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インタビュー

斎藤工が感じた「零落」の主人公・薫と自身の共通点は「いびつさ」。竹中直人監督が「撮影中に感じた息苦しさを切り取ってくれた」

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映画「零落」に主演した斎藤工が、浅野いにおの原作漫画への強い思い、そして「撮影中の息苦しさまで切り取ってくれた」と感じた竹中直人監督の演出を語りました。

プロフィール

俳優・映画監督斎藤工

1981年8月22日生まれ、東京都出身。2001年に俳優デビュー。映画『シン・ウルトラマン』(22)に主演。2023年は、1月より出演作が続々公開。9月には最新長編監督作 映画『スイート・マイホーム』の公開が控える。

竹中直人監督の映画「零落」に主演した斎藤工にとって、浅野いにおの原作漫画は「常にそばに置かなくてはいけない、神棚のような作品」だったといいます。主人公・薫と自身の共通点、そして作品を演じる中で感じた「下等な感情がまとわりついている感覚」とは――。

『零落』の1シーン ©2023浅野いにお・小学館/「零落」製作委員会

斎藤工が、常にそばにいてほしい数少ない漫画「零落」

――主演映画「零落」では、元人気マンガ家の深澤薫を演じています。オファーを受けようと思われたきっかけを教えてください。

斎藤:一個人としてというよりは、竹中(直人)監督が「零落」という原作に対して、(監督と主演を務めた)映画「無能の人」のときのように、何か磁力というか必然的に結び合うような流れに思えたんですね。

――必然ですか。

斎藤:私自身、浅野いにおさんが描き下ろされた原作コミックのファンでもありました。頻繁に開ける作品ではないんですけど、この「零落」という作品だけは、なぜか常にそばにいてほしい数少ない漫画の一つだったというのがあります。

――思い入れがある作品だったのですね。役としてはどのように向き合われたのでしょうか。

斎藤:そういった作品に関わるっていうのは、見えないプレッシャーみたいなものも発生してしまうんですけれど、竹中さんとは『ゾッキ』(山田孝之、竹中と斎藤が共同で監督を務めた)という作品でご一緒した経験もあったので、主観というより、俯瞰の感覚でこの流れに身を任せて、この作品と役柄と出合わせてもらおうという思いがありました。竹中さんありきですね。

『零落』の1シーン ©2023浅野いにお・小学館/「零落」製作委員会

『零落』『無能の人』作品に引力を感じた

――「零落」は「無能の人」とリンクする部分も多いですね。

斎藤:浅野さんに、2作品がリンクしたことをお伝えしたら「まさにそうだ」とおっしゃっていました。底知れぬ零落感というか。もしかしたらつげさん(『無能の人』の原作者・つげ義春)の作品は、零落とはまた違うのかもしれないですけれど。
落ちて行くことに雑多なものだったり、ちょっと下等なものに生きるということを見いだしている感覚は、つげさんの作品を浅野先生の咀嚼の仕方で表現されたもので、そこに反応していたのかもしれません。その引力を感じていたので、竹中さんから「零落」というワードが出たときは、驚きと同時に必然を感じたんです。

――原作の「零落」について、「そばにいてほしい作品」とおっしゃっていました。なぜそのようなお気持ちになったのでしょうか。

斎藤:「零落」を読んだときに、「浅野先生は本当のことを描いてしまった」と感じました。浅野さんの中でデフォルメがあったとしても、ちゃんとご本人の内臓を描いてくれている。そういうものは、自分の周りに置いておかないと、すぐ嘘っぽい自分になってしまうので、その最初に感じた心の歪みを忘れないために、戒めじゃないですけど、そばにおいておかなくてはいけないと感じました。そう感じる作品はたくさんあるんですけど、本棚とか神棚のようなところにある作品の一つです。

『零落』の1シーン ©2023浅野いにお・小学館/「零落」製作委員会

「ややこしさ」に適応できる職業が俳優?

――演じられた深沢薫と斎藤さんと共通点はどのようなところにありますか。

斎藤:どの世界も次世代が台頭してという自然のサイクルがあると思うのですが、その流れを理解しようと思う自分と、もしかしたら自分だけは、その前例とは別の何かが起こるんじゃないかと期待しながら現実を眺めているところとか。インタビューの回答も、英語の文法みたいに結論から言えばいいって自分でも思うんですけど、ややこしくしてしまって……。

――そこが斎藤さんらしさではないでしょうか。

斎藤:そうですね。この職業の面白いところが、そのややこしさみたいなものが、適応できる可能性があるところだと思うんです。こじらせているというか、いびつさの報われ方が一つあるのかなっていう。だから薫のまん丸じゃないことへの喜びと悲しみみたいなところが、なんかすごい自分みたいだなという風に思います。撮影も、楽しく過ごすというよりは、ちゃんとしんどい時間でした。仕上がったものを観たときにも、息苦しかったなという感覚が蘇ってきたので、そこを竹中さんは演出して切り取ってくださったなと、個人的には思っています。

――薫のように誰か心を許せる人の前で泣いてしまったりというようなことは、あったりしますか。

斎藤:もしかしたら、漫画家の方やミュージシャンの方など、何かを表現する方はそうする傾向にあるかもしれないんですけど、日常の中で決して外に出さない、他人に見られたくないような自分のリアクションについて、涙が出る出ないもそうですけど、ちゃんとインプットして、自分の引き出しにしまっておこうと常に思っているんです。自分はこの感情の時に、こうなるんだってことを把握したい。
それは、クリエイターの苦しみとかいう綺麗なものではなく、もうちょっと本当に下等な感情で、それがまとわりついている。失っていくものすら、自分の得るものにしようという。それが、僕が職業柄思う、感情っていうものでもあるんです。

『零落』の1シーン ©2023浅野いにお・小学館/「零落」製作委員会

スタイリスト:三田真一
ヘアメイク:赤塚修二
取材・文/翡翠
編集/MARU

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©2023浅野いにお・小学館/「零落」製作委員会

公開情報

『零落』
日時:3⽉17⽇(⾦)よりテアトル新宿ほか全国ロードショー
製作幹事・配給:⽇活/ハピネットファントム・スタジオ
出演:
斎藤⼯
趣⾥ MEGUMI
⼭下リオ ⼟佐和成 吉沢悠 菅原永⼆ ⿊⽥⼤輔 永積崇
信江勇 佐々⽊史帆 しりあがり寿 ⼤橋裕之 安井順平 志磨遼平 / 宮﨑⾹蓮
⽟城ティナ / 安達祐実
原作:浅野いにお「零落」(⼩学館 ビッグスペリオールコミックス刊)
監督:⽵中直⼈
脚本:倉持裕
公式サイト:https://happinet-phantom.com/reiraku/#modal
公式ツイッター:https://twitter.com/reirakumovie
公式Instagram:https://instagram.com/reirakumovie

この記事を書いた人

翡翠
翡翠執筆・写真
音楽や映画、舞台などを中心にインタビュー取材や、レポート執筆をしています。強み:相手の良いところをみつけることができる。弱み:ネガティブなところ。

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