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高森厚太郎の半径5メートルのビジネスモデル#01 会社員の宿命って? 正社員でも結婚しても一生安泰な働き方はもうありません

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仕事一筋、30歳を過ぎて仕事は充実していた……が、ふと周りを見渡すと友人たちは、結婚、独立など、思い思いの道を歩いていた。「このままでいいのか」不安になる瞬間は働き方を見直すタイミング?

プロフィール

プレセアコンサルティング代表取締役パートナーCFO高森厚太郎

東京大学法学部卒業。デジタルハリウッド大学院客員教授。プレセアコンサルティングの代表取締役パートナーCFO。一般社団法人日本パートナーCFO協会 代表理事。

++ 「このままの人生でいいの?」 ++

中堅学習塾チェーンに新卒入社した松井ゆみ(32歳)は、

学生時代の塾講師経験が評価されて20代で吉祥寺校の教室長になるも、

忙しくて恋人と別れてしまった。

そんなある日、大学時代の友人たちとランチ。

去年転職、そこで出会った彼と来春結婚したり、

子育て中にベビー用品の輸入販売で起業したり……。

ふと「私の人生、このままでいいのかな…」とぼんやり考えていたら、

勤務先の会社が大手学習塾チェーンS社の傘下になるという発表が。

「傘下に入るって、会社はなくならないよね。仕事、どうなっちゃうんだろう…」

自分の会社が潰れると思ったことはありますか?

「この会社はもって5年かな、いや10年はいけるかな」
と、今の会社に入社する時に考えたことはありますか?

もちろん、ない、という方がほとんどだと思います。
入社する時は、定年まで勤める、あるいは、定年までは働かないとしても、自分が勤める会社が潰れる、なんてことを考えて入社する人はまずいないと思います。

また、現実に会社に起こりうる変化は倒産に限ったことではありません。
グループ再編、企業の合併、子会社化、経営不振…
といったことは、中小企業でも、大手企業でも起こりうる話です。

私自身、約20年前に最初の就職先が経営破綻し国有化された経験があります。

それこそ、自分が入社する5年前までは世界の時価総額ランキングで22位に名を連ね(日本では11位)、日本どころか世界を代表する企業で、しかも銀行でした。
それでも実質潰れてしまうという現実を、齢30前にして知りました。

M&Aは増加傾向。いつ会社が買収されてもおかしくない

ニュース報道では大手企業同士の買収(M&A)が目につきますが、中小企業でもM&Aの件数は増加傾向です。買収される側の背景は「事業の成長・発展」や「後継者の不在」など様々ですが、「従業員の雇用を維持するため」の手段としてM&Aを検討されることが多いようです。

参考

会社員の宿命とは「自分に選択権がないこと」

「自分の会社が買収(M&A)されたらどうなるの? 倒産でなければ、仕事には困らないですよね?」

確かに、従業員の雇用の維持に努める企業が多いようです。しかし、合併などの組織再編がある場合、特に間接部門では必要な人数が半分になり、余剰人員が出てしまうことは十分にあり得ます。

その場合、たとえ仕事を続ける(雇用が継続する)としても、配置転換や勤務形態や労働条件、就業規則などの変更は可能性として残ります。また希望退職などの選択肢が出てくるかもしれません。

いずれにしても、「今と同じ仕事・労働条件・賃金」ではなくなります。

そもそも、合併等に限らず、企業の勤め人である以上、本人の能力・希望に関係なく異動ということはよくある話です。例えば…

――開発部門の人員がだぶついているから、とりあえず営業に回す

――時代の変化により従来の事業はニーズがなくなり、代わりに新規事業を始める

――事業の一部を外に売却することになった

こうした事態になると、たとえクビにならなくても、担当している人が次に何の仕事をするの? といった時、自分に選択権がない限り、会社の流れに身を任せるしかなくなってしまいます。

人生100年時代のキャリア構築とは

このように、根本的に仕事が変わる可能性がある時代。今いる会社ありきでのキャリアパスや、同業他社への転職だけ考えていても、自分の望むキャリアが築けるとは限りません。

「宙船」(歌:TOKIO、作詞作曲:中島みゆき)にもある通り、他人に「おまえのオールを任せるな」。「自分という船」のオールは、自分で持っておかないと、自分を守ることはできないのです。

変化の激しい時代、さらに人生100年時代と言われる今を生きる我々は、自分のキャリアを会社ありきで考えるのは良策とは言えません。基本的に自分のキャリアは自分で何とかするという覚悟を持ち、そのための武器や、どういうところで生きていくか、といった戦略が必要です。

今日からできるキャリア戦略

それでは、自分のキャリアの戦略を持つために、一体何をどうすればいいのでしょうか?

合併をはじめとした会社の変化は、実際に社内で話が出てから身の振り方を考えるのが現実的な話です。だからといって、そうなってから一から対応するとなると後手に回ってしまいます。転職で慌てて探しだしても思うような先が見つからない、準備不足で撃沈、なんて結果になりかねません。

キャリアを会社ありきで考えることは良策ではない。一方で、会社で働いている以上、その状況を活かさない手はありません。

「自分の目の前の仕事がずっと、来年も3年後も5年後もあるわけじゃない」という認識を持ちつつも、まずは、もっと周りや自分を見て、観察してみましょう。

ビジネスのフレームワークを利用すると、よく見える

では、一体どんな視点で周りや自分を見ていくの? というときに役立つのが、ビジネスのフレームワークです。

フレームワークというのは簡単に言うと「思考の枠組み」のこと。人は枠組みがない状態で物事を見たり考えたりすると、どうしても視点が偏りがちです。自分や身近な人の経験や感情に影響を受けたり、本来考えるべき事柄が抜け落ちたり、あるいは堂々巡りになって結論にたどりつかないことも……。

フレームワークに沿って考えることで、そうした視点の偏りやモレを少なくし、客観的に物事を捉えることができます。あくまで考えるためのツールなので、私は仕事に限らず私生活でもこれからご紹介するようなフレームワークを活用しています。

「3C」は合コンをイメージするとわかりやすい

ここでは、経営戦略やマーケティングで用いられる「3C分析」をご紹介します。
3Cは「サンシー」と読み、

Customer(市場・顧客)
Compepitor(競合)
Company(自社)

の3つの視点から事業環境を分析するというものです。例えば、顧客はどんな人たちで、どんな課題を抱えているのか。そしてその課題に関して、顧客を狙っているのは自社だけではなく競合もいる。その競合のスペックや動きを見たうえで、真っ向から勝負をするのか、他の課題あるいは他の顧客にシフトするのかを考える。といった具合です。

ビジネスでは、この分析結果を参考にして、事業計画やマーケティング戦略を考えますが、それはそのまま個人にも当てはめることができます。

一つ身近な例を出すと、合コンの場面です。あなたを含め女性が3名、向かいに男性が3名座っている場面をイメージしてみてください。その後の流れは…

  1. 男性(市場・顧客)を見て
  2. 女性のメンバー(競合)の動き(誰を狙っているのか)を見て
  3. 自分(自社)の違いや特徴を考えて、同じターゲットにアピールするか、ターゲットを変えるか

などを考えるでしょう。そう、実は日常の場面もこの視点で考えることができるのです。

自分を「じぶん株式会社」としてみる

ここで、自分自身を一つの会社「じぶん株式会社」と見立てて、「自社」において3C分析をしてみます。

Customer
(市場・顧客)
・自分のスキルを買ってくれる会社、職業、業種とは何か。
・市場・顧客に求められる自分の価値とは何か。
Compepitor
(競合)
・自分と同様の仕事をしている人、したい人、今後目指す人はどのくらいの人数で、どんなスキルを持っているのか。
・自分と同年代の人はどんな仕事で、キャリアで、どんな学校か、どういった勉強をしてきたのか。
Company
(自社)
・競合に比べて自分はどうか。(スキルの優劣、他の強みの有無)

市場・顧客

そもそも自分のスキルを買ってくれる、狙いとするような世の中の会社、職業、業種といったものは何だろうか。そして、世の中から求められている自分の価値とは何だろうか、といったことを考えます。

競合

競合は自分の業務内容や属性で分解すると、考えやすいでしょう。

例えばあなたが法務の仕事をしているなら、同様の仕事に今就いている人、やろうとしている人、あるいはこれから目指す人たちがどれくらいの人数で、どんなスキルを持っているのか。あるいは、自分と同世代の人がどんな仕事をして、どういうキャリアで、どういう学校に行っているのか、どういう勉強をしているのか。

こうした情報は友達との雑談や、スマートニュースを始めとしたネット記事からも分かります。視点を持ちアンテナを立てていれば、情報は結構入ってくるものです。

自社

競合と比べて自分はどうか。スキルが優れているのか、劣っているのか、あるいはほかのことで勝負できないかとか、といったことを考えていきます。

「じぶん株式会社」を分析してみると、自分の立ち位置が見えてくると思います。現実的に所属している会社ではそこそこ立ち位置だな、とか、転職するにはこのスキルアップが必要だな、など。自分を分析するには、自分の周りの分析が必要ということなのです。

経済ニュースを読んだほうがいいワケとは?

「じぶん株式会社」の分析ができたら、次はもっと広い視点でも分析を行うとよいでしょう。例えば、会社の分析であれば、代表的なものは、その企業の属する業界構造を考える「5つの力分析」、日本や世界のマクロ経済環境や政治、社会、技術の動向世界の環境を見る「PEST分析」があります。個人であれば、日本を取り巻く経済環境、動向を考えればいいでしょう。

日本の経済環境に関して言うと、成長社会の中では、平社員でも給与が毎年上がっていましたが、今は会社の利益が毎年右肩上がりとは限りません。当然、基本給が毎年アップする保証もなければ、たとえアップしてもごくわずか…。さらに新型コロナの影響など、業種によっては業務量の減少がそのまま手取りの給料ダウンとなる可能性もあります。

平成の30年は「失われた30年」と呼ばれ、日本のGDPは上がっていません。それでも日本人が貧しさを感じていないのは、日本ではワンコイン500円で美味しいものが食べられるほど、他の先進国と比べて物価が安いためです。一方世界に目を向けると、給与も物価も上がっています。例えばシンガポールでは日本で6~700円の食べ物が倍以上したり、ヨーロッパではペットボトルの水1本が250~300円です。

先進国に限らず、アジアでも物価は上昇してきています。日本の物価の安さがこの先10年、20年と続く保証はどこにもありません。直近ではマクドナルドが2割値上げという話もあり、この先日本の物価も上がりそうだ、という予想は立てられます。

一方で自分の給料が上がる見込みがなければ、生活水準は落ちるだけ、ですよね。

「じぶん株式会社」だけでなく、社会全体を分析することで、より広い視点で持つことができるでしょう。

結婚の新常識「夫婦二人で安泰」とは限らない

結婚についてもキャリア同様に様々な可能性があり、「結婚さえすれば人生安泰」とは当然なりません。

今の時代、結婚しても多くの夫婦が共働きですが、夫婦それぞれが働きながら、家事や育児の分担のバランスを取るのは難しいものです。

また、夫と妻、2馬力あれば、子育てを含めて長い人生豊かに生きていけるかというと、勤務先の経営破綻にぶつかった私のように、先行きは見通せないものです。時間に追われて子どもと向き合う余裕がない、ということもあり得ます。

結婚することでリスクヘッジになるかというと、逆に相手のカラダやメンタルの不調、双方親の介護といった可能性もあります。昔と比べて兄弟が少ないので、必然的にそうした事情が自分に降りかかってくる可能性も高い。公的な支援や地域のサポートも、地域差が大きく要件等があるため、あてにできるとは限りません。

今は結婚をしないことを選択する人もいるため、そもそも結婚するかということもあるし、結婚したとしても離婚する可能性もあります。どんな選択肢をとっても、リスクや不確実性はつきもの。人生の一寸先は闇、いばらの道と言ってもいいかもしれません。

この記事を書いた人

高森厚太郎
高森厚太郎プレセアコンサルティング株式会社 代表取締役パートナーCFO
プレセアコンサルティングの代表取締役パートナーCFO。一般社団法人日本パートナーCFO協会 代表理事。デジタルハリウッド大学院客員教授。東京大学法学部卒業。筑波大学大学院、デジタルハリウッド大学院修了。日本長期信用銀行(法人融資)、グロービス(eラーニング)、GAGA/USEN(邦画製作、動画配信、音楽出版)、Ed-Techベンチャー取締役(コンテンツ、管理)を歴任。著書に「中小・ベンチャー企業CFOの教科書」(中央経済社)がある。

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