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スキルや効率性を高めるより、「どさくさ」に紛れて新しいことに挑戦する人がうまくいく?

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AI に約5割の仕事は奪われるだろうと言う慶応義塾大学大学院の前野教授。しかしそれに匹敵する新しい仕事も生まれるだろうという未来予測もされています。想定シナリオは 1 年後か 100 年後に。

プロフィール

慶應義塾大学大学院SDM研究科教授前野隆司

(まえの・たかし)1962年山口生まれ。広島育ち。ロボット研究から幸福学まで「人間にかかわるシステムすべて」が研究領域。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント(SDM)研究科教授。研究領域は、ヒューマンロボットインタラクション、認知心理学・脳科学、心の哲学・倫理学から、地域活性化、イノベーション教育学、創造学、幸福学まで。

人工知能(AI)の浸透が進む中で、便利さという輝かしい一面と、”仕事が奪われる”という不安、両方の声が高まっています。今こそ、AIとどう向き合うべきかを模索する時期ではないでしょうか。そこで今回、慶應大学大学院の前野隆司教授にAIとの共生についての深遠な洞察を求めました。

仕事を奪われる恐怖は今に始まったことではない

AI時代になると、49%の職業は完全に AIに代替される可能性があるといわれています。
これは2015年にオックスフォード大学のマイケル・オズボーン准教授とNRIの共同研究で報告された結果です(株式会社野村総合研究所/「AIと共存する未来~AI時代の人材」より)。公認会計士や税理士などの士業を含む高度な仕事の一部もAIによって仕事を奪われるといわれています。では、今後私たち人間はどうすればいいのでしょうか?

歴史に学べば「AIの衝撃」は産業構造の変化にすぎない

産業の過渡期にはAIによって仕事が奪われるなど、さまざまなことが起きるでしょう。
「どうやって自分たちは仕事をすればいいんだ?」のような葛藤もあるでしょう。しかし長期的な視点で見ると、仕事を奪われるというよりも、産業構造が変わるだけだと気づきます。今まで人がやっていた仕事の多くをAIが担い、その代わり、AIは新しい産業を創出してくれるでしょう。そうしたヒントは歴史の中にあります。

自動車が出てきたときも新しい仕事は増えた

自動車が出てきたとき、馬車を引く御者の仕事はなくなりましたが、自動車の運転手という新たな仕事が生まれました。御者の仕事を失っても、時代に合わせて車の運転手になった人たちもいました。AI時代も同じです。AIを使いこなせる世界がやってきた後は、仕事がなくなっても代わりに新しい仕事が生まれるでしょう。

農業革命や産業革命でも仕事は奪われていない

過去の歴史を紐解くと、農業革命や産業革命において仕事は奪われていないどころか、むしろ増えています。農業革命によって、人間は狩猟採取をしなくてもよくなりました。しかし田植えなど、これまで存在しなかった仕事が増え、労働集約的になったのです。

その後産業革命によって農業作業が動力によるものへと変わりました。農民の多くは都市へ流入し、工場労働者となりました。動力を用いた大規模工場でも数多くの働き手を必要としていたのです。ですから、AIが出てきても同様なことが起こると想定されます。AIによって、従来の仕事の一部はなくなりますが、新しい産業が出てくるでしょう。

生き残り戦略① AIに勝てないところで戦わない

自動車と走り比べをしても人間が勝てないように、AIの得意分野でAIに勝とうとしても、人間は到底勝てなくなるでしょう。私たちは仕事に対する考え方を180度変えていく必要があるのです。

スキルや効率性を高めて自己研鑽してもAIには勝てない

従来、例えば今、40代や50代の人は、生産性が上がるような時間術や段取り力が評価につながってきました。しかし AIは何十年もかけて人間がスキルアップしてきたものを瞬時に超えることができます。今後は、従来のスキルにしがみつく人には辛いかもしれません。例えば「ただ長いだけの単純な経験」「視覚化できるスキル」「パターン可できるスキル」が得意な人は、AIに仕事を奪われてしまうでしょう。なぜなら、パターン化できる単純作業や正確かつ迅速に作業できるスキルこそ、AIが最も得意とする領域だからです。また、教師の仕事のうち暗記に関する部分はAIがやってくれます。例えば「大化の改新はいつか?」のように暗記が必要な問いはAIが回答してくれるでしょう。そのため、もはや暗記型の教育をする必要性が低下します。

今後はEQが重要になる

では、従来のスキルが不要になるとしたら、私たちが注力すべきなのはどんなことでしょうか?今後は上述したようなスキルではなくEQが重要でしょう。EQとは、「Emotional Intelligence Quotient」を略した言葉であり、「心の知能指数」を測る指標。対人関係やリーダースキルのような、従来の学力とは異なる人間力を表す概念です。AI時代にこそ、人間にはEQが求められるでしょう。ただスキルがあるだけの人より「あの人は誠実だから仕事を頼みたい」と人柄が重視されるようになります。友達やお客さんに慕われ、信頼から仕事を得ている人は AIに仕事を奪われにくいでしょう。

人間味のあるコミュニケーション、ヒーリング

AIは瞬時に計算したり暗記したりするのは得意ですが、人間味のあるコミュニケーションができるわけではありません。ですから、AIを導入したとしても人間に関わる仕事は残ります。例えば教師の仕事。「大化の改新は645年です」とAIが答えても勉強する気にはなれません。人間の先生は、淡々と年号や内容を説明するのではなく、独自の授業をしたり、生徒をほめたり、やる気にさせたりして、生徒をいきいきと勉強させることのできる人間味のある仕事になっていくでしょう。 また、医師や看護師といった医療従事者の仕事も、患者さんに対して優しく声をかけるような、ホスピタリティあふれる仕事として残り続けるでしょう。

AIを使う立場

AIを使う立場の仕事に就いている人は、AIと共存できます。大量のデータ処理などの仕事はなくなりますが、弁護士や経営者が最後に意思決定するような仕事は残ります。そのような職業の人たちは、道具として AIを使いこなし、うまく共存していけるでしょう。

感情・個性・想像・アートを仕事とつなげる

AIが人間の定型業務を奪うとしたら、残されるのは感情・個性・創造性・アートに関した仕事です。また将来的に、教育方針も感情・個性・創造性・アートを生かすという方向に変わっていくでしょう。産業革命によって重労働が奪われた後、人間は知識を詰め込む教育を重視していました。しかし知識を詰め込む教育は不要になっていきます。今後は、感情・個性・創造性・アートなどを発揮する方向にいき、人間がより人間らしくなっていくでしょう。

生き残り戦略② AIは超賢いので優秀な部下と思って使いこなす

これからはAIを恐れるのではなく、うまく共存していく知恵が求められます。

ライターや編集者の場合

ライターや編集者の仕事もAIに奪われるといわれています。実際、AIは文章を全部読み取って「分かりやすい文章にして」と言えば瞬時に直してくれます。楽に仕事ができるようになるため、ライターにとってもラッキーではないでしょうか。ライターに優秀な見習いの部下ができたようなものでしょう。もちろん、最後のチェックは人間がする必要があります。
またAIを導入すると新人育成方法も変わり、編集という仕事の中身も変わってきます。
今後編集者の仕事もより AIを活かした方法に変わっていくでしょう。

士業の場合

税理士や会計士など士業を中心とした仕事の一部も、AIは一瞬でやってくれます。弁護士が過去の判例を調べる仕事や医師がレントゲン画像を見て「これは癌なのか?癌じゃないのか?」と専門的な知識によって判断していた手作業の仕事。AIはそのように高度な知識を使っていた仕事をやってくれるようになります。税理士が一所懸命やっていた面倒な計算仕事も同様です。

生き残り戦略③ どさくさに紛れて新しいことに挑戦

AIと共存できる人は楽しく生きられる

最先端のAIを理解しながら、うまく時代の変化についていく生き方をした人は、楽しく生きられます。AIについて先取りし、時代の波に乗れる人は幸せに生きることができるでしょう。例えばAIを使いながら仕事を進めていったり、属人的な仕事を仕組化したりなど、AIと共存する方法で働くことができます。しかし少し出遅れると、ついていくのが大変になり、仕事を失う可能性があるでしょう。

どさくさに紛れて何かを思いついてやった人が勝つ

AI時代は、というか、激動の時代は、明治維新で生き残った人のように、どさくさに紛れて何かを思いついてやった人が勝ちの世界。どさくさは言い過ぎかもしれませんが、工夫した者が勝ちです。当時は、明治政府が支給した一時金を細々と大事に使う武士がほとんどでした。しかし岩崎弥太郎は、一時金を元手に商売をはじめ、維新の政商ベンチャーとして成功したのです。明治維新の頃、どのように人が行動していたのかを考えると、AI時代の行動も見えてきます。現代も、真面目に「今の古い体質の社員を守る」と考え、AIに対抗しようとしても成功しにくいでしょう。うまくいく人の多くは、新しい時代の流れに身を任せて工夫とチャレンジをできる人でしょう。

AI時代は早い者勝ち

AIによってしばらくの間は混乱するでしょう。農業革命、産業革命と同じで、AI革命は、混乱が数年で終わるのか、100年で終わるのか、わかりません。多くの人は、失業したり、転職したりという、 たいへんな過渡期を体験するでしょう。ただし、「やっといいところが見つかった」という風に、最後は喜びを得られるでしょう。早い者勝ちの世界ですから、なるべく早く新しい仕事に転身する方がおすすめです。「つまらないけど今の企業にいよう」と考える人は乗り遅れてしまう可能性が高いでしょう。

AIに任せて人間はアナログに生きるのが正解?

今のところ、AIが活かせるのはバーチャルの世界だけ。ロボット技術はまだ鉄腕アトムのようにはなっていません。書道の書のように、画像で読み取り解析できる作業は AIとつながっています。しかし、書道の動作や寿司職人の技のようなアナログな世界は、AIと接続していません。将来はロボットが全部やるかもしれませんが、今の時点では、スポーツ・武道・陶芸などアナログなものは AIにとって変わりにくいでしょう。AI時代に生き残るためには、アナログの世界でできることをすこし増やしておくことがおすすめでしょう。

取材/I am 編集部

文/今崎人実

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