Series
連載

白川密成のお悩み駆け込み寺 僕にもわかりません下積み期間とわかっていても、お金を稼げないと焦ってしまう

ログインすると、この記事をストックできます。

読者から寄せられた働き方や仕事のお悩みに白川先生がお答えする癒しのコーナー【白川密成のお悩み駆け込み寺― 僕にもわかりません―】

白川密成

プロフィール

四国第57番札所栄福寺住職白川密成

住職。「ほぼ日刊イトイ新聞」に「坊さん。」を連載。その後、著書『ボクは坊さん。』(ミシマ社刊)が映画化。著書多数。

++ 今日のお悩み ++

【下積み期間とわかっていても、お金を稼げないと焦ってしまう】
40歳 女性 ハンドメイド作家

私は現在、仕事をしながら、寄木細工でアクセサリーや小物を作るハンドメイド作家活動をしています。月に1回マルシェに出店したり、ワークショップを開催したりして活動しています。今はまだ、売上は赤字で、十分なお金を稼げてはいません。まとまったお金を稼げるようになるまでには時間がかかると思いますし、それまでは下積み期間だと割り切ってとにかく経験と実績を積んで、人との繋がりを作ることが大事だと頭では理解しています。しかし、実際にお金を稼げていない以上私の活動はお仕事とは言えず、自分の活動に胸を張れません。「こんなことやっていて、うまくいくのかな」「努力の方向性が間違っているのか」「時間の無駄なんじゃないか」という想いが常にあります。常に前向きに、自分に自信を持ちたいです。どうしたらマイナス感情を乗り越えられるのでしょうか。

白川先生からあなたに贈る言葉
機嫌

「場」があることが、うれしかった

お悩み、ありがとうございます。

まず自分の話からすると、私自身は元々好きだった「文章を書くこと」が、対価を得るような仕事になるとは想像していませんでした(どこかで「遠い夢」のようにはあったように思います)。

振り返ってみると、ひょんなことから、自分が読者としてファンでもあるインターネット・サイトに20年以上前に連載することになり、それが「きっかけ」にはなったのですが、そのサイトでは、7年間、不定期に好きな時に書き、お金としての対価は頂くことはありませんでした。

私のようなそこではじめて執筆デビューさせてもらった無名の人も、驚くほど著名な人も「タダでもやりたいことをやる」ということ自体が“コンセプト”になっていたメディアでした。でも、そのような中で「いつか報酬を得ながら、文章を書けたらな…」とは、不思議に思うことはありませんでした。

それは有難いことに住職として、生活の基盤はあったこともあるのですが、なによりも大好きなメディアで、得意なことの発表の「場」があり、読者の反応があることが、とてもうれしかったからです。

報酬があることは、やはりうれしいこと。

ただ私は、あなたに「そんなに焦らずに、気長に楽しんだらどうでしょうか?」と安易に言うつもりもありません。なぜならあなたの、「好きなことが、仕事としても成立したらなぁ」という気持ちも、切実に感じられるからです。

それは私の場合、「仕事として成立してから」気づいたことでした。

「自分の得意技が仕事になる」
「得た報酬で、(例えば)大切な人にプレゼントが買える」

お坊さんが言うと、なんだか欲深くて、怒られそうですが、やはりそのことはとてもうれしいことでした。

ゆたかな“趣味”の世界

話が行ったり来たりしますし、前にも書いたかもしれないのですが、私は「趣味」という感覚や言葉が、もっと価値のあるものではないかと思っています。

「趣味」というと、“仕事にならない趣味程度のもの”という感じで、ひとつ下に見られることがあります。しかし、この「趣味」という領域には、“単純に好き”という、とても豊かな世界があるのです。

例えば、「お菓子作りが趣味なんです」という人は、結構おられますが、「週末の小説執筆が趣味です」という人は、あまり聞きません。こういう人がもっといてもいいですよね。

「仕事にはならない可能性もあるけれど、単純に好きだからやってる!」ということも、「(かなり)よきこと」として、もう一度見直すことで、むしろ未来が開けてくる可能性もあると感じました。

そのことに関わっていること

ある国際的に活躍するアーティストのインタビューを読んでいて、心にずっと残っていて、あなたの悩みを伺ってあらためて思い出したことがあります。

それは、(記憶なので細部は曖昧ですが)「自分は、偶然が起こらなければ、平凡な美術教師として学生を教えていただろう。でもそれで満足して、充実した生活を送っていただろうという確かな実感がある」という話です。

「こうなったらなぁ」という夢や目標はある、でも「それが叶わなかったとしても、このことが好きなんだ」という感覚は、とても大切なものなのです。私もあらためて大事にしようと思いました。

仕事になっても自信はない

それでも同時に「いつかこれが仕事になったらなぁ」というシンプルな思いは、ずっと持っていて、いいように思います。私も「仕事」になった時、すごくうれしかったから。また創作するうえで、あなたが書いているように「常に前向き」になったり、「自信を持ち続ける」のは、難しいという場面も結構あるのではないでしょか。

私自身も、仕事として執筆に向き合うようになってからの方が、自信を失ったり、前向きになれないことが多くなりました。やはりどの分野でも、上を見ればすごい人がいますし、当たり前のことです。

具体的にも動いてみよう

少しだけ、具体的なアドバイスをすると、よくある分野で1流の人が、「誠実に高いレベルのものを作り続けていれば、自ずから流れはできてくる。あなたは探すのではなく、勝手に選ばれるようになります」ということを話されます。

「へー、そういうものか」と思っていたのですが、私のような凡夫の世界では、自分で本が作りたくなって、素人ながらデザイン雑誌を買って知った印刷屋で、恥をかきながら製本の制作費の見積をとったり(すごく親切に対応してくれました)、その高額にびっくりして手作りで作って古着屋に置いてもらったり、少しずつ発表のあてのない小説を書き始めたり、偶然知り合った出版社の人に企画提案をしたり、「自分から動く」ことが、(失敗の方が多くても)やはり意味がありました。

「待っていたら、すべてが動き出した」と天才風に言いたいところではありますが、現実的には、自分で試行錯誤しながら、色々な具体的な動きをしてみることを個人的にはお勧めします。嫌がられることももちろんあるので、傷つくこともあるけれど、大事なことだと思っています。

「機嫌」

あなたに贈る言葉が、「機嫌(きげん)」です。今でもよく使われる言葉ですね。仏教語を紹介していると、古い言葉が多いので、「少しずつ意味が変わったり、加わったりする言葉」がとても多いことを知ります。言葉の意味は、じつは動き続けています。

この「機嫌」には、仏教語としては、「人々がそしり(悪く言うこと)、不愉快に思うこと」という意味があります。「機嫌戒(きげんかい)」という、「世の人のそしり忌み、修業のさわりになることをしない戒め」という仏教語もあります。

今では、いい意味で「ご機嫌」という言い方もありますし、一般的な「気持」「気分」を指すことのほうが、多いようです。

前半でも触れたように、夢や目標、不安があっても「現状の自分」の“機嫌をとる”ことも大事にしてみてください。自分の作家活動をマルシェに出したり、ワークショップを開催するにもかなりの努力と勇気、そして作品の完成度が必要であったでしょう。その自分にすこしねぎらいの言葉をかけ、目の前の先品作りに集中し、ワクワクしながら出会った人に伝えてみてください。応援しています!

<今日のまとめ>

  • 「場」があること自体がうれしいこと。
  • 「趣味」というもののありがたさ。
  • 仕事になっても自信がないことは、いっぱいある。
  • 具体的に動く。
  • 「機嫌」という語をヒントに、自分の機嫌もとってみよう。

直感・運気アップ

あなたの作品をそのままでも、なにかアイデアを加えたりしてもいいので、今年は出会ってピンと来た人やSNS、ホームページ、賞への投稿など「今までとは違う場所や人」に触れる機会を作ってみてください。

この記事を書いた人

白川密成
白川密成四国第57番札所栄福寺住職
「ほぼ日刊イトイ新聞」に「坊さん。」を連載。その後、著書『ボクは坊さん。』(ミシマ社刊)が映画化。著書多数。他の連載に「密成和尚の読む講話」(ミシマ社「みんなのミシマガジン」)、「そして僕は四国遍路を巡る」(講談社、現代ビジネス)など。執筆や講演会などで仏教界に新風を巻き起こすべく活動中。趣味は書店で本の装幀デザイナーを当てること。1977年生。

ログインすると、この記事をストックできます。

この記事をシェアする
  • LINEアイコン
  • Twitterアイコン
  • Facebookアイコン