みらいのとびら 好きを仕事のするための文章術フリーランス・個人事業主の名刺は集客ツールそのもの? 効果を上げるために載せるべき情報とは
文章のプロ・前田安正氏が教える、好きを仕事にするための文章術講座。第 8 回は「集客効果が上がる名刺の条件は事業目的が伝わる」です。
プロフィール
未來交創代表/文筆家/朝日新聞元校閲センター長前田安正
2019年2月「ことばで未来の扉を開き、自らがメディアになる」をミッションに、文章コンサルティングファーム 未來交創株式会社を設立。ライティングセミナー「マジ文アカデミー」を主催しています。
目次
会社員とは名刺の意味合いが違う
会社を辞めたら
入社して支給された名刺。それを手に、初めて名刺交換したときの緊張は、忘れられませんね。それから何年も会社の名刺を使っているのに、その役割や意味について考えた人はほとんどいないのではないでしょうか。僕自身もそうでした。
会社のブランディングに沿ったデザインでつくられ、誰もが同じフォーマットのものを与えられるからです。違うのは、所属する部署と肩書、電話番号くらいのものです。
名刺交換の場でも、会社名と肩書、名前を確認されるだけで、仕事内容を細かく聞かれることもありませんでした。名刺は会社に所属していることを相手に伝える小道具としての役割だったのです。
ところが、自分で会社を立ち上げると、名刺の意味合いが大きく異なることに気づくのです。
一生懸命考えた会社名を知る人はいません。これだ!と思って構想した事業内容を知る人はいません。代表取締役といっても、その名前を知る人はいないのです。
あれだけ意気揚々と立ち上げたにもかかわらず、荒野にポーンと放り出されたような心もとない気分を味わうのです。それでも、仕事を取ってこなくてはなりません。自動的に仕事はやってこないのです。
集客できないのは「自分が大好き」な名刺
気合いとセンスを詰め込んだ初代の名刺
それだけに最初に名刺をつくったときは、力が入りました。友人のデザイナーに名刺デザインを頼み、会社のロゴをつくってもらい、コーポレートカラーも決めました。高級感を出すため和紙を使った名刺は、会社員時代のそれよりはるかに立派な仕上がりでした。知り合いに渡したときに「きれいな名刺ですね」と言われて、満足していたのです。
ところが、ビジネス懇談会などで名刺交換したときに、ほとんどの人が名刺の裏を見ます。裏面が白紙の名刺を見て「どんな仕事をしているのですか」と聞かれたのです。相手の名刺には、実績などがびっしり書かれていました。このとき、僕は知らず知らずのうちに、会社員時代と同じフォーマットで名刺をつくっていたことに気づいたのです。
もちろん、それなりに工夫をしたつもりでした。仕事の内容がわかるようにと、会社名のうえに「文章コンサルティングファーム」というキャッチを付けました。しかし、「文章コンサルタント」という仕事を明確に伝えられなかったのです。
自分の強みを押し出した2代目の名刺
そこでもう一度、名刺を作り直すことにしました。自分がやりたい仕事を一言で伝えられるような名刺にしようと思ったのです。1、2 カ月あれこれ考えました。
- 文章を通して目指すものは、コミュニケーションを円滑にすることだ。
- その人のビジョンを達成させるための文章を伝えたい。
- クリエイターであるべきだ。
- 書籍の実績も強みだ。
こんなことを考えて、社名のキャッチを「コミュニケーション・ファクトリー」に変更しました。そして裏面には、簡単なプロフィールを載せ「文筆家/ビジョンクリエイター」としました。実績として前職の肩書を加え、クリエイターであることを示すためにペンネームを載せました。そして、「主な著書」として『マジ文章書けないんだけど』など、4 冊ほどを列記しました。さらに『マジ文』のキャラクター・謎のおじさんをあしらったのです。
これを持って、意気揚々とビジネス懇談会に出かけました。ところが、「ユニークな名刺ですね」「このイラスト、面白いですね」「ところで、どんな仕事をしているのですか?」。多少、反応はあるものの結局、仕事を伝えられず、営業にはつながりません。
「あれーっ、何が悪いんだろう」
解決策見いだせないまま、途方にくれていました。その時に、集客に強みを持つコンサルタントと知り合いになり、彼のセミナーに参加したのです。そして名刺を見せると、こう言ったのです。
「前田さん、これは自分が大好きなだけの名刺ですね」
「えっ!」
彼の名刺を見ると、名前も会社名も小さく載っているだけ。表面と裏面には集客の実績とともにホームページの QR コードがあり、それは無料セミナーに連動しています。そこからさらに高額のバックエンド商品につながっているのです。
彼の名刺は、それ自体が集客導線の一部を担っていました。
さらに「コミュニケーション・ファクトリーとビジョンクリエイターが、わかりにくい。これだけ書籍を出しているのだから、それを強みとした方がいい」と指摘されました。1、2 カ月考え続けたことを瞬時に否定されたのです。
事業目的が伝わる名刺で集客効果が上がった
表は控えめに、裏には実績をわかりやすくした3代目
また、名刺を作り変えました。これで 3 回目です。表面は最初のものに戻し、裏面には「文筆家/文章コンサルタント」とした肩書と、企業・大学・メディア登場の実績、書籍は 9 冊ほど写真とともに載せ、ホームページと主催しているセミナーの QR コードをつけたのです。
この名刺を渡すと「こんなにたくさん本を出しているんですか」「文章の専門家ですね」と、これまでとは反応が違ってきました。これを切っ掛けに話が進み、書籍執筆の手伝いをしてもらえないか、というオファーがきたのです。ビジネス懇談会に出て、初めて手応えのある仕事でした。
裏面をさらにブラッシュアップした4代目
そして少しずつコンサル業務の実績が増えたので、名刺の裏面をつくり直しました。4 回目です。コンサル業務を四つのカテゴリーにまとめ、『マジ文』が 10 万部を突破したので、書籍もこれ 1 本に絞って写真を大きくしました。併せて Amazon の著者ページと新しく始めた Podcast「ことばランド」の QR コードを載せました。
名刺を渡す時は口頭で伝える1行コピーを
名刺を渡す際も
「広報文・企業文書から幼稚園の入学願書、泣けるラブレターまで、文章に悩む方のコンサルをしています」
と、あいさつするようにしました。ようやく名刺に沿った形で、仕事を短いことばで説明できるようになったのです。すると、通信販売に販路を見いだしたいという飲食店からプレゼン用のストーリーをつくってほしいという、これまでにないオファーなども頂戴するようになりました。
名刺は単に名前と肩書を書いたカードではなく、集客のツールであるべきだということを実感しました。それには何を目的とした会社なのか、ということを端的に伝える言語化が必要だったのです。
わずか 2 年ほどの間に 4 回も名刺をつくり変えたことは、自慢できる話ではありません。
しかし、つくり変えるたびに会社のミッションやビジョンを明確にすることができ、仕事を増やすことができたのです。これは僕自身が経験した紛れもない事実なのです。
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この記事を書いた人
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早稲田大学卒業、事業構想大学院大学修了。
大学卒業後、朝日新聞社入社。朝日新聞元校閲センター長・元用語幹事などを歴任。紙面で、ことばや漢字に関するコラム・エッセイを十数年執筆していた。著書は 10万部を突破した『マジ文章書けないんだけど』(大和書房)など多数、累計約30万部。
2019年2月「ことばで未来の扉を開き、自らがメディアになる」をミッションに、文章コンサルティングファーム 未來交創株式会社を設立。ことばで未来の扉を開くライティングセミナー「マジ文アカデミー」を主宰。