Interview
インタビュー

お店を作りたいのに、不動産を借りれないのは女性だから?独立・開業の意外な壁/正伯和美さんインタビュー第2話

趣味をお菓子作りから、ブログ、教室、通販。ついに自店舗への想いに火がついた。ベテラン主婦が店舗オープンのために物件探しをしたら……。

プロフィール

「季節のお菓子 Miel」店主正伯和美

1965年福岡県生まれ。千葉・流山の「季節のお菓子 Miel」店主。新鮮な食材と季節の果物を使ったケーキ、焼き菓子などが並ぶ。販売されるお菓子は当日のInstagramにアップされる。

ベテラン主婦の趣味のお菓子作りから洋菓子店オープン。

こつこつ書き溜めたブログ、お菓子教室、そして通販。

気が付けば自分の「好き」を貫く一筋の道。

「55歳、今ならできる」と思い切って開業に踏み切ったものの……。

いざ、店舗探しで悪戦苦闘。

「主婦だから、信用がない?」

それでも夢を諦めなかった正伯和美さん。

全4話。第1話はこちらからどうぞ

自宅での教室、工房の限界も感じて物件探し

パート勤め、自宅での教室、通販の3つを掛け持ちして、ちょっと疲れてきたこともあるのですが、パートの仕事もひと区切りつきそうだし、仕事は辞めて、製造・販売と教室に力を入れてみようかなと思いはじめていました。

そんな中で、「創業塾に行ってみよう」と、柏市の創業塾に行ったんですね。2019年の9月のことです。生徒として通っていたパン教室「Atelier le bonheur」(アトリエ ル ボヌール)の太田幸子先生が、開業前に、地元の商工会議所が主催する創業塾に行かれたそうなんです。趣味じゃなくて仕事でやっていくために、とにかく情報や知識を得たくて、私も行ってみることに。

創業塾では、1年以内に開業を目指す人が対象で、資金調達や経営の話、具体的な開業プランを発表したりと、実践的な内容でした。すでに開業した方も多く、「やるなら早いほうがいい!」と考えるようになりました。

自宅でもできなくはないけれど、何かと手狭になっていました。そして、少しずつ「何か形にできたらいいなあ」という思いが強くなってきたんだと思います。そして自然と、製造・販売して、教室もできる「お店を開業したい」と思うようになっていました。自宅での教室、工房の限界も感じていたんでしょう。

創業塾を修了したあたりから、貸店舗や営業できるマンションなどを探しはじめました。「手頃な賃料の物件ないかな……」、まずはそんな感じだったと思います。

それで翌年の2020年3月に、5年勤めたパートの仕事は辞めて、少しずつ具体的に動き出していきました。

55歳の今なら、はじめられるかもしれない

55歳で洋菓子店オープン

お店をオープンできたのは、子どもがすでに独立していて自分のことに力を注げたということもあります。また、会社員の夫がいてくれたから、パートでの収入の多くを貯蓄にもまわせたのも恵まれていました。

また、年齢的に「55歳ならはじめられるかも」とも思いました。まだ体力もあるし、これから10年くらいは頑張れるかなと。後になってあの時やっていればと思うくらいなら、今動こうと。いわゆる更年期的な少し不調が出る年齢を抜けて、体調が落ち着いてきたことも後押しになりました。

お菓子とパンが大好きで、大好きなお菓子とパンを自分で作りたくなって、そして、それを探求していきたいと思うようになって、自分の好きな味を探したいと。その延長線上がお店の開業でした。

「お店を持ちたい」という夢がはっきりあったわけではなく、「お店を持ちたい」という思いが徐々に出てきて、少しずつ、けれど一気に形になったという印象ですね。

信頼を寄せる器屋さんに思い切って相談

具体的に物件を借りるにあたって、実際にお店をやっている知人とかに相談したいのですが、正直、なかなか聞きづらくて。「本当にお店出すの?」って言われそうで……。

でも、お客として通っている、柏と北千住にお店を構える「うつわ萬器」(ばんき)の店主の久保田さんにご相談したら、「自宅に近いほうがなにかと便利ですよ」とアドバイスをいただいて。

このあたりの商圏は柏市で、創業塾も柏市に行ったので、柏市で探そうと思っていたんですが、確かによく考えてみれば、自宅から車で混んでいれば1時間近くかかることもあります。それに、柏市は繁華街で家賃も高いんです。

「駅が近くにあって、自宅からも通いやすい物件がいいと思いますよ」という久保田さんの助言で、自分に合う物件が絞られた気がしました。

「失礼ですが、お家賃、大丈夫ですか?」

千葉・流山市を流れる利根運河沿いに「季節のお菓子 Miel」はある

いろいろ探して、「ここに決めます!」って決心したら、ひと足先に他で決まってしまったり、外観はいいけれど中はボロボロで、相当手を加えないといけない物件だったり、当然、そんなにすんなり物件が決まるわけありませんよね。

ここ、実は不動産屋さんだったんですよ。物件を探してもらっていた何軒かの不動産屋さんの一軒で。「もう少ししたら、ここ閉めるんです」と言われて。場所がいいから、「空くときは知らせてくださいね」ってお願いして。

それでしばらく待っていたんですが全然連絡が来なくて、たまたま夫が車で前を通ったら、「貸店舗」の看板が出てたんです。それで慌てて「内見させてください!」と連絡しました。

駅近で、自宅からも車で10分くらい、店のサイズ感もちょうどいい。灯台下暗しで、「ここ、いいなあ!」と思いました。そうしたら、営業の方が「失礼ですが、お家賃、大丈夫ですか?」とおっしゃるんです。確かによくよく考えたら、主婦の私が、店をやりたいから借りたいということに不安を覚えていらっしゃったんだと思います。

都内のワンルームマンション1か月分くらいの賃料だったので、販売と教室で支払っていけると踏んでいましたが、“信用”がないわけです。保証会社の審査が入るので、アパートやマンションを借りるのとは少しだけワケが違っていました。

最後は夫と一緒に不動産屋で契約

けれど、主婦の私にはどうすることもできません。夫には迷惑をかけたくなかったけれど、一緒に不動産屋さんに行きました。30年以上も会社勤めをしている夫が同行してくれたおかげで、借りることができました。正直、このことはいきなりぶつかった現実でした。

大家さんはこの店のご近所なんですが、本当は飲食ではなく、事務所として貸し出したかったようですが、安心していただいて、なんとか借りることができました。

ただ大家さんには、手を入れる時にはいろいろ言われました。「原状復帰なので、そんなに手を入れて大丈夫ですか?」といったようなことを。そんなに言われると店が長続きしないと思われているように聞こえて(苦笑)。

でも今ではその大家さんが、店の様子を見に来てくれたり、お客さんが少ない日はケーキを買いに来てくれたり、何かと気にかけていただいています。

火曜日と土曜日だけの営業なので、お店を留守にする時間も多く、大家さんが近くに住んでくださっているのはとても心強いものです。いろいろと助けていただいています。本当にありがたい。きちんと家賃が払えるように頑張らないといけないと思っています。

いよいよ内装工事。5年間貯めたお金を資金に

山口県のガラス作家、櫻井彩さんのモビールを飾って

不動産屋さんが退いた後は、がらんとした事務所だったので、床だけはそのまま使って、他はほぼ手を入れました。ここで5年間のパートで貯めたお金を使うことになったわけです。

内装屋さんは、『飲食店.COM』で見つけたんです。お店と業者をマッチングしてくれるサイトですね。いくつかの業者さんに見積もりを出してもらったんですが、デザインは素敵だけれど予算の3倍以上のところがあったり……。

借金をしてまではやるつもりはなかったので、自分の身の丈にあった予算でやってくれるところにお願いしました。一番安いところだったんですけどね(笑)。けれど、これが“当たり”で、その方も1人で切り盛りされていて、いろいろ工夫をしてくれてその価格になっているんだということがわかりました。

店舗の内装工事は自宅リフォームとは桁違い

店舗の内装って、住宅と違って規格外のドアや窓をしつらえたりしますよね。そうすると、すべてオーダー品になって高くつきます。お願いした内装屋さんは既製品を現場でサイズに合わせて加工して、全部自分でやってくれたんです。

元事務所だったので、厨房のガスや水道の配管なども工夫してくれたり、壁紙も10回ほど張り替えてあることがわかって、何枚も何枚も上から貼ってあったんです。

それをきれいにはがして、漆喰風の壁紙を貼ってもらって。入り口も殺風景なドアだけだったので、大きな窓を作って、洋菓子店らしく明るくしてもらいました。

そんなこんなで予想以上に時間がかかり、2週間ほど工期が延びたんですが、なんとか目標の12月オープンには間に合いました。頑張っていただいたと思います。

知り合いに頼むという方法もあったかもしれませんが、マッチングサイトという新しい方法で探して、実際に発注してみて、こういうやり方もありなんだなと思えました。

厨房機器はアルバイトを雇うつもりで奮発

また、内装だけでなく、厨房機器も必要です。リースもできますが、月々のリース料も安くありません。絶対に必要なオーブンと、食洗機を思いきって購入しました。

お菓子作りには、さまざまな調理器具を使います。洗い物の数も尋常ではありません。そんなとき、食洗機は本当に大きな働きをしてくれるのです。人1人雇っているのと同じくらいといっても言い過ぎではないかもしれません。

それから、お店の顔になる陳列棚。商品を入れるものなので中古ではなく、そこは新品をと思って頑張りました。

憧れの洋菓子店オープンのリアルは、現実的にシビアにでも夢を諦めない決断の連続でした。

第1話はこちらから。

取材・文/時政美由紀

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この記事を書いた人

I am 編集部
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「好きや得意」を仕事に――新しい働き方、自分らしい働き方を目指すバブル(の香りを少し知ってる)、ミレニアム、Z世代の女性3人の編集部です。これからは仕事の対価として給与をもらうだけでなく「自分の価値をお金に変える」という、「こんなことがあったらいいな!」を実現するためのナレッジを発信していきます。
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