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AI出現で「仕事ができる人」はオワコンになる? 未来の「できる人」の条件とは?

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AI と幸福学の専門家である慶応義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授前野隆司さん。人間は AI の奴隷のようなチンパンジーになるのか貴族になるのかわからない。想定シナリオは 1 年後か 100 年後に。

プロフィール

慶應義塾大学大学院SDM研究科教授前野隆司

(まえの・たかし)1962年山口生まれ。広島育ち。ロボット研究から幸福学まで「人間にかかわるシステムすべて」が研究領域。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント(SDM)研究科教授。研究領域は、ヒューマンロボットインタラクション、認知心理学・脳科学、心の哲学・倫理学から、地域活性化、イノベーション教育学、創造学、幸福学まで。

AIが多くの仕事を担うと言われる未来、私たち人間の「働く喜び」はどうなるのか?「生きる幸せ」「自己成長する喜び」を何に見出せばいいのか。慶應大学大学院の前野隆司教授に AIとの共生についての深遠な洞察を求めました。これまで「仕事ができる人」になるためのノウハウ本が数多くヒットを飛ばしてきたが、「仕事ができる」がモチベーションにならないと前野教授は予測します。では、仕事ができずに、何ができると私たちは幸せになるのか?を徹底取材しました。

人は「仕事」より「幸せになりたい」と願いはじめる

AIが導入されると人間はつまらない仕事から解放され、より人間らしい生き方ができるかもしれません。つまりは、自分たちがつまらないと思っていた仕事を AIが代わりにやってくれるようになるのです。そのため、人間は「仕事のできる人になりたい」とは思わなくなるかもしれません。そうなると、「幸せになりたい」という人間らしさだけが残るでしょう。意外と仕事をするかもしれませんし、仕事もしなくてよくなるかもしれません。


方向性としては、おいしいものも食べられ、仕事も楽になる方向に社会は進むでしょう。極論すると、AIが浸透した時代には「どう生きるか?」だけを考えればいいのではないでしょうか?感情を持たない AIとは異なり、人間だけが「幸せに生きたい」と思うことができます。ただし、これも今後待ち受けるシナリオによって変わってきます。

AIによるシナリオ①ディストピア

AIの奴隷のようなチンパンジーとして生きる

AI時代の問題は、「貧富の格差がどうなるか」。AIが民主的に運営されているなら問題はありません。しかし、AIをGAFAのような一部の会社が牛耳り、その会社だけが利益を得ると、ディストピアのシナリオが待っているでしょう。富の偏在化です。これがどれぐらい起こるかによって、未来のシナリオは全然違ってきます。ではここで3通りのパターンを考えてみましょう。

富が偏在化すると多くの人は失業して仕事もなく、生活が苦しくなります。AIによって機械化できる仕事は相場も下がり、より効率化されるでしょう。多くの企業は AI技術を使うようになり、人間の仕事は、価値のないものになる可能性があります。賢いAIを支配者だけが持つと、多くの人は本当に動物園のチンパンジーのようになってしまうかもしれません。そこで待っているのは、ほとんどの人間が貧しく、最低限の食べ物だけが与えられる世界です。

AIによるシナリオ②ユートピア

AIを民主化する

2 つ目のシナリオは、ユートピアの社会。AI時代になったとき、富が平等に分配されている理想的な未来も予想できます。何らかの形で富の偏在が解消されたなら、みんなが貴族のように生きる社会になるでしょう。平安時代の貴族は、蹴鞠を楽しみ、好きなことだけをやってきました。AIによって人間の働く時間が短縮され、アート、スポーツ、哲学に時間を費やすことが期待できるかもしれません。また、ご飯を与えられるので、飢える心配もありません。それこそ、貴族のようなチンパンジーとして生きられるのではないでしょうか。機械化できるような定型業務は人間ではなく AIの役割。人間は、感性、個性、アートなどで創造性をより発揮することによって、人間らしい生活を楽しめるでしょう。

ユートピア時代に向かうために不可欠なのが AIの民主化。人類が富の一極集中に抗い、民主化運動を起こす可能性です。歴史を振り返ると、富が一極集中すると必ず民主化運動が起こりました。フランス革命がいい例です。富の集中に怒った民衆によって国王はギロチンで殺されました。歴史のアナロジーとして考えると、今後、AIを独占する企業と戦う人々が出てくる可能性がないとはいえないかもしれません。

また、現代は環境問題、貧困問題、パンデミックなど世界的な問題があります。今までは地球にまだ余裕がありましたが、既に限界が来ています。ですから、権力を持つ一部の権力者がグローバルな課題に立ち向かわないなら、地球環境破壊は続くでしょう。その場合、このことがきっかけとなって AIを民主化しようという動きが出てくるのかもしれません。あるいは、「ウィキペディアのように民主的なものを作らないとまずい」といった動きが出てくる可能性も。富が偏在化してしまったひとつめのシナリオの場合には、「AI を民主化し、仕事もちゃんと民主化しよう」という動きが大きな力になることを期待します。

AIによるシナリオ③複雑系という世界線

とっちになるか予想不能?

3 つ目のシナリオは、一つ目と二つ目の間です。つまり、予測不可能であること。
未来社会は複雑系なので、誰も予測できません。人類の大変革「農業革命」「産業革命」よりも混乱は大きいかもしれません。両極端の二つのシナリオ「パラダイスか地獄か」のどちらかの間のどこかであるとしかいえないのです。いずれにしても、今後、キャリア、能力、組織、業務、ワークスタイルは一変するでしょう。「大きな変化である」ということは確かです。過渡期にはさまざまなことが起きます。AI によって仕事が奪われたり、「どうやって自分たちは仕事をすればいいんだ?」と葛藤があったり。しかも、過渡期が、一年後に来るのか百年後に来るのか、それは誰にもわかりません。

人間の幸せは原始時代から変わらない

では混乱の時代に私たち人間は何を指針に生きていけばいいのか。実は人間にとっての幸せの条件は、昔からあまり変わっていません。「やりがいがある」「人と人とつながりがある」「自分らしさを生かす」を継続していけば幸せに生きられます。それらを発揮するのが平安時代の貴族ないしは古代ギリシャの哲人のような生き方。AI時代になっても、アートやスポーツなど自分らしい「やりがい」や「つながりのあるもの」が最後には残っていくと思われます。おいしいものを食べる、安全に家族と一緒に過ごす、趣味をしながら仕事も頑張る。それが昔から変わらない人間の幸せなのです。「人間は原始時代からどう生きてきたかな」「私はどう生きるか」といったことを考えることも生きるヒントになるでしょう。

人類の幸せのヒントは歴史の中にある

産業革命や明治維新の変革期にもあらゆる問題が噴出していました。現代と同様に「これからどうする?」といった問題が出ていたのです。それを解決する中で、新しい時代に人は乗り移っていきました。当時と同様に、「従来型の仕事ができなくなって困る」といったようなことはたくさん出てくるでしょう。農業革命後や産業革命後は、それ以前には想像できなかった仕事が出てきました。明治維新のときも、「士農工商」から封建的身分制度を廃止する「四民平等」への変化があったのです。武士が武士ではなくなったり、商人の台頭があったりしました。明治維新で生き残ることを想像すれば、自分がどうすればいいのかわかるのではないでしょうか。大変革時代を生き残る知恵を結集するのが賢い方法です。 AIの奴隷だと思うのか、貴族のように幸せな世界だと思うのか、それは考え方次第。いずれにせよ、こうした激動の中を生き抜いていけるのは、楽観的な人だと思います。


取材/I am 編集部

文/今崎人実

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