を目玉とした記事の話。ここ最近の傾向は、記事の短縮化が進み、「1500 文字でも長い」と言われることもあるそうです。杓子定規にとらわれず、ケースバイケースで考えるべきということなのでしょう。


このように本書は、ウェブ記事・情報発信のもやもやをクリアにしてくれる内容が満載。フリーランス・個人事業主の方で、ウェブを通じて宣伝したい方にも役立ちます。ぜひ一読してください。

『朝日新聞ウェブ記者のスマホで「読まれる」「つながる」文章術』(奥山晶二郎著/ディスカヴァー・トゥエンティワン)

この記事を書いた人

鈴木 拓也
鈴木 拓也
都内出版社などでの勤務を経て、北海道の老舗翻訳会社で15年間役員を務める。次期社長になるのが嫌だったのと、寒い土地が苦手で、スピンオフしてフリーランスライターに転向。最近は写真撮影に目覚め、そちらの道も模索する日々を送る。

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