人生を変えるI amな本自己啓発本の不朽の名著に学ぶ!日々の不安を打ち消し、仕事の悩みを減らす方法。カーネギーが80年も読まれ続けるワケとは?
約80年前に刊行され、日本だけでも500万部以上も売れたデール・カーネギーの『道は開ける』。自己啓発本の名著として、現代に生きるわれわれにも多くのことを語りかけます。
目次
日本だけで累計500万部以上も売れた自己啓発本
長く続く自己啓発本ブームで、書店にはそのジャンルの新刊がいつも積み上がっています。
しかし、一時的に話題になっても、数ヶ月もすれば忘れ去られているものがほとんど。ましてや、何年も読み継がれるロングセラーとなるのは、本当にわずかです。
そんな試練に耐え、今も多くの人に読まれている自己啓発本の古典的名著が、『道は開ける』です。
1948年にアメリカで初版が刊行された本書の原題は『How to Stop Worrying and Start Living』。「不安を鎮め、新たな人生を生きる法」という意味で、日頃から抱える不安を打ち消し、平穏な心を取り戻す方法を論じたものです。とはいえ、単なる通俗的なハウツー本にはない奥深さが、世界の人々を虜にしてきました。
著者は、ミズーリ州出身のデール・カーネギー(1888~1955)。意に染まぬ会社勤めを辞め、YMCAの夜間学校の講師に転身。人生の諸問題を解決したいと真剣に考える大人たちを相手に、知恵を授けることに精魂を傾けた人物です。その経験をもとに本書が書かれたのです。
日本でも何度も翻訳刊行され、累計500万部以上を売り上げた本書の内容の一端を、これから紹介しましょう(引用文はKADOKAWA刊『新訳 道は開ける』より)。
「今日」というひと区切りを生きる
本書の冒頭でカーネギーは、ジョンズ・ホプキンス大学を設立するなど、イギリスの医学界に多大な貢献をなしたW・オスラーの言葉を取り上げます。
それは「今日というひと区切りを生きる」。
この一言に含意されているのは、「すべての知恵と情熱を今日一日に傾ける」ことです。そして聖書の「明日に不安を抱くなかれ」と結び合わせ、この考え方が日常的な不安を減らすとカーネギーは力説します。
言い換えれば、明日にばかり思いを馳せていれば、そこには不安しか生まれないのです。
唯一確かなのは、今日という日だけなのだ。そのたゆまぬ変化の先にある未来の問題を解こうとしたり、誰にも予期できない不確かな未来に頭を悩ませたりしたところで、いったい何の意味があるだろう。(本書38pより)
我々はえてして、どうにもできない過去のことを思い出してはくよくよし、まだ起きていない未来のことを考えては悩みます。そして、今日という日があることを、すっかり忘れるか、単に不安を振り払おうと惰性的に生きてしまいがちです。もちろん、明日に備えるのは必要ですが、それは今日をしっかり生きることで、はじめて実りあるものになるのです。
仕事の悩みを軽減する4ステップ
仕事をしていれば、そこには解決しがたいと思える悩みが、いくつもつきまといます。
これは、名だたる企業の経営者であっても新入社員であっても変わりません。本書には、大手出版社の総支配人や年間百万ドルの契約を取り付ける保険セールスマンの例が載っていますが、彼らも仕事の悩みに苦しんでいました。
カーネギーは、仕事の悩みを軽減する4ステップの考え方を記しています。それは、
- 問題は何だろう?
- 問題の原因は何なのだろう?
- どんなソリューションが考えられるだろう?
- どのソリューションならばいいだろう?
というシンプルなもの。
実例として、さきほどの保険セールスマンが駆け出しだった頃の話が挙がっています。彼は、一所懸命に営業してもなかなか契約を得られず、挫けかけていました。
そこで、一旦冷静になって「問題はなんだろう?」と自問しました。それは明白で、頑張っても成果に結びつかないことでした。次に「問題の原因」を突き止めるべく、過去1年間の帳簿を見て、その数字をじっくりと調べました。そこから判明したのは、過去1年に成約した契約の7割は、初回の営業で決まったものでした。2回目、3回目の営業活動で成約できたものは、それよりもずっと少なかったのです。何度も足を運べば、いつか成約できると思い込んでいたのですが、ほとんどが時間の無駄遣いであったのです。
「問題の原因」がわかると、導きだされるソリューションは明々白々です。彼は、同じ人に3回以上の営業は絶対にかけないことに決め、空いた時間を新たな可能性に費やしました。これで営業成績はうなぎ上りになり、悩みは消えました。
聞いてみると、「な~んだ」と思えるような事例ですが、自分自身に引き寄せてみると案外実践できていないものです。カーネギーは約束します―これであなたの仕事上の不安は半分になると。
疲れてしまう前に、とにかく休む
カーネギーは、不安と疲労は分かちがたく結びついていると指摘します。われわれは、疲労すれば不安を感じやすいのです。
そのため本書には、疲労状態に陥らずにすむ、あるいは疲労から早くに回復する方法が説かれています。
その第一のルールは「疲れてしまう前に、とにかく休む」です。大概の人は、キリのいいところまで仕事をするとか、締め切りが近いからとにかく頑張るといった方向に行きがちです。しかし、これは逆効果。疲労してしまってから休むのは、生産性にも健康にも悪影響を及ぼすだけだとカーネギーは語ります。
具体的にすすめられているのは「昼寝」。オフィスワーカーであっても、昼食の後で10分の昼寝くらいはできるはず。それも無理なら夕食前に少し横になる。夜の睡眠とは別に、日中に少しでも眠ることの重要性を、チャーチル首相やトーマス・エジソンの例を引き合いに出しながら、説得力をもって綴られています。
また、無意識に起こる筋肉の余計な緊張が、疲労感をもたらす事実も指摘されています。もし思い当たるなら、簡単な解決法があります。カギは「リラックス」。例えば、
一日に四、五回ほど自分を見つめ、「手元の仕事を、実際より大変なものだと思い込んでいないだろうか? 仕事にはまったく関係ない筋肉を使ったりはしていないだろうか?」と問いかけてみる。これは、リラックスを習慣化するのには非常に役立つ。デイヴィッド・ハロルド・フィンクは、「心理学を熟知している人は、ふたりにひとりがこれを習慣にしている」と書いている。(本書339pより)
ほかにも、問題の解決を先延ばしにしない、今の仕事と関係ない書類は机の上に置かない、眠れないことをいちいち不安に感じないなど、疲労を予防するさまざまな方法が解説されています。難しいものは一つもありません。実践するだけで、疲労と不安が消失することが実感できます。
一読して本書が素晴らしいと思う点は、その内容にまったく古さを感じないことです。むしろ、現代のあまたの自己啓発本よりも新鮮味を感じるほど。何世代にもわたって読まれ続けている古典の格の違いというものを、この一冊で理解することができます。もしあなたが最近の自己啓発本に飽き足らないと感じているなら、本書をおすすめしたいです。きっと今までなかった満足感を得られるはずです。
関連記事
この記事を書いた人
- 都内出版社などでの勤務を経て、北海道の老舗翻訳会社で15年間役員を務める。次期社長になるのが嫌だったのと、寒い土地が苦手で、スピンオフしてフリーランスライターに転向。最近は写真撮影に目覚め、そちらの道も模索する日々を送る。