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モヤモヤの原因は「利益第一主義」と「個人能力の比較」幸せは最良の経営戦略?「利益より、幸せが一番大事!」と言い切ることで業績を上げるウェルビーイング〈慶應大学大学院教授・前野隆司〉

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起業家、個人事業主、一人社長のための業績を上げるウェルビーイング入門。「幸福学」の専門家・前野隆司さんに「ウェルビーイングな経営戦略」を聞きました。

ウェルビーイングの第一人者、幸福学の専門家の慶應義塾大学大学院教授・前野隆司さん。今ウェルビーイングの考え方が注目されています。幸せを追求することで仕事のパフォーマンスも向上。個人事業主にとってのウェルビーイングの使い方とは?

プロフィール

慶應義塾大学大学院SDM研究科教授前野隆司

(まえの・たかし)1962年山口生まれ。広島育ち。ロボット研究から幸福学まで「人間にかかわるシステムすべて」が研究領域。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント(SDM)研究科教授。研究領域は、ヒューマンロボットインタラクション、認知心理学・脳科学、心の哲学・倫理学から、地域活性化、イノベーション教育学、創造学、幸福学まで。

ウェルビーイング経営が実施されている企業の事例 3 つ

毎年一回、会社訪問したくなる会社

実は私自身、年に一回は必ず会社訪問をする企業があります。いろんなところで話しているのですが、行くたびに心が洗われる思いで、自分自身への戒めの気持ちも込めて、まさに「拝みに行く」という感じです。
それは「伊那食品工業」「西精工」「ネッツトヨタ南国」の3社。共通点は、社員が幸せな気持ちで仕事をし、会社生活を送っていること。利益が優先ではなく、やりがいやつながりを重視して、生き生きと働くこと自体を楽しんでいます。

業績評価をしない「かんてんぱぱ」

「伊那食品工業」は、長野県伊那市にある「かんてんぱぱ」という寒天をつくる会社です。会社の目的はいい会社をつくることで、利益を上げることはそのための手段であると、明確に打ち出しています。例えば、業績の評価をしない、会議の資料をつくらない、給料にほとんど差をつけない。朝は社員が自主的にガーデンを掃除します。会社がきれいだと心もきれいになり、それで社員は幸せだと感じます。実際に社員の方は生き生きと働いて、充実したいい顔をしていました。

普通は嫌がられる朝礼を毎朝1時間「西清工」

「西精工」は、徳島市にある会社で、自動車・家電・弱電などで使用されるパーツやナットを製造しています。チームごとに約 1 時間の朝礼をするのが習慣です。朝礼の前半では経営理念やミッションを共有。後半では「今日の改善」を行っています。
普通は嫌だと思いますよね。でも、私も見学に行ったのですが、社員のみなさんはいきいきとしているんです。「今日の改善」では、社員みんなが今日はどんな新しいことに挑戦するのかを明確にしています。社員が毎日改善を提案しているので、アイデアが研ぎ澄まされ、高品質のナットもつくれるわけです。社員が仕事にやりがいを感じると創造性が上がり、高品質な製品を生み出せます。その結果、利益も上がりました。

組織図、社長室、壁をつくらない「ネッツトヨタ南国」

高知市にある自動車ディーラーです。この会社の運営体制は非常にユニーク。
社長の方針は、組織図をつくらない、社長室をつくらない、壁をつくらない、プロに頼らない、真似をしない、失敗をとがめない、上司が部下に仕事を教えないなど、驚くような内容です。
例えば、通常の新車発表会では豪華絢爛な車の紹介がメインになります。一方ネッツトヨタ南国は、プロに依頼をしません。社員が工夫を凝らし、パフォーマンスの舞台を行う準備をします。ダンス部出身の女性によるダンスのスタートから始まります。そこで、社員の熱い思いを伝えているわけです。
また、商談の際に値引きを武器にしません。幸せに働いている社員の高品質なサービスを受けて、顧客も満足してこの会社を気に入っているようです。その結果、トヨタディーラーの中で、顧客満足度一位を十数年連続獲得しました。

個人事業主がウェルビーイングを取り入れる方法

一人社長でも将来は従業員を雇用するときが来る

企業にとって利益の追求は使命ですが、利益追求を第一目標にするとウェルビーイングはなしえません。しかし、ある程度体力がないとウェルビーイングの実行が難しいことも事実です。だから体力、余力のあるときに組織の幸せを優先すべきなんです。ウェルビーイングは組織の構成要素である一人一人の幸せが条件です。利益を求めると組織内での評価(比較)が優先されるので、組織全体の目標ではなく個の目標(評価)に意識が向かいます。

個人事業主であっても利益より人を大事にする

個人事業主や一人社長の場合、会社員以上に利益や業績を意識することになります。だけど、長い目で見たときにウェルビーイングな経営をしていくことが試されます。利益を度外視するという話ではありません。例えば外注スタッフに依頼をするとき、「西精工」のように相手が意見を言いやすい環境づくりをすることでお互いに意思疎通を図るなどです。利益を大事にするというより、人を大事にする。それに徹することが大事になってきます。その結果、外注スタッフも気持ちよく仕事ができ、良いパフォーマンスを発揮してくれるでしょう。相手も周りも幸せでいてくれることがより大切です。

ウェルビーイングをすべき時、してはいけない時

個人事業主であっても理念にウェルビーイングを入れる

企業だけでなく、個人事業主や一人社長が外部スタッフやアルバイトを雇う場合も、「この人は俺たちのことを思ってくれている」と感じるだけで幸福度も上がります。まず第一歩は理念の中にウェルビーイングを入れて、それを一緒に働く人に届けるというだけで相手との関係が変わるんですね。外注スタッフも一生懸命仕事をして、いいパフォーマンスを見せてくれると思います。その結果個人事業主や一人社長の売上増加にもつながるでしょうね。

ウェルビーイングは健康診断と同じ

特に経営者は利益という目の前の課題があります。利益がないと結局自分の幸せが担保できないというジレンマがあるんですね。そういう意味でウェルビーイングは利益があるときに行う方がいいですね。
ウェルビーイングは健康診断と同じなんです。例えば、かなり健康な人が「ちょっと課題がありますね。もっと健康になるためにトライアスロンをしましょう」というのは健全です。しかし、かなり不健康になった人に健康診断結果を見せて、「ジョギングもしなきゃいけないし、野菜も食べなきゃいけない」というのは無理がありますよね。
ウェルビーイングもそれと一緒で、本当は利益が立たなくなる前に対処すべきだったんですよね。利益が立たないというのは、かなり不健康になった状態と一緒です。資金繰り苦しくなっちゃったら終わりますから。残念ながらかなり不幸せになっている状況なんです。

ウェルビーイングを実践するには胆力が必要

「利益より、幸せが一番大事」と言い切る!

「利益も大事だけど、幸せも大事」に意識がちょっと変わって、最終的には「幸せが一番大事、利益なんかなくてもいい、幸せだ」と言い切ると利益が伸びるんですよ。最初は嘘でもいいから言ってみてほしいですね。やっているうちに本当になっていくと思います。
一緒に働くスタッフとの信頼関係ができて、教育や明確な指示が行き届くことが大事です。個人事業主や一人社長も心を入れ替え、外注スタッフも怠けたり、文句を言ったりするのがなくなるとうまくいくと思います。みんなで力を合わせていいものをつくろうとすると全員が幸せになり、創造性が 3 倍になり、生産性も 1.3 倍になります。
「本当にそうなの?」と思うかもしれませんが、ぜひ幸せを軸に仕事を進めていってみてください。小さなところから生産性、効率性は上がります。

取材/I am 編集部

文/今崎人実

《好評発売中》

『幸福学の先生に、聞きづらいことぜんぶ聞く』

類究極の目標である「幸福」。 
誰もが知っているこの概念を、誰もが誤解している。 
 
 
お金持ち=幸せ? 孤独は不幸? ネガティブ思考は厳禁? 

すべて間違いだ。 

それを科学的に証明するのが、「幸福学」という学問。統計学や心理学、脳神経科学など、文理を問わずさまざまな知見を動員し、「幸福な人」の条件を多角的に研究している。 

本書では、そうして導き出された「幸福の条件」を、対話形式で凝縮。幸福学の第一人者・前野隆司氏に対し、1人の青年が、「怒られ覚悟」でさまざまな疑問をぶつけていくうちに、幸福にまつわる誤解が溶け、明日からすぐ実践可能なメソッドの数々も身についていく仕組みだ。 

大和書房刊

この記事を書いた人

I am 編集部
I am 編集部
「好きや得意」を仕事に――新しい働き方、自分らしい働き方を目指すバブル(の香りを少し知ってる)、ミレニアム、Z世代の女性3人の編集部です。これからは仕事の対価として給与をもらうだけでなく「自分の価値をお金に変える」という、「こんなことがあったらいいな!」を実現するためのナレッジを発信していきます。

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