ChatGPTには書けない、自分らしい文章術・超入門伝わる文章の書き方はこの3つ。「一文を短く」「削る」「エピソード」
文章のプロフェッショナル・前田安正氏が教える、AIが主流になっても代替えのきかない「書く力を身につける」文章術講座。第3回は「伝わる文章を書くコツは3つ」についてです。
プロフィール
未來交創代表/文筆家/朝日新聞元校閲センター長前田安正
2019年2月「ことばで未来の扉を開き、自らがメディアになる」をミッションに、文章コンサルティングファーム 未來交創株式会社を設立。ライティングセミナー「マジ文アカデミー」を主催しています。
文章が下手と悩む人のための超文章入門。生成AIが当たり前になった今だからこそ、ChatGPTには書けない、自分の言葉で文章を書く力を身につけたい。朝日新聞社の元校閲センター長で、10万部を超えるベストセラー『マジ文章書けないんだけど』の著者・前田安正氏による文章術講座。今回は「伝わる文章を書く3つのコツ」を教わります。
目次
伝わる文章を書くコツは3つ
僕が文章を書く時に意識していることを3つお伝えします。恐らく、ありとあらゆる文章作法の本をギューッと凝縮すると、必ず行き着く究極の文章作法です。
それは、
1.自分にしか書けないことを、誰にでもわかる文章で書くこと。
2.一文は短く、自信を持って書くこと。
3.無駄なことばは、全て削ること。
たった、これだけです。「究極の」と言った割には、当たり前すぎて気が抜けた人がいるかもしれませんね。僕は新聞社に勤めていたころ、連載やコラムを十数年書いてきました。いまも毎日、こうして文章に向かっています。そこで見つけたこの「究極」は、いまだに僕を翻弄し続けています。掘り下げても掘り下げても、そう簡単に答えは見つかりません。
そう、単純なことほど、複雑なのです。
書店のビジネスコーナーを覗いてみてください。棚にはずらーっと、文章作法の本が並んでいます。毎年、新しい本が出版され、しかも結構売れています。文章作法は、困りごと解決ビジネスの一つにもなっているほどです。しかし、よくよく見れば、こうした本は、先に示した3つの内容をさまざまな角度から解説し、マスターするためのアプローチを書いているにすぎません。
その証拠に、「誰にも理解できないよう複雑な文章を書こう」とか「一文は長ければ長いほどいい。自信のない書き方をしよう」とか「余分なことばを重ねてコテコテの文章をつくろう」などと書いている本は1冊もありません。
これだけで文章が書けるというハウツー本が1冊あれば、僕たちの悩みはとっくに解消されているはずです。
ちょっと大げさに言うと、哲学と同じです。ギリシャ時代からずっと「人間の本質とは何か」を追求しているにも関わらず、いまだに答えが出ていないのです。ソクラテスが「無知の知」とか「汝自身を知れ」などと言っても、それで人間の生き方がわかったわけではありません。その時代時代に、さまざまな哲学者が何とかヒントを見つけて発表しているものの、解決されてはいないのです。それでも、いまもその答えを探す旅を続けているのです。
文章だって同じです。「究極の文章作法」も一つの仮説に過ぎません。「究極の仮説」と言った方がいいかもしれません。1は、作家・劇作家の井上ひさしさんのことばです。「これができたら、プロ中のプロ。ほとんどノーベル賞に近いですよ」と続けています。プロ中のプロがこう言っているのです。つまり、プロであっても答えのない答えをずっと考え続けなくてはならない課題なのです。
「そんなことに付き合っている暇なんかないよ」と思ったあなた。大丈夫です。餅は餅屋です。文章を生業にした僕が考えたことを、このコラムを通してお伝えします。ですから「こんなことで文章が書けるわけがない」とか「これで文章がうまくなれるわけないでしょ」などと言わず、その中から「これは使える」と思ったことをうまく取り込んでみてください。
①エピソードを書く
今回は、1〜3の概略を説明していきます。
1から見ていきます。
「自分にしか書けないこと」とは、エピソードです。
あなたと友達が、旅行に行ったとします。「よかった」という感想をみんなが持ったとしても、それぞれ「よかった」と思う内容は違うはずです。友達が風景に感動したとしても、あなたは旅館の食事に感動したかもしれません。それでも感想を聞かれれば「よかった」ということばに集約されるのです。
ポイントはここです。「よかった」と書けば、取り敢えずの状況は説明できます。しかしあなたと友達のことばが同じになってしまいます。ところが、あなたが「よかった」と思ったエピソードを書けば、他の友達とは違う「あなたにしか書けないこと」が書けるはずです。たとえば、
旅館自慢の朝採りのラディッシュは、淡い緑の茎と葉が付いて出てきた。羽子板の羽根のようだ。茎をつまんで噛むと、シャキッと音がして水分がはじけ飛ぶ。ドレッシングも必要ない。茎も葉もそのまま食べられる。美味しい野菜は甘い、と聞いたことがあったが、初めてそれを実感した。
「美味しかった」「よかった」という形容詞を使わなくても、経験したことをそのままを書いていけば、情景が目に浮かんでくると思います。
あなたが経験したことは、「よかった」「楽しかった」「悲しかった」という単純な形容詞で収まるはずがありません。経験したことこそが、他の人とは異なるあなた自身の歴史です。その歴史はエピソードで彩られています。「あなたにしか書けないこと」とは、あなたのエピソードを書くということなのです。
こう書くと「それはエッセイとかコラムの話だから、会社の業務で使う文書には使えない」という人が必ず出てきます。本当にそうでしょうか。確かに会議録をまとめるときに、あなたのエピソードはいらないかもしれません。録音したものを原稿にするだけなら、それこそChatGPTに任せればいいのです。
ところが、企画書や報告書などの文章には、あなたの視点や考えが加わります。何を課題だと思い、それをどう解決しようとするのかは、あなたという個人のエピソードに紐付いているはずです。部下の人事評価を書くときにも、あなたの意見が反映されます。
②一文を短くする
2と3は、米の作家ヘミングウェイが新聞記者時代に、教わった記事の書き方の一つです。2のポイントは「文を短く」です。「文章を短く」ではありません。ここを勘違いしないようにしましょう。文章はある程度長くないと必要なことが伝わりません。その土台になるものが「文」です。文が短いと主語と述語の関係が明確になるからです。
日本語は主語がなくても通じる言語です。だからこそ、文脈の中でその文の主語がわかるように書かないと、話がつながっていかないのです。
「自信を持って書く」ことも重要です。いまは人を傷つけまいと、婉曲に話をもっていくのが言語表現のトレンドです。そのため「〜ではないでしょうか」「そんなふうに思われることもあるのではないだろうか」というような書き方が増えて、自信を持って言いきることがありません。曖昧な表現では自分の考えを明確に伝えることができません。人を傷つけることと、言いたいことをはっきり伝えることとは違います。ここをはき違えないようにしたいと思います。
ところが、言いきるには裏付けが必要になります。たとえば「リンゴが2、3個あった」というより「リンゴが2個あった」と書いた方が、明確です。断定して言いきるには、実際に2個あったことを確認しなければなりません。裏付けがないと、文章が曖昧になるのです。このわずかな差が文章の信頼性を増すのです。
③無駄な言葉は削る
3の「無駄なことばは、全て削ること」が、一番難しいかもしれません。誰もが無駄なことばを使って文章を書いているとは思っていないからです。同じ内容を何度も書いていたり、エビデンスもなく内容もほとんどないのに、字数を稼ぐために回りくどい表現をくりかえしたりするのです。
米の劇作家のニール・サイモンは「舞台の上に無駄な登場人物を置いてはいけない」という趣旨のことを言っています。登場人物は、劇の中で何かしら意味があるものでなければならない、という意味のことばです。無駄なことばを削る、ということは、必要なことばを残すということです。無駄なことばは、意味を持たないのです。ことばも登場人物も、生きてこそ、その価値が生まれます。
文章において無駄なことばを削るという作業は、ことばに価値を吹き込むことに他ならないのです。
以上が「究極の文章作法」の概略です。「だから、文章って理屈っぽくて難しいんだよね」と思ったあなた。大丈夫です。一度に全部覚えられるわけもないし、簡単に理解できるものでもありません。僕だってこうした考えに行き着いたのは、50歳になろうとしていた頃です。慌てることはありません。この連載のなかで、より詳しくお話ししていきます。
執筆/文筆家・前田安正
写真/Canva
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この記事を書いた人
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早稲田大学卒業、事業構想大学院大学修了。
大学卒業後、朝日新聞社入社。朝日新聞元校閲センター長・元用語幹事などを歴任。紙面で、ことばや漢字に関するコラム・エッセイを十数年執筆していた。著書は 10万部を突破した『マジ文章書けないんだけど』(大和書房)など多数、累計約30万部。
2019年2月「ことばで未来の扉を開き、自らがメディアになる」をミッションに、文章コンサルティングファーム 未來交創株式会社を設立。ことばで未来の扉を開くライティングセミナー「マジ文アカデミー」を主宰。