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みらいのとびら 好きを仕事のするための文章術レッドオーシャンのなかで発見できる 集客方法とブルーオーシャンへの移行戦略

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文章のプロ・前田安正氏が教える、好きを仕事にするための文章術講座。第 10 回は「集客方法と事業転換のヒントはレッドオーシャンのなかにある」です。

プロフィール

未來交創代表/文筆家/朝日新聞元校閲センター長前田安正

ぐだぐだの人生で、何度もことばに救われ、頼りにしてきました。それは本の中の一節であったり、友達や先輩のことばであったり。世界はことばで生まれている、と真剣に信じています。
2019年2月「ことばで未来の扉を開き、自らがメディアになる」をミッションに、文章コンサルティングファーム 未來交創株式会社を設立。ライティングセミナー「マジ文アカデミー」を主催しています。

競争の激しい市場「レッドオーシャン」

「飲み屋街」は居酒屋を始め、たくさんの飲食店で構成されています。いわば、同業他社がたくさん集まっている場所です。そこでは上手くいく店と早々に撤退する店があります。その界隈は競争の激しい「レッドオーシャン」です。一般的には、新規参入するには、やや躊躇(ちゅうちょ)する場所でもあります。


コロナ禍から少し解放されて、人と会う機会も増えてきました。久々に夜の街を歩くと、「飲み屋街」に多くの人が集まっていることに、ちょっと新鮮な驚きを覚えたのです。コロナ禍前には当然だった風景が何年かぶりで甦った、という単純な感慨とも違いました。
なんでみんな「飲み屋街」に来るのだろう、そして、なんで「飲み屋街」ということばがあるのだろう。もしかしたら、そこに「集客」のヒントがあるかもしれない、と思ったのです。


焼き鳥屋の隣に焼き鳥屋を出すのは、勇気がいります。焼き方に熟練の技があったり、つけダレに違いがあったりするかもしれません。しかし、焼き鳥について圧倒的な差をつけるのは、至難の業です。手っ取り早く隣の店との違いを出すには、価格を下げることです。しかし、価格競争に巻き込まれたら、そのスパイラルから抜け出すことは容易ではありません。生き残るのはかなり難しいのです。

レッドオーシャンは集客の手間を省ける

棚のなかでは苛烈な競争が展開されている (写真/Canva)

これは、飲み屋街だけの現象ではありません。コンビニやドラッグストアも集まるところには、数店舗が並んでいます。ライバル店だけでなく、同じ系列の店舗が通りを挟んで並んでいることさえあります。


さらに、コンビニの棚を覗いてみれば、そこにはたくさんの商品が並んでいます。お茶が入っている冷蔵スペースには、ありとあらゆる売れ筋商品が並んでいます。お弁当コーナー、スナック菓子、アイスクリームも同様です。いわばそのジャンルにおいては「レッドオーシャン」です。その棚の場所取りを巡って、苛烈な競争が展開されています。売れない商品は、すぐに棚から外されます。「飲み屋街」の焼き鳥屋と同じ状況なのです。


多くの飲食店が集まって「飲み屋街」を形成するのは、コンビニやドラッグストアも同様です。敢えて競争の激しい場所に店舗を展開するのは、「集客」の手間が掛からないからです。馴染みの店を目当てに行く人もいる一方、取り敢えずお酒が飲める場所を探す人もいます。フラッと飲みに来た人にとっては「飲み屋街」に行けば、どこかに適当な店があるだろうという選択肢が提供されます。

コンビニにお昼ご飯を買いにきた人たちにとっても、競合が集まる場所ではお弁当の種類も多く選択肢が広がります。ドラッグストアもちょっとした日用品の値段をリアルで比較できます。


つまり利用者にとっては、たくさんの店が並ぶ場所は、商品・サービスの選択肢が広がります。そして店舗にとっては、レッドオーシャンのリスクはあるものの、集客の手間が省けるということです。
「飲み屋街」は、たとえれば大きな生け簀(す)です。生け簀に人を呼び入れて、そこで必要とする人に必要な商品・サービスを提供すればいいので、一から集客に力を入れなくても済むのです。

ブルーオーシャンの2つのリスク

「ブルーオーシャン」であれば、競合のいない分野を独占できるかもしれません。
隠れ家的なレストランが、住宅街に店を出す場合があります。徐々に口コミで広がる場合もあるし、もともと有名な飲食店で働いていたシェフが、客を呼び込む場合もあります。
いずれにせよ、そのサービスや世界観は、同業他社と一線を画したものでなければ、通用しません。それでも、知る人ぞ知るになるまでは、かなりの時間が掛かります。


「ブルーオーシャン」には
①誰にも知られていない
②そもそも需要がない


という大きなリスクがあります。独立すると、人に認知されることがビジネスにとっていかに重要なことかが痛いほどわかります。広告費をたっぷりかける余裕があれば、認知度は高まるかもしれません。しかし副業の場合、それほどの資本を準備することはできません。また「これならやっていける」という自分の思いと、それを求める人がいるのかどうかの見極めにも、マーケティングが必要です。


じっくり時間を掛けて人を集めるのは、なかなか難しいものです。手っ取り早い集客方法は、お金を出してでも同業他社のセミナーに参加して、そこで名刺を配ることなのです。

レッドオーシャンではマーケティングが簡単になる

リアルなマーケティングは集客に必須 (写真/Canva)

たとえば、ライターになる目的で集まったセミナーは、ライバルがひしめく「レッドオーシャン」のただ中です。しかし、ライターという同じ目的を持ってきているので、間違いなく見込み客が存在する生け簀なのです。なぜなら、そのセミナーに満足できない人たちもいるからです。セミナーの帰りにお茶でもして話を聞けば、セミナーに参加した人が、何を望んでいるのかがわかります。つまり時間と手間をかけずにリアルなマーケティングができるのです。それを元に、あなたのリソースを使って新たなコンセプトをつくれば、セミナーを提供できる可能性が高まります。


これが、本当の自己投資です。自己投資でセミナーに行くと言うと、リスキリングをイメージして学びにいくことだけを目標にしがちです。大人のリスキリングは、学びだけではもったいない。同じ思いで集まった人とのつながりをこそ活かすべきです。そこに集う人の抱えるリアルな課題を分析して、自分のリソースに手を加えればいいのです。マーケティングに必要な人を集める必要もないし時間もかかりません。

ブルーオーシャンに変えるヒントはレッドオーシャンにある

自分の頭でいくら考えても、自分の考えから離れることはできません。人のことばの中に課題とヒントがあります。敢えてすでに活躍している人の元に出かけて、そのスキルとそこに集う人の生の声を拾い集めてくるのです。


「飲み屋街」に行って、どんな人がどんなものを食べて、何を飲んでいるのかを観察すればいい。コンビニに行って、各店舗の商品と棚を見比べ、何が売れているのか、どうして売れているのかを考えればいいのです。


敢えて、レッドオーシャンに飛び込んで、見込み客と集客のヒントをつかむことです。集客に関しては、レッドオーシャンこそがブルーオーシャンにするヒントが詰まっていると心得るべきです。そこに必ずチャンスがあるからです。

この記事を書いた人

前田 安正
前田 安正未來交創代表/文筆家/朝日新聞元校閲センター長
早稲田大学卒業、事業構想大学院大学修了。
大学卒業後、朝日新聞社入社。朝日新聞元校閲センター長・元用語幹事などを歴任。紙面で、ことばや漢字に関するコラム・エッセイを十数年執筆していた。著書は 10万部を突破した『マジ文章書けないんだけど』(大和書房)など多数、累計約30万部。
2019年2月「ことばで未来の扉を開き、自らがメディアになる」をミッションに、文章コンサルティングファーム 未來交創株式会社を設立。ことばで未来の扉を開くライティングセミナー「マジ文アカデミー」を主宰。

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