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ChatGPTには書けない、自分らしい文章術・超入門詰め込みすぎていませんか? 伝わらない文章の典型パターンは豚まんだった!

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文章のプロフェッショナル・前田安正氏が教える、AIが主流になっても代替えのきかない「書く力を身につける」文章術講座。第4回は「相手に伝わる文章の書き方」についてです。

プロフィール

未來交創代表/文筆家/朝日新聞元校閲センター長前田安正

ぐだぐだの人生で、何度もことばに救われ、頼りにしてきました。それは本の中の一節であったり、友達や先輩のことばであったり。世界はことばで生まれている、と真剣に信じています。
2019年2月「ことばで未来の扉を開き、自らがメディアになる」をミッションに、文章コンサルティングファーム 未來交創株式会社を設立。ライティングセミナー「マジ文アカデミー」を主催しています。

文章が下手と悩む人のための超文章入門。生成AIが当たり前になった今だからこそ、ChatGPTには書けない、自分の言葉で文章を書く力を身につけたい。朝日新聞社の元校閲センター長で、10万部を超えるベストセラー『マジ文章書けないんだけど』の著者・前田安正氏による文章術講座。今回は「相手に伝わる文章を書くコツ」を教わります。

【図解】豚まん文章とミルフィーユ文章が一目瞭然

文章は食べ物に例えるとわかりやすい

「肉まんよりミルフィーユ」。

文を短く書くコツを、食べ物にたとえたものです。おやつに食べるものとしては甲乙付けがたいのですが、文章を書くなら断然ミルフィーユの方が「おいしい」のです。

一文を複雑にすると、主語と述語の関係が読み取りづらくなります。一文をシンプルにして、それをつなげた方が、読み手が理解しやすいのです。以下、肉まんとミルフィーユの文を考えていきます。

いろんな具が詰まった豚まん

肉まんには美味しい具が詰まっています。しかし、具の中身をすぐに言い当てられますか? 恐らく、挽肉、玉ねぎ、シイタケ・・・。しかし、いままでに肉まんを解体して具の中身を調べたりしたことはありません。何が入っているのかがわからないまま、美味しいと言って食べていたのです。

つまり肉まんとは、一つの文にたくさんの要素(=具)を詰め込んだ文と同じ構造なのです。食としての肉まんは、歴史のなかでしっかりレシピが積み上げられているので、まず外れはありません。ところが、ぎっしり要素が詰まった肉まんのような文が続くと、読み手としては具の中身がわかりづらく読み解くのが難しくなります。

そのため、読み手が消化不良を起こし、結果として読まれない“外れ文章”となってしまうのです。その原因は、要素が多すぎて、それぞれが果たすべき役割がはっきりしないからです。一方、書き手にとっても肉まんのような文をつなげて読ませる文章をつくるには、よほどの力量がないと難しいのです。

パイ生地とクリームだけのミルフィーユ

ミルフィーユはフランス由来のお菓子です。ミルはフランス語で1000、フィーユは葉っぱのことです。1000枚の葉を重ねたお菓子という意味です。

構造は素朴で、パイ生地と生クリームが相互に重なり合ってできています。イチゴが挟まったものもありますが、とてもシンプルです。一層の要素が基本的にパイかクリーム以外にないからです。イチゴが加わったとしても、個別の素材が独立しながらハーモニーを醸していて、それぞれの役割がはっきりしています。

パイとクリームをうすく重ねたミルフィーユは、一つの要素でつくった短い文を重ねてつくられたわかりやすい文章のようです。そのため、読み手には理解しやすく、書き手にも優しい。結果として、「おいしい文章」をつくることができるのです。

この文章、どっちかわかりますか?

ここでクイズです。次の二つの文は、肉まん、ミルフィーユのどちらだと思いますか?

1.日照りが続いており、水不足が心配だ。

2.今年の夏は暑く、熱中症が増えている。

この二つの例は、ともに肉まんなのです。文自体が短いので、そう感じないかもしれません。しかし、文の構造としては肉まんそのものなのです。文を分解しながら見ていきましょう。

1も2もそれぞれ二つの文(要素)がつながってできています。

1.日照りが続いている + 水不足が心配だ

2.今年の夏は暑い + 熱中症が増えている

ちょっと難しくなりますが、ついてきてください。脳トレです。

1.「いる」→「おり」

2.「暑い」→「暑く」

それぞれ動詞を変化させて、二つの文をつないでいます。そのため文の前後で、主語と述語が二つずつ使われていることがわかると思います。

こうした用法を中止法と言います。動詞など用言の連用形の用法の一つです。用言は動詞・形容詞・形容動詞を指します。

連用形の見分け方は簡単です。

《動詞の場合》「ます」を付ける

  「いる(おる)」⇒「います(おります)」 

  「動く」⇒「動きます」

《形容詞の場合》「なる」「ない」を付ける

  「暑い」⇒「暑くなる」「暑くない」 

  「楽しい」⇒「楽しくなる」「楽しくない」

といった感じです。例文でも、「いる」を連用形「おり」に、「暑い」を連用形の「暑く」と、動詞を変化させていったん文をとめて、次をつないでいます。

デカルトの名言「困難は分割せよ」

当然、一文が長くなります。ところが、

1.日照りが続いている。だから、水不足が心配だ。

2.今年の夏は暑い。そのため、熱中症が増えている。

というように、前の文を終止形にし、後ろの文を接続詞でつなげば、一つの文は短くなります。

哲学者のデカルトは「困難は分割せよ」と言いました。まさに、肉まんのような文は、いったん分割して、要素をわかりやすく整理すればいいのです。

伝えたい要素を整理したら、「ミルフィーユ」のような文章が書ける

「ミルフィーユ」は無駄なことばを削ぎ落す

もう一例、肉まんの文にお付き合いください。

現代社会はコミュニケーションの方法が多様化しており、SNSやリモート技術の発展で直接会わずとも簡単にコミュニケーションが取れてしまう便利な時代になった。

これも、さほど複雑ではありません。言いたいことはそれなりにわかります。

しかし、よく見ると、

「現代社会はコミュニケーションの方法が多様化しており〜」

「簡単にコミュニケーションが取れてしまう便利な時代だ」

という肉まん構造になっていることがわかるでしょうか。この場合「多様化しており」の「おり」が動詞の連用形中止法として、二つの文をつないでいるのです。そのため、

「コミュニケーションが多様化し」「コミュニケーションが取れてしまう」

という具合に、同じことばを二度書かなくては、文がうまく成り立たたないのです。そのため、まどろっこしい印象が残るのです。

さらに「無駄なことばは全部削れ」という視点で見ると、「多様化」というありふれたフレーズは、その後に「SNSやリモート技術の発展」という、より具体化されたことばで補われています。

そうであれば、「多様化」ということばは、「無駄なことば」となります。さらに「便利な時代」は、「現代社会」を指しています。便利であることは「直接会わずとも」ということに他なりません。ここも整理してミルフィーユに変えてみます。

現代社会は、SNSやリモート技術が発展している。
そのため、直接会わずとも簡単にコミュニケーションが取れるようになった。

現代社会の特徴を一文目に示しています。その結果を次に書き足すだけです。

これが、ミルフィーユの書き方です。小さな要素を積み重ねる感覚を覚えてください。

こんな具合に、文を短くすることによって、無駄なことばもそぎ落とすことができます。それによって、必要なことばが粒立ってくるのです。

文を短くする方法は、これだけではありません。しかし、それはまたの機会にお話ししていきます。

肉まんよりミルフィーユ。今回は、これだけを頭に入れておいてください。

執筆/文筆家・前田安正

写真/Canva

この記事を書いた人

前田 安正
前田 安正未來交創代表/文筆家/朝日新聞元校閲センター長
早稲田大学卒業、事業構想大学院大学修了。
大学卒業後、朝日新聞社入社。朝日新聞元校閲センター長・元用語幹事などを歴任。紙面で、ことばや漢字に関するコラム・エッセイを十数年執筆していた。著書は 10万部を突破した『マジ文章書けないんだけど』(大和書房)など多数、累計約30万部。
2019年2月「ことばで未来の扉を開き、自らがメディアになる」をミッションに、文章コンサルティングファーム 未來交創株式会社を設立。ことばで未来の扉を開くライティングセミナー「マジ文アカデミー」を主宰。

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