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白川密成のお悩み駆け込み寺 僕にもわかりません「好きを仕事に」できていない私は負け組なの?

読者から寄せられた働き方や仕事のお悩みに白川先生がお答えする癒しのコーナー
【白川密成のお悩み駆け込み寺― 僕にもわかりません―】

白川密成

プロフィール

四国第57番札所栄福寺住職白川密成

住職。「ほぼ日刊イトイ新聞」に「坊さん。」を連載。その後、著書『ボクは坊さん。』(ミシマ社刊)が映画化。著書多数。

++ 今回のお悩み ++

【「好きなことを仕事に」というキャッチコピーが世の中に多くてモヤモヤする】

仕事に子育てに忙しいワーママ(正社員)です。

下の子が小学校を卒業し、子育てに一区切りがついたところで、ようやく自分の時間が持てるようになりました。何か新しいことを始めたいと思いネットを見ていると、とある女性のインタビュー記事が目に止まりました。その方は私と同じぐらいの年齢で子どももいながら起業している女性でした。大きいお子さんがいるようにはとても見えないほど、若々しく、生き生きしているように見えました。記事にも「自分の好きなことで起業して毎日が楽しい」と語っていました。それからというもの、この手の記事がやたらに目につくようになりました。特に「好きなことを仕事に」という触れ込みが本当に多いなと感じていて、なんとなくその言葉にモヤモヤし始めています。

自分自身がやりたいことがないからかもしれませんし、本当は心の底で羨ましいだけだとも思います。

だけど世の中皆がそのようにキラキラした生き方が出来るわけじゃない…と、なぜメディアはそのような劣等感を植え付けるような言葉を発信するのか…と、モヤモヤしています。

(40代女性)

白川先生からあなたに贈る言葉
彼岸(ひがん)

劣等感を感じるのは、普通のこと

 僕も、「好きなことが仕事になったらいいなぁ」とわりとシンプルに思うことが多いので、お悩みを拝読して、「なるほどなー、そういう視点もあるなぁ」と妙に納得しました。そして、あなた自身も書かれているように、「キラキラした人」というよりも、むしろ「なぜメディアはそのような劣等感を受え付けるような言葉を発信するのか」というメディアの切り取り方に、違和感を感じられているように拝読しました。またその違和感の中には、「劣等感」の問題だけでなく、「またかよ・・」という紋切型の話題に対する不満もあるように感じます。

 さらに難しいことに、SNSの登場以降、メディアばかりでなく個人や商品、会社組織からも、そのような優越感と劣等感が増幅する発信を受けとることも増えていますよね。“そんなことを考えてもしょうがない”と「わかっていても」ついつい劣等感を感じてしまう…。むしろそのような人が一般的だと思います。

あなたに合ったメディアもある

 では、どうればいいのでしょうか。大変難しい問題です。おそらくメディアも個人も、同じような発信を続けるでしょう。個人的にはそう思います。やはりメディアは、良くも悪くも「目立っている人」を取り上げるでしょうし、個人にしても、やはりうれしい時には、誰かに伝えたくなるものです。

 しかし有難いことに、少しアンテナを広げれば、わかりやすい「キラキラした生き方」よりも、もう少し現実的で、多様性のある発信をするメディアも、現代では、いくつか存在すると思います。これは、あなた自身との相性の問題なので、「どのメディアが」と断言することはできませんが、きっとあなたが、かなりぴったりくるメディアも存在すると思います。メディアにしても、個人の発信にしても、ほったらかしにしておくと、渦に巻き込まれやすい時代です。「なにをブロックするか(受けとらないようにするか)」「なにを能動的にキャッチしに行くか」を今まで以上に、吟味してみましょう。苦手な発信から、まずは距離をとってみてください。

 私自身も、心がザワザワ、モヤモヤしやすい性格ですので、定期的にSNSのフォローを見直しています。仏教の教えの中にも、「人は、驚くほど、共にいる人の影響を受ける」という意味の教えがあります。これは、とても大事なことです。

「気になる」心は暴発しやすい

 しかし、なぜ人間はこんなにも気になるのでしょうか。おそらく「気にする」ことが、人間にとって、かなり根本的で大切な能力だからです。例えば「危ない道」に気づくことができるのは、「気になる」からです。「私は人より劣っているのかも」という辛い劣等感に繋がる感情も「劣っていると、生存が脅かされる」という本能的感情にセットされているでしょう。

 「人間の本能」というものは、「食(生命維持)」にしても「性(種の保存)」にしても、大きな「喜び」に繋がっていると同時に、大切であればあるほど、暴発しやすいようです。現代では、「気になる」気持ちも「劣等感」も巨大化する可能性が増しています。

 まずは手軽な防衛措置を準備しながら、「気になる」「劣等感という感情」が、そもそも本質的であるからこそ、大きくなりやすいという認識は、持っておきましょう。「あ、私の本能が、必要以上に機能しているな」とわずかでも客観性を持てると、少し楽になるきっかけになることがあります。

「向こう岸」に行ってひと休み

 あなたに送る言葉は、「彼岸」(ひがん)です。春と秋の「お彼岸」としても親しまれる言葉です。この彼岸には、「向こう岸」という意味があり、仏教では「目指す理想の境地」を示す言葉です。迷いの世界であるこちら側の「此岸」(しがん)から、彼岸を目指すのが仏教というわけです。

 こう聞くと、とても遠い場所にあるように感じます。しかし、この「向こう側」というイメージは日々の中で、アイデアのように用いることもできます。先ほど挙げた「気になる」「劣等感」に100%巻き込まれる状態から、少し「向こう側」に渡って、それをただ眺めてみる。

 ただ煽るようなメディアや個人からは、少し物理的な距離感を作って「向こう岸」に渡り、「遠くに行ってみる」そんな風にも、この彼岸という言葉を使ってみてください。合い言葉は、「ちょっと、あっち側に行こう」です。同じ土俵に立つのを避けるんです。

 また人間は、誰しも「ひとつのこと」を考えやすい性分がありますので、単純に「他のこと」を考えて、やってみてください。どんなに気になることでも、落ち着いて考えれば、もっと大事なことはあります。

 それでも「気になる」ことは、たくさんあるでしょうけれど、「少し離れる」だけでも、ずいぶん気楽になると思いますよ。応援しています。

今日のまとめ 

  • 嫌な発信からは、物理的距離をとって、好きなメディアを見つけよう。
  • そもそも「気になる」「劣等感」が、巨大化しやすい時代である。
  • 「あっち側」(彼岸)に行くイメージを、生活の中で使ってみる。
  • 「気になること」よりも、もっと大事なことを考え、やる。

【直感・運気アップ】

子供の頃、好きだった場所、よく遊んだなつかしい場所に行ってみましょう。誰かと比較するばかりではない「素の楽しさ」を思い出すかも。

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この記事を書いた人

白川密成
白川密成四国第57番札所栄福寺住職
「ほぼ日刊イトイ新聞」に「坊さん。」を連載。その後、著書『ボクは坊さん。』(ミシマ社刊)が映画化。著書多数。他の連載に「密成和尚の読む講話」(ミシマ社「みんなのミシマガジン」)、「そして僕は四国遍路を巡る」(講談社、現代ビジネス)など。執筆や講演会などで仏教界に新風を巻き起こすべく活動中。趣味は書店で本の装幀デザイナーを当てること。1977年生。
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