絶対に失敗するカフェの作り方小さなカフェ経営の極意。オープニングキャンペーンは百害あって一利なしのその理由
横浜で土日の行列の絶えない喫茶店「珈琲文明」のマスターがお伝えする、小さなカフェの立ち上げ方。今回のテーマは「オープニングキャンペーン」です。
マスター1人で経営する小さなカフェを立ち上げて、長く続けていく方法をお伝えしていくこの連載ですが、驚くほど具体的に、かつ「絶対に失敗する方法」をお伝えしながら、逆張りをすることで成功へと導くメソッドを公開しています。今回は、個人店、マスター1人の小さなカフェをオープンする際に、絶対にやってはいけない「オープニングキャンペーン」のお話です。
目次
カフェをオープンしようとしている人がやめた方がいいアレ
あなたがこれから開こうとしているカフェが「黒字で長く続けて行く」ということを本気で考えているのであれば絶対にやめておいたほうが良いことがあります。
それは、ズバリ「(値引きを伴う)オープニングキャンペーン」です。
なぜかというと、理由は2つです。
1)不慣れな状態でのキャンペーンは危険
ただでさえ開店早々不慣れでオペレーション的にも不安しかないような状態にドッとお客さんが来店し何等かの不手際や不満足の結果を与えてしまってそのお客さんたちがもう二度と来店しないことになるなんて悔し過ぎます。
2)安いからきた人は良客にならない
パチンコ屋で新装開店時だけを狙い訪れるお客さんがいるように、飲食店も、オープニングキャンペーン<だけ>を狙ってきた人の多くは、正規の値段になったらもう来なくなる可能性が高いです。
お店ができたというだけで実は宣伝効果ばつぐん
そもそも、立地や内装など、これまで連載でお伝えしてきたことを守ってお店を出せていれば、「近所に新しいお店ができた」というだけで十分過ぎるほどの宣伝訴求効果があります。
「新しモノ好き」な人というのはどんな地域にも一定数いるものですからね。
創業当初はそういう人たちで結構繁盛するものなので余計なキャンペーンや宣伝などせず、来てくださったお客さんだけをしっかり見て全力できめ細かい接客を心掛けること。
これ、めちゃくちゃ大事です。
そして、長距離走である店舗経営には必要なことです。
やるなら「サイレントプレオープン」がベスト
とはいえ、オープニングには何かやりたい。その気持ちもわかります。
実は、「プレオープン」という手法がありまして、これは正式オープンの前に限定的に開店し、オペレーションの確認や店舗運営全体の流れを掴むための試運転的にオープンすることなのですが、多くは、身内や友人知人限定で行なうことが多いです。
しかし私はこうした一般的なプレオープンというものにも、実は、反対です。
ということで、実際に私が珈琲文明で実施したのは「サイレントプレオープン」という手法でした。
それは、身内にも知人にも明かさない静かな試運転
「サイレントプレオープン」とは身内や友人知人にも開店日を明かさずまるで昔からそこにあったかのようにシレ~ッと開店することです。
とはいえ、本当に一切告知しないというわけでもありません。
内装工事中や今にも竣工する店舗のシャッターに「この度ここにお店を開くことになりましたカフェ○○です。ネットをはじめ一般不特定多数への宣伝はせず○月〇日より静かに開店しますのでこの貼り紙を見た人だけが知ることになります。まだ不慣れではございますがぜひお越しください。お待ちしております」といった貼り紙をしておくくらいはありです。
お店の前を通る人だけに知ってもらう機会
つまりここでいう「サイレント」の意味とは、身内や友人知人にこそ、徹底的に内緒にすべしという発想であります。逆に、店舗のある近隣地域、お店の前を通る人だけに知ってもらうことを目的にしています。
なぜそんなことをするのか?
それはこれから長きに渡って続いていくあなたのお店に純粋にきてくれる人、そして、これから長い期間営業を続けていく中で、「創業当初から支えてくれた」と振り返ることができる、生粋の(友人知人じゃない)お客さんとの絆を深めるまたとない機会だからです。
だからこそ、不慣れな中でとにかく来たお客さんに全力で、一生懸命に対応し、粗相あらば謝罪し、店内にいるお客さんに全身全霊で接客するのです。
その気持ちをきっと創業時のお客さんは汲み取ってくれるものです。
身内や友人知人がいることによる弊害を防ぐ
そんな中に身内や友人知人に開店日を知らせたならば、必ずや開店初日や最初に足を運んでくれるでしょう。きっと、純粋に応援してくれますよね。
しかし! 友人知人がお店にいるというのは、どうしても緊張感が薄れます。
全体の集中力や注意力が削がれることになり純粋新規客への注意力が欠落してしまうものです。
こんなこと言うと「友人知人はないがしろにしていいのか?」と思われるかもしれませんが、もちろんそんなわけではありません。
超重要であります。
超重要であるからこそ友人知人には「プレオープン」という試運転的なまだ素人っぽい段階の状態を見せないほうがいいと思うのです。
未熟な状態の店に来た友人知人というのは、良く言えば「アドバイス」、悪く言えば「上から目線」で色々と好きなように忠告してくれたりします。
そうした友人知人にとってそのお店はおそらくその後そのお店が立派になったとしてもいつまでも「なんとなく軽く見てしまう」ような感覚になるものです。
これ、わかりますかねー。
例えば、「高校で突然ヤンキーデビューしたヤツが実は小中の頃は全然ネクラでボサっとしたヤツだったっていうことを知っている友人は彼がヤンキーになってもそんなに怖くない」みたいな感じです(笑)。
大事な友人知人であるからこそ開店最初からいきなりバリバリのヤンキー、もとい、プロフェッショナルなカフェ店員やバリスタとして接してあげたほうが友人知人にとっても「ちゃんとしてるし今度は職場の友人連れてこよう」とかあるいは第三者的な相手に対し効果的なクチコミなどをしてくれる可能性が高いと思っています。
それに、本当の友人とは、お店を開こうが開くまいが既に絆は深まっているものです(よね?)。
サイレントオープンがもたらしてくれるもの
そろそろ、話をまとめます!
「サイレントプレオープン」とは、友人知人そしてネット上の不特定多数の人への開店告知を極秘にして、店舗近隣の人だけに伝えて始め、その間来店した純粋新規客に対して全身全霊全力で接客するという手法のことでこうして出会った創世期のお客さんとは絆レベルで以後もつながることが多い……ということです。
筆者が行ったサイレントオープンで渡した手紙
ちなみに私のお店(珈琲文明)で実施したサイレントプレオープンは2007年6月16日~7月6日までの約三週間ほどで、2007年7月7日がグランドオープンでした。
今日は最後に創業初日に来店した最初のお客様、つまり珈琲文明来店第一号のお客様に対してあらかじめ用意して渡した手紙がありますのでそちらをここに掲載しておこうと思います→(実際は手書きです)
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珈琲文明来店第一号のお客様へ
初めてのご来店 ありがとうございます。
当店にとりまして、あなた様が初めてのお客様になります。
このお手紙はオープン前に書きました。
当店がオープンして、一番初めに来店されるお客さまは、いったいどんな人なんだろう、
男性だろうか?女性だろうか?
年上だろうか?年下だろうか?
いろんな想像にワクワクしながら、今この手紙を書いています。
あるいは、こんな手紙を突然渡されて困惑なさるかもしません。
でも、抑えきれない思いを込めたこの手紙を直接手渡したい気持ちは、
もうどうしようもありません。
珈琲文明は本日この瞬間から、百年続けていくのが目標です。
大袈裟な!と笑ってください。
しかしこれは大真面目に思っています。
つまり私が死んでもこの店は残したい、という、とにかくかなりの長きに渡って続けていきたいというのが、目標です。
こんな具合に考えておりますもので、「これから百年続くこの店の、記念すべき第一号のお客様」ということで、こちらとしましてはかなりの興奮状態にありますので、実際にお客様がいらした時の自分の感情、表情、がどのようなものなのか、自分でも想像ができません。
今回、本当の意味で、第一号のお客様を知りたいということから、親戚、知人、友人にいたるまで、かなり徹底して、本当のオープンの日も伏せて参りました。
大掛かりな宣伝もせず、ひっそりと開店してみました。
そんな中で、最初の扉を開けていただいたわけです。
この縁を大切にしていきたいと思います。
今後、何十年後かにこの店が「老舗」と呼ばれるほどになった暁に、「この店は私が第一号の客なんだ」と感慨深くなっていただけるよう、これから頑張って運営していきますので、よろしくお願いします。
同時に第一号のお客様にはいつまでも元気でいていただきたいので、いつも、いつまでも、ご多幸をお祈りしております。
突然こんなものを渡してしまい申し訳ありませんでした。
ただ、私自身、随分前から、お客様第一号の方に早く会いたい、という気持ちでいっぱいでした。
本日、やっと会えました。感激です。
ありがとうございました。これからもよろしくお願いします。
2007年6月16日
珈琲文明 赤澤珈琲研究所代表 赤澤 智
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後日談ですが、記念すべき第一号のお客様は「山形県からお越しで娘さんがこちらに住んでいる」というご家族3名様でした。
手紙も大変喜んでくださり、その後何度も来店してくださりその時の娘さんは結婚して子供が生まれたりしてなおも来店してくれています。
まさに絆レベルのお客さんです。
さあ、どうでしょうか。
あなたが、今出そうとしているお店のオープンは1回きりです。
そのオープンをどう彩るのか、そして、お客様との絆をどう結ぶのか……ぜひ参考にしていただけたら嬉しいです! 珈琲文明店主・赤澤智でした。
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この記事を書いた人
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脱サラ後40歳でカフェ経営を始め16年。
強み「しっかり腹落ちしたことならば成果が出るまで粘り強くいつまでも続けられる」。
弱み「人見知りが激しく、興味のない物事(人含む)にはまったく関心がない」