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18年間売り込みなし、私のご縁のつくり方! 消しゴムはんこ作家・津久井智子インタビュー第3話

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2003年から「はんこや象夏堂」の屋号で、オーダーメイドで消しゴムはんこの受注制作をおこなっています。今回は「売り込まずに仕事を得続けるコツ」について。全3話でお届け!

津久井 智子

プロフィール

消しゴムはんこ作家津久井智子

消しゴムはんこ作家。はんこや象夏堂店主。埼玉県出身、静岡県熱海市在住、猫2匹と暮らす。 15歳から消しゴムはんこを作り始め、2003年から、「はんこや象夏堂」の屋号で、インターネットやイベントでオーダーメイドのはんこ受注制作を開始。国内外での作品展開催をはじめ、『消しゴムはんこ。はじめまして』『消しゴムはんこ。で年賀状』(大和書房)、『津久井智子の消しゴムはんこ。教室』(主婦の友社)など著書多数。

消しゴムはんこ作家の先駆として、作品づくり、書籍制作、講師活動に忙しい日々を送る津久井智子さん。消しゴムはんこをつくりはじめたのは中学生のときでしたが「まさかこれを仕事にするなんて思ってもみなかった」といいます。特技が喜ばれて天職に結びついた、津久井さんの作家人生をたどりながら、自分らしく表現し、働くために必要なことを聞きました。
今回お伝えするのは、「売り込まずに仕事を得続けるコツ」について。全3話でお届けします。
全3話、第1話はこちらから、第2話はこちらからどうぞ。

100円の商品が1つでも売れたらプロ

もともと、私は、人と比べられたり、競争したりすることが苦手で、消しゴムはんこのようなスキマを見つけて一人で勝手にはじめたのも、前例も同業者も序列もない世界で、自由に開拓できる気楽さがいいなと思ったのが大きいです。

「消しゴムはんこ作家になるにはどうしたらいいですか?」って、中学生の子に聞かれたことがあるのですが、そのときは「屋号つくって、インスタにアップしたら明日にでもなれると思いますよ」って答えました。「100円で1個でも売れたらプロだよ」って。

「あなたのそれが欲しい」って思う人がいて、お金が発生すれば、その時点で立派なお仕事で、あとはそれで生計が立つかどうかだけでしょうから。

生計が立たなかったとしても、そのときは2〜3種類の副業で成り立たせたっていいわけですし、私も消しゴムはんこで食べていけなくなったら、どんな仕事がしたいか、よく考えます。

たぶん、自分の手で何かを作って、喜んでもらえる仕事だったらなんでも楽しいと思うので、小さいカフェバーとかでお料理を作ってカウンターで出して……というのも幸せだな、とか想像します。

作業机に座ってばかりだと身体がなまるので、毎朝数時間だけ、近くの温泉旅館で清掃のアルバイトをしようかと、まじめに考えたこともありました。健康と運動と早起きとお小遣い稼ぎを兼ねていてい最高じゃん!と。(笑)結局まだやっていませんが。

津久井智子

「自分らしさ」を自己分析してみる

私は学生の頃、飲食店でのバイトが多かったのですが、ホールをやらせると全然ポンコツで、5人のお客様のところに4つのお水しか持っていかなかったり、サーブの順番やお会計を間違えたりしていました。「あぁ、本当にマルチタスク向いてないなぁ」と、落ち込んだものです。

でも、調理場でのバイトになったら、すぐにお給料があがったんです。だから、一箇所で段取りに集中して手を動かしているほうが断然生産性が高い人間なのだと発見したのも早かったかもしれません。

自分なりに分析すると、私がやりがいを感じられて向いていると思う仕事は、 

・相手の要望にあわせた何かを、ていねいに自分の手で作ること 

・マニュアルをわかりやすく作ったり、教えたり伝えたりすること 

・自分の創意工夫が活かせること 

・お客さんと、直接のコミュニケーションでお仕事や注文が受けられること 

かなぁと思います。逆に、これが当てはまる仕事なら、なんでも満足できそうな気がしますし、一種類に決めないといけないとも思いません。

作家活動そのものが、実は副業

今も「消しゴムはんこ」という軸があるだけで、本を作ったり、教室で教えたり、グラフィックデザイン的なことをしたりと、ご依頼の内容によって、全く別の技術やセンスが問われる仕事を並行して受けているので、もしかしたらすでに何種類かの仕事を副業としてやっているのと実質同じことなのかもしれないです。

結果的に、消しゴムはんこの世界は、私の得意なことと性分と、やりがいがうまく重なったから、長く続けられているのかな、と思います。

自分の作ったものを通じて、お客さんとの対話や反応を喜びにしているところもあるので、私にとって消しゴムはんこというのは、絶妙なコミュニケーションツールというか、世界とつながるための窓口なんだと思います。そして、仕事を通じて自分自身を知るためのツール。この世の人間関係を学ぶための相棒でもあるんだと思います。

「売込み」をしなかった本当のワケ

とはいえ、消しゴムはんこなんていう遊び半分みたいな仕事が、自分の生業として長く続けることができるとは、まったく想像できないまま、気づけばここまでやってきました。

たとえ自分がいくら「これで身を立ててやる!」と意気込んだところで、はたして仕事として成り立っていたかどうか、本当にわかりません。

この18年間、SNSでも、リアルでも、自分から目当ての企業やお店に作品を持ち込んでだり、お仕事くださいという、いわゆる「売り込み」はまったくしたことがありません。

不思議なもので、お仕事以外の自由な行動によって生まれた人との縁がきっかけとなって、自然に次の仕事につながっていくことが多いように思います。

たとえば、お酒が好きで、一人で黙って飲むのは寂しいから、よく行きつけの店に飲みにいく。大好きなバーのマスターが、何気にお客さんに本を見せて紹介してくれて、お仕事いただいたりして。世界はどんどんデジタル化、リモートしていますが、実感としては、やっぱり生身で関わった人から縁が繋がっていくものなんだなと常々感じます。

「本を出そう」って言ってくれた大和書房の長谷川恵子さんとも、友達のカフェではんこ屋をしている時に偶然出会いましたし、代々木公園のイベントに出ていたらNHKの人が訪ねてきて、テレビに出ることになったりして。神様から絶妙なタイミングで出会いを授かって、「次はこのミッションから人生を学べ」と言われているように感じます。

何かをはじめて、動いていると、次の流れがやってきて、あとはそれに乗るか乗らないか。

自分ができることでチャンスを得たなら、とりあえずやってみる。考えた結果、乗らないを選ぶ時もありますが、基本的には、たいてい流れてくるものは今の自分に意味のある課題だと思っているので、未知数なことも「無理」とは思わずに、失敗覚悟で挑戦する姿勢でいます。

実はSNSからの仕事依頼は少ない

消しゴムはんこを作るというのは非常にアナログな仕事ですが、双子座だからか(?)デジタルにも強い方です。

まだWEBサイトが少なかった20年ほど前に、買ったばかりのMacのアプリでホームページを自作してみたり、SNSにも興味深く、そこは、いち早く活動の発信に取り入れてきたほうだと思います。

今インスタのフォロワーが4,000人くらいいますが、実際インスタを見てお仕事の依頼をくれる人は、意外と少ないです。

ネット上の流行は自分の仕事の増減にはあまり関係がなく、いいねの数とも関係ないように感じます。

SNSはどちらかというと、リアルなお客さんへの近況報告や、お仕事の記録のような感じです。

私の場合は、直接的な人間関係からのお仕事が多いし、どこからともなく舞い込んでくるご依頼メールがあったりしますが、どれもタイミングや流れが絶妙にありがたく、いつもこうして新しい仕事がもらえることが奇跡のように思います。

私の場合は、SNSやYouTubeで「いいね」をもらうためのことには、あまりエネルギーを注げないから、できる形でうまく付き合えればと思っています。

まかせてよいところは人に任せて、

不必要な情報はなるべくシャットアウトして。

でもメッセージはなるべく自分の考えと食い違いがないように自分自身の言葉で発信する……というように、そこはバランスをうまく取りながらいきたいと思っています。

全3話、第1話はこちらから、第2話はこちらからどうぞ。

取材/I am 編集部
写真/本人提供
文/MARU

この記事を書いた人

MARU
MARU編集・ライティング
猫を愛する物書き。独立して20年。文章で大事にしているのはリズム感。人生の選択の基準は、楽しいか、面白いかどうか。強み:ノンジャンルで媒体を問わずに書けること、編集もできること。弱み:大雑把で細かい作業が苦手。

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