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白川密成のお悩み駆け込み寺 僕にもわかりません今まで苦労して働いてきたのに自分には何もないと感じてしまいます

読者から寄せられた働き方や仕事のお悩みに白川先生がお答えする癒しのコーナー
【白川密成のお悩み駆け込み寺― 僕にもわかりません―】

白川密成

プロフィール

四国第57番札所栄福寺住職白川密成

住職。「ほぼ日刊イトイ新聞」に「坊さん。」を連載。その後、著書『ボクは坊さん。』(ミシマ社刊)が映画化。著書多数。

++ 今回のお悩み ++

新卒から約20年、一度も転職することもなく今の会社で働いてきました。

もともと負けず嫌いの体育会系で、

人より評価されたい、同期の中で一番に出世したいという気持ちも強く、

男性と肩を並べて働いてきました。

その思いは結婚・出産を経て、むしろより一層強くなり、

ママでもキャリアを積んで認められたいと家事育児と仕事の両立で30代の10年はあっという間に過ぎました。

そこにきていきなりのコロナショック…会社は旅行関係のため大打撃。

すべてのプロジェクトがペンディング状態になりました。

すると会社から出向してほしい言われ、自分が今まで積み上げていたものが崩れ去り、

空っぽになってしまったかのうように感じます。

私が今まで必死にやってきたこと、それは一体何のためだったのだろうかと空しい気持ちが拭えません。

(40代女性)

白川先生からあなたに贈る言葉
「機縁」(きえん)

“私”も状況も変わり続けている

 こんにちは。お悩みをありがとうございます。

 悔しいですよね。人一倍、我慢されてきたことも多いでしょうし、築き上げてきたものが一気になくしてしまったような気持ちにもなると思います。そのうえで、できることを一緒に考えてみましょう。

 「私」という存在は、「私」という存在だけでは成り立っていません。まわりの「状況」もなにもかもを含めて私を作りあげています。その「私」も「状況」も、諸行無常で変わり続けているので、どんなに築き上げてきたものでも、常に変化し続けるというクールな認識は、今回のコロナに限らず必要ではあるとは思います。しかし、それは「わかっている」けれど、悔しい、空しいというのが正直なところでしょう。僕にも、そういう経験があります。

商売が変わった

 ある落語家の方が、このコロナの状況がはじまった頃に、「これは商売が変わったつもりで取り組まなければいけない規模のことだ」と話されていました。僕は認識が甘かったようですが、今となっては、その通りだと思います。

 しかし、今のところ、あなたも僕も命があります。これは大きい。悔しさを十分に噛みしめたら、体育会系精神を大いに活かして、「まだゲームセットじゃないぜ」と立ち上がろうとする力が、あなたにはまだまだあると文章を読んで思いました。ただある意味で、その「ゲーム自体」が変わったのかも知れません。まずは、「命があること」「社会が変わったこと」をお互い認識しましょうか(僕はまだ頭が追いついていませんが)。

コロナが教えてくれたこと

 それと同時にまわりを見渡すと、コロナによって「大切なもの」が変化したと感じている人も多いです。今まで仕事や遊び、お金、世間的な成功を当たり前にとても大事にしてきたけれど、「ひとりの落ち着いた時間」「自然とのふれあい」「家族、友人との時間」などの優先順位が、かなりあがったという人が大勢います。その人達は、口を揃えて「コロナが自分にとって大切なことを教えてくれた」と語ります。このあたりで、「人生には他に大事なものもあるのかな」という問いかけをしてみる時期が来ている可能性もあるでしょう。

機縁というきっかけ

 あなたに贈る仏教語は、「機縁(きえん)」です。もとは、「仏教の覚りをひらくきっかけ」のことで、それが転じて、物事のきっかけを示す言葉としても広く使われるようになりました。もうコロナは起こってしまったことです。これからも、想像しないようなことが起こることもあるでしょう。できることならば、もう腹をくくって、「コロナに出会ったことを機縁にしよう」と考えるしかないように感じます。

 仕事においても、新しい取り組み、飛躍のきっかけになる可能性も大いにあるでしょうし、今の状況のなかで、できることを粛々とやっていきましょう。その際に、今までの「結果」の重視から、少し「過程」の手応えや、楽しさに心を向けてみるのもいいでしょう。今までとは違う角度で仕事をみたり、仕事の優先順位をあえて下げたりすることだって悪いこととは思いません(だからこそ見える新しい仕事もあるでしょう)。

 そして人生においても、「コロナがなければ気づけなかった」ことと出会う機会になり得ることもあるでしょう。

めざめる条件

 この「機縁」によってめざめるには条件があると言われています。それは“その人の心の中に、教えに反応する<機>が備わっている”ことです。「準備が必要」ということです。今回、お話ししたことが、あなたの心の中の<準備>のひとつになることを祈っています。

 繰り返しになりますが、あなたが心から苦しい、悔しいと思うことは、当然のことです。まずは、そのことを否定せず、そのうえで今回お話ししたことを少し考えてみてください。

今日のまとめ 

  • あらゆる仕事の「商売が変わった」。
  • 大事なものは、他にもある。
  • 「きっかけ」と捉えてみる。
  • きっかけに出会うには準備が必要。

【直感・運気アップ】

寝る時間は、人生の思いのほか多くを占めます。寝室を掃除したり、お気に入りの枕にしてみたり、布団をメンテナンスしたりしてみましょう。

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この記事を書いた人

白川密成
白川密成四国第57番札所栄福寺住職
「ほぼ日刊イトイ新聞」に「坊さん。」を連載。その後、著書『ボクは坊さん。』(ミシマ社刊)が映画化。著書多数。他の連載に「密成和尚の読む講話」(ミシマ社「みんなのミシマガジン」)、「そして僕は四国遍路を巡る」(講談社、現代ビジネス)など。執筆や講演会などで仏教界に新風を巻き起こすべく活動中。趣味は書店で本の装幀デザイナーを当てること。1977年生。
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