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絶対に失敗するカフェの作り方ワンオペの小さなカフェに必要なのは、コンセプトを3つ持つこと。

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潰れず長く続くカフェの経営者や喫茶店のマスターが、店を開く前に固めているコンセプト作りについて珈琲文明のマスターが語ります。

プロフィール

珈琲文明店主赤澤智

(あかざわ・さとる)昭和42年生まれ。メジャーデビューを目指しバンド活動をしながら12年間塾講師としても活動。大手学習塾の教室長及びエリアマネージャーとして4年半正社員として働いた後、2007年40歳の時に横浜市白楽にカフェ「珈琲文明」を開店。創業開始から今日に至るまでの16年以上(コロナ期間も含め)1度も赤字になったことがなく、黒字で長く続けられる経営を心掛けている。著書に「人生に行き詰まった僕は、喫茶店で答えを見つけた(祥伝社)」がある。

小さな喫茶店やカフェを経営するなら3つの柱を先に決める

「お店のコンセプトが決まるまでは開業するな」というのが私の持論です。そこには明確な理由があります。「そうでなければその後大変な時間と費用の無駄になる」。つまり、カフェ経営が失敗する恐れ大……だからであります。

私のお店(珈琲文明)を例に挙げてお話ししますね。

珈琲文明のコンセプトは「初めて来ても懐かしい、レトロでクラシカルなサードプレイス」といったところなのですが、これはあくまでもキャッチコピー的なことで今回お話するコンセプトとはこういった抽象的なことではなく、具体的かつ「可視化出来る」話です。

珈琲文明には具体的に三大柱となる特徴があります。

柱1 スペシャルティコーヒーをサイフォンで淹れ、サイフォン(フラスコ)のまま提供する

柱2 天井の空の色が時間で変わる(天井劇場)で唯一無二のカフェになる

柱3 坪型の器がパンになって中にアツアツトロトロのカレーを詰めたカレーパンを提供する

以上の3つです。

はい、心配しなくても大丈夫ですよ。これから3つとも解説していきますからね。

柱1 スペシャルティコーヒーをサイフォンで淹れ、サイフォン(フラスコ)のまま提供する

これは環境づくりの面での困難はありませんでした。

ただし、「お客様にサイフォン(フラスコ器具)のまま提供する」という特性上、それだけ多くのサイフォンを購入しなければならないことに加え、(いやそれは別にいいんです、お金の問題だけですから)重要なのは、そのサイフォン一式をどこに置いておくかということ。

これは珈琲文明もそうですが私のメソッドを踏襲したり私が主宰する「カフェラボ」から巣立って開業したお店の「ペンギンカフェ」「純喫茶ファロ」「十条珈琲」「森田コーヒー」といった「コーヒーはサイフォンのまま提供しお客様自身で注いでいただくスタイル」は全てカウンターに「セリ上がり」状態のスペースを用意してそこにサイフォンを陳列しています。

サイフォンがずらりと並ぶ珈琲文明の店内(写真提供:珈琲文明)

別に私がそれを推奨したこともないのですが、店舗設計、動線上鑑みるにこの置き方が最適であると各店舗各店主が一様にそう思ったのだと思うのです。

ですからあらかじめカウンターにセリ上がりスペースを設計しておかなければ後からサイフォンの置き場に困り、置く場所があったとしても動線的にメチャクチャな状態になっていたことでしょう。

柱2 天井の空の色が時間で変わる(天井劇場)で唯一無二のカフェになる

珈琲文明の天井には天井劇場が仕掛けられています。

珈琲文明にとっての最大の難関はこの「天井劇場」でした。これは、新横浜ラーメン博物館やお台場ビーナスフォートなどに施されていた、天井が空のように青空から夕暮れの茜色、そして星空へと移り変わるというもの。26分で一回りします。

「これは絶対に他店に差をつけるウリになる」と考えた私でしたが、いざ設置するとなると、ある程度の天井の高さが必要、天井に空の絵を描く絵描きさんの選定、照明問題など、事前準備が大がかりになってきそうだなと思いました。

26分で空の色が変わる珈琲文明の天井劇場(写真提供:珈琲文明)

細かく調べ上げた結果、「新横浜ラーメン博物館」や「お台場ビーナスフォート」などのようなコンピューター制御による照明を駆使するには数千万レベルの費用がかかることを知り、どうしたら安くあげられるのか?を必死で考えました。

結果、普通の蛍光灯に舞台照明で使うカラーフィルターを手で巻き(なんというアナログ!)、あとは時間で照明の光度が切り替わる装置を導入すればどうにかなるんじゃないかということを考え、結果20万円以下で抑えるというウルトラCに成功しました。

重要なポイントとしてはこうした思いきったことをやるとき、店の個性を出すための仕掛けの一連の葛藤や考案、試作、検証などを、すでに家賃が発生してしまってからやらないということです。

私はこの天井劇場を再現するために必要だった「高めの天井」を実現するために、元々は2階があった物件を思い切ってぶち抜いて吹き抜けにしました。内装費には1坪あたり60万円ほどかかるとするならば10坪なら600万円のところ珈琲文明は中二階席を後から造作したりして800万円以上かかりました。

その差200万円なんですが、もともと中2階席もあるような居抜き物件なら1階しかない物件よりもどう考えても2~5万円以上家賃が高いわけです。

だとしたら内装費に200万円多くかけたとしても5~8年後には回収できます。

この5~8年間を長いと考える人もいるかもしれませんが、「黒字で長く続けられる店舗経営」がここでのテーマですので10年以下で回収できるのであれば安いものです(というよりあなたはお店を10年以上続けていきたいですよね?)。

というよりただ単に1階しかない店舗(まぁ個人店のほとんどはそうでしょうけれど)で何一つ特徴がない店で5~8年続けることのほうが難しいのかもしれない中、そこで他との圧倒的差別化に「吹き抜け」や「中2階」がなり、それが集客に繋がるのであればそれはやる価値があると思ったわけです。

柱3 坪型の器がパンになって中にアツアツトロトロのカレーを詰めたカレーパンを提供する

最後のカレーパンですが、これはとにかく器となるパンの選定に時間を費やしました。実は、パン作りまで自分でしようと思って試作してみたこともありましたが、これまたそうした様々な試行錯誤の最中にとにかく既に家賃が発生していたらそれはどんどんコストがかかってしまいますよね。

珈琲文明のカレーパン(写真提供:珈琲文明)

そう、何度も言いますが、家賃がすでに発生している中で試行錯誤していると大失敗する恐れがあるということです。ちなみに、メニューも同じこと。当たり前のことかもしれませんがメニューを決めてからでないと絶対にお店は出してはいけません。

「いやそれはさすがにそうでしょ」と思うかもしれませんが、メインメニューだけではなくあらゆるメニューを最初から決めておくことで、それに伴う設備や器や収納場所の確保など、すべてが無駄なく整います。

オーブンがいるかもしれない、またはトースターがあればオーブンは不要かもしれない、ビールタンブラーがいるかもしれない、ウィスキーのロックグラスがいるかもしれない、冷凍ストッカーが個別に必要かもしれない、などメニューに左右されるというのが設備というものです。これを、お店を始めた後で考えていたら……考えただけで恐ろしくなります。

さらにコンセプトをあらあらかじめ決めておくことは「合言葉」を生み出すことでもあります。例えば内装を手掛けるデザイナーさん設計士さん大工さんとのコミュニケーションや意見のすり合わせの際にも「コンセプトという合言葉」があることで物事がスムーズに進むのです。


メソッドを2020年に初の著書として出版。「人生に行き詰まった僕は、喫茶店で答えをみつけた

さらに、お店がまだ始まっていない段階で友人や知人に対して「どんなお店なの?」と訊かれた場合に明確に答えられることがとても重要であり、とりわけ友人知人に対してはこの「コンセプトを伝える」ことが最初にして最大の営業トークになります。

以上のような理由から何はさておきまずはコンセプトの考案を最初に行いましょう。
みなさんはご自身がこれからやるお店のコンセプトを何か既にお持ちでしょうか?
まだない? なるほど。
ではそれが出てくるまでまだお店は絶対に出さないでください。
急いで出しても潰れるだけです。

ぜひとも、まずは、基本コンセプトをああでもないこうでもないと一生懸命に脳に汗をかいて考えてみてください。
思い悩んでいる期間が長ければそれだけ貯金額も増えていくでしょう。
同時にあなたにとって様々な「店舗運営を生き抜く知恵」も備わっていることでしょう。

まずは基本コンセプトを固めよう

それではその「コンセプト」はどうやって生み出すのか?
出来ればどういうものがより良いのか?またどういうものである必要があるのか?
その辺の話を次回はしていきたいと思います。

珈琲文明店主、赤澤智でした。

この記事を書いた人

赤澤智
赤澤智珈琲文明店主
脱サラ後40歳でカフェ経営を始め16年。
強み「しっかり腹落ちしたことならば成果が出るまで粘り強くいつまでも続けられる」。
弱み「人見知りが激しく、興味のない物事(人含む)にはまったく関心がない」

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