「好き」でも 「できない」ことがある。だからこそ●●が必要!プロとは「好き」でお金をもらえること〈チョコレートジャーナリスト市川歩美/第3話〉
日本を代表する放送局を辞めて、好きなチョコレートで独立。好きを仕事にするための条件とは?
日本初の「チョコレートジャーナリスト」市川歩美さん。
ブロガーがスイーツ紹介、お菓子紹介、商品紹介などなど乱立する中で、一線を画する「ジャーナリスト」としての仕事とは?
放送局を退職後、肩書がなくなって自分の名前で仕事をするまでの道のりは?
目次
独立するなら、自己分析が不可欠
会社に勤めながら自分の好きなことをやり始めた時に、「会社の給料があるから好きなことにチャレンジできる」とか、逆に「好きなことをやってるから会社の仕事もなんとなく楽しくできる」とか、そういう心理は働くんでしょうか?
間違いなくそうでしょうね。放送局の中で、番組制作の部署はほんの⼀部なんですよ。当たり前ですが、総務部も人事部も経理部もあります。ちなみにわたしは事務作業が、比較的苦手な方で、不得意だし嫌い、というような(笑)。
会社員だといろいろな部署に配属されるものですよね?
そうです。わたしはクリエイティブな部署に行くと力を発揮するんですが、事務方に行くと急にダメになるという、極端な人だった気がします。
事務方に配属されたときは、自分のできなさ加減を目の当たりにして、嫌になったものですが、そんなときは、仕事外の好きなことがわたしの⽀えになりました。ファッション、音楽、もちろんチョコとか。自分は別に総合的にダメなわけじゃないなと。
なるほど、好きなことが気分転換になったんですね。
どんなにがんばっても、うまくできないこともある
わたしはそんな風に、会社内で自分というものを知ることができたんですね。「わたしはこれが好きなんだな」「これは他の人より楽にできるし面白い」「これは苦手なんだ、間違えがちだから」とか。
ちゃんとやろうと思っているのに、間違えちゃうんですか?
はい。思い返すと先輩方に申し訳ない思いでいっぱいですが、例えば営業さんが⼀生懸命広告費を値上げして来たのに、わたしが数字の⼊力を間違えて値下げしてしまい「お前いい加減にしろ!」みたいな。まじめにやってるんですけど、時々間違っちゃって。
それはやっちゃいましたね
そういう失敗の経験があるので、なんというか、自己認識しているんです。
独立するなら自分というものを良く知ってから、「わたしはこういう人」「これが好き」「これが苦手」と良く分かった上でする方がよいと思います。
道を選ぶ=好きなことを仕事にする、ということだけではない。もっと深いもので、自分を知ることが必要なんじゃないでしょうかね。
やることを選ぶための、自己分析が必要なんですね。
自己分析はきついんですけどねー。「わたしはこれが本当にできない」ということとも向き合わないといけないので。ただ、できないことを仕事にするとつらいですから。
それはどの世代の方も、ということでしょうか?
ある程度の年代までなら「何でもがんばってやってみよう!」とか「嫌いなこともまずはやってみよう!」というのは、もちろんアリです。
人にもよりますが、ある程度の年齢になったら得意なことを伸ばす方が、社会の価値になりやすいし楽しいかもしれませんね。ただ、これも⼀概にはいえません。チャレンジはよいことですし、人それぞれですね。
「好き」で「合う」と、楽して続けられる
「好き」で「できる」ことを仕事にするのはハッピーだけど、好きなだけだとすごくがんばらないとできないから、続かないってことですか?
そうなんです。好きとできるは違うんですよね。
好きなことは楽だし、ナチュラルでいられる。ナチュラルでいられることは持続できる。仕事もそうだし、人間関係もそうだと思います。
ちなみに、わたしはいま、「好きで得意なこと」を仕事として選んでやってるはずですが、それでも大変なことはもう、⽇々いくらでもありますから(笑)。
(笑)なるほど! だとしたら、嫌いで得意なことを仕事にしたら、めちゃめちゃ大変ですね?
得意だけど好きなじゃないことで独立するのは?
その通りです! 好きで得意なことを選んだとしても、仕事ですから、大変なことはゼロにはならないでしょうからね。
嫌いだけど得意なこと、というのもあるかもしれません。それを仕事にするのも大変だと思います。「嫌いだけど得意だからできちゃうのでどんどん仕事が来ちゃう」という状況……。
それもつらそうですね…。
会社員の方なら、今の役割としてぜひ⼀生懸命やっていただきたいと思うんですが、独立してまで得意だけど好きじゃないことを自ら選ぶ必要はないと、わたしは思います。
独立の条件……ですね。
リアルな話、わたしはカウンセラーでもありますから、こんな話を聞いたこともあります。
ある企業で売り上げのトップセールスを誇っていた社員さんが、実は営業は好きではないと。
トップセールスマンなのに営業が嫌いなんですか?
はい。でもやってみたら得意なので、社内で営業成績をどんどんあげ、会社からは期待されて営業から配属が変わらず。
そこまで得意になったものがあるなら、好きなことを見つけたときに、その得意なものと掛け合わせることができれば、最高ですよね!
そうなんです!その方は、営業で得た人脈や、ノウハウを活かしてお好きなことで独立すると話していました。よいですよね。
「仕事」に昇華できる「好き」と「得意」の絶対量とは?
ということは、「好き」と「得意」がどちらも相当高いレベルにないと仕事にはできない、ってことなんでしょうか…なんだかすごくハードルが高いような気がしてきました。
そうですね、”give and take”という言葉があるじゃないですか。「好き」なだけでは、自分が take だけしていることが多いんですよ。
わたしも、普通にチョコレート愛好家だったころはそれで満足していて、take だけで幸せでした。
でも、チョコレートジャーナリストとして仕事をするようになったら、give です。仕事として、与えることが必要になってくるんですね。
プロの仕事をするために必要な覚悟とは?
「好き」を仕事にしたチョコレートジャーナリストとして、何を意識して情報に価値を与えているんですか?
意識しているのは、視点と取材、しょうか。わたしは結構覚悟を決めて、ジャーナリストと名乗っているんです。
ジャーナリストという言葉は、諸先輩方が素晴らしすぎて、わたしの中で恐れ多い気がするほどですが、自分に気合を⼊れるためにつけたようなところがあります。
具体的にはどんなことをされているんですか?
例えば、プレスリリースというのは、商品を PR するために、ブランドや会社が出す情報ですので、売れるように、魅力的なことが記載してあります。
⼀般の方はそれをそのままコピペして発信、でよいかもしれませんが、わたしとしては、それは果たして本当にそうか、今までの経験や知識と照らし合わせてそれは実際にそうだろうか、と検証するわけです。つまり”歩美フィルター”をきちんと通した情報を発信する、ということでしょうか。
裏を取る、っていうことですか?
そうですね。わたしはチョコレートをずっと見続けてきていますから、チョコ業界外の人にはよく分からずスルーするところも、「ん?」と思うことが、かなりあるんです、実は。チョコを長年見続けている”歩美フィルター”を通した情報は、多くの方がチョコを考えるうえでのベースになったり、役に立つのではないかと思っているようところがあります。
プロの仕事にするための「価値」の作り方とは?
わたしはいつも、情報発信している向こう側、受け取り手を見ています。
例えばどんな人かというと、わたしのようなチョコレート好きの人。「ちょっと高いけど魅力あるから買っちゃおう!」というテンションの人。
そういう私のようなチョコ好きが、間違った情報や都合のいい情報に踊らされてほしくないというか、なんか嫌なんですよね。それは“まるでわたし”だから。
つまり読者は自分自身でもある、というスタンスですか?
そうです。このチョコレートジャーナリストという仕事をしているのは、半分はメディアの人間ですが、半分はチョコレート愛好家である私です。
私自身がチョコを買って食べるお客さんでもあるからこそ、私のような人のために、なるべくきちんと情報を伝えたいんですよ。それが原点なんですね。
厳選した情報を届けないとだめですね!
チョコレート好きなみんなが、なるべくポジティブな情報かつ正しい情報で豊かになってほしいです。そうすれば、⽇本人全体のチョコ能力(?)が上がるじゃないですか(笑)。
わたしは、「わたしが気付いたことをチョコ好きなみんなにもぜひ知っておいてほしい!」と思って、この仕事をやっているのかもしれないですね。
「好き」と「得意」がない場合はどうすればいい?
好きなものや得意なことが見つからない、分からない場合は、どうしたらいいでしょう?
「好きなことがない」っていう方、心理学の仕事をしているとよくいらっしゃいます。嫌いなことばっかりやっていると、好きなことってわからなくなってくるんです。
やるべきだからやっているのか、やりたいからやっているのか、が混乱して分からなくなっているかもしれないので、少し時間を置いて落ち着いて、改めて、好きなことは何かをゆっくり考えるといいと思います。
得意なことについてはいかがですか?
得意なことについては、例えば「センスいいよね」「話面白いよね」みたいに褒められること、あると思うんですよね。そういう何気ない⼀言を思い出したり、覚えておくと、そこに得意なことのヒントがあると思いますよ。
取材/I am 編集部
文/堀中里香
写真/本人提供
第1話はこちら↓
第2話はこちら↓
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この記事を書いた人
- 知りたがりのやりたがり。エンジニア→UIデザイナー→整理収納×防災備蓄とライターのダブルワーカー、ダンサー&カーラー。強み:なんでも楽しめるところ、我が道を行くところ。弱み:こう見えて人見知り、そしてちょっと理屈っぽい。座右の銘は『ひとつずつ』。