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自分でできるマーケティング入門京都「進々堂」の食パンに学ぶ、売れない製品・サービスを売れるものにする3つの方法

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1950年代後半、京都の老舗ベーカリー「進々堂」の食パンが一世を風靡。売れなかった食パンに2つのことをしただけで、爆発的な人気を博しました。食パンの味も製法も同じです。マーケティング目線で紐解きます。

プロフィール

外資系IT企業のデジタルマーケティングマネージャー室橋健

顧客関係管理の外資系IT企業でマーケティングマネージャー。

全く売れなかった「食パン」が爆発的に売れるようになった2つの理由

京都は「和食」と「お茶」のイメージ。しかし、その実態は「パン」と「コーヒー」の街です。実際に京都のパンとコーヒーの消費量は日本でトップレベルと言われています。

そんなパンの街、京都には「食パン」が爆発的に売れるようになった秘密があります。「進々堂」という大正時代創業の京都を代表するパン屋さんの二代目である続木満那さんがその立役者。当時、食パンが売れないことに対して悩んでいたそうです。そんな時、『ベーカリー・ウィークリー』というアメリカで発行されていたパン業界誌を日本に取り寄せて読んでいたところ、アメリカでは食パンはスライスされて個包装で売られていることを知りました。続木さんはこれを日本でも実施しようと決意。機械をシカゴから取り寄せましたがうまくいかず、半年間もの間、社員をシカゴに研修に送り、2年間の研究を経てやっと自動スライスと自動包装を実現して爆発的に売れるようになりました。「デイリーブレッド (当時はデーリーブレッドの名前)」と名付けられた食パンが、京都で食パンが売れるきっかけになったのです。

つまり売っているものは同じ食パンでも、一斤そのままをむき出しの状態で販売していたものを「スライス」して、「個包装」を導入したことで売れるようになったのです。いまでは当たり前の6枚切りや8枚切りで個包装は当時1952年までの日本にはありませんでした。この商品提供により、食卓でわざわざ食パンをカットして並べるという手間が省けて人気に火がついたのです。

参考: 

食卓の真ん中にいる名脇役。 京都パン文化

NHK “いけず”な京都旅 – おいしいパンと古都の秘密

ヒントを探す

1つ目は製品・サービスのアップデートのヒントがどこかに眠っていないか?というポイントです。

進々堂さんがスライスと個包装を知ったのは米国の業界雑誌でした。皆さんも自身が提供している製品・サービスに関する海外の業界紙はないか、業界の第一人者へ取材ができないか、全く別の業界から学んで自分の製品・サービスに取り入れられる要素はないか…様々なやり方で、既に世の中にあるヒントを見つけて自分の製品・アップデートに活かしてみましょう。

顧客が望むものに改善

2つ目は自分の顧客が欲しいと思うような改善ができないか?というポイントです。

同じ京都のパン屋つながりで「ベーグル」の事例を紹介します。京都の「ブラウニーブレッド&ベーグルズ」さんでは、米国でベーグルが流行っていることを知り日本でも販売しましたが、最初は売れなかったようです。なぜかというとアメリカのベーグルは食感が固くて日本人には受け入れられなかったから。そのため、米食の日本人に合わせるためにライトなもちもち食感に改良。さらにアメリカではベーグルをスライスしてサーモンやチーズを入れて食べる「ハンバーガースタイル」が一般的ですが、京都では具材を全部ベーグルの生地の中に練り込んで入れるように改善して売れるようになったのです。これによって、京都人のお客さんが「欲しい!」と思うベーグルが誕生しました。皆さんの製品・サービスでも、自分のお客さんに寄り添った改善ができないか、アレンジや試行錯誤を加えた改良版をテストで作って提供し、反応を見てみましょう。

製品やサービスをクリエイティブに破壊

3つ目は自分の製品・サービスのフレームを見つけて壊せないか?というポイントです。

USBメモリのコンセプトを作ったビジネスデザイナーの濱口秀司氏は自著『SHIFT イノベーションの作法』でこう述べています。「誰もが持っているバイアスを構造化・可視化し、パターンを破壊するところからイノベーションは生まれる。構造がわかるからこそ、クリエイティブに破壊できる。」

例えば「桃太郎」のバイアスを構造化して壊すと、チームから単独へ、そして懲悪勧善からグレーと構造を破壊する新桃太郎が生まれます。具体的には鬼退治の後にキジを焼いて食べてしまうグレーな桃太郎も発明できるということです。バイアスを構造化して破壊すれば、誰でも新しい製品・サービスを発明することができます。

(図はI am編集部で作成)

自分が提供している製品・サービスが持っているバイアスを可視化して、壊すことで新しい製品・サービスをつくれないか考えてみましょう。

ぜひ3つのポイントを活用し、皆さんの製品・サービスがアップデートされ、ご自身のビジネスの成長につなげていただければ幸いです。

おさらい「売れないものが売れる瞬間」

①食パンは「スライス」と「個包装」で爆発的に売れるようになった。
②アップデートには「ヒント」「改善」「クリエイティブな破壊」の3つを続ける
③「売れない」から「売れる」にアップデートするためのオススメの3冊の書籍
失敗から学ぶマーケティング ~売れないモノには理由がある~
デジタル時代の基礎知識『商品企画』 「インサイト」で多様化するニーズに届ける新しいルール
バリュー・プロポジション・デザイン 顧客が欲しがる製品やサービスを創る

この記事を書いた人

室橋健
室橋健
顧客関係管理の外資系IT企業でマーケティングマネージャー。慶応義塾大学卒業後、リクルートとベンチャー企業でデジタルマーケティングの仕事の従事。2011年から1年間、中国・北京の清華大学に留学。ホテル暮らしで日本全国を移動しながらフルリモート勤務を続けていたが、2022年春より京都の町家に定住。顧客管理のメモ理論を実践している。

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