人生を変えるI amな本「天は自ら助くる者を助く」古くて新しい自己啓発の不朽の名著『自助論』を読んで、ビジネスマインドを鍛える!
人生が変わる I am な本。今回は明治時代からの大ロングセラー、サミュエル・スマイルズの『スマイルズの世界的名著 自助論』(知的生きかた文庫)を紹介。
日本に文明開化をもたらした明治時代は、当時最先端のテクノロジーのみならず、翻訳書というかたちで有益な思想も移入しました。
なかでも庶民の間でもてはやさた一冊に『西国立志編』(講談社学術文庫)があります。これは、江戸幕府の留学生監督として渡英した中村正直が、当地で入手した『Self Help』を翻訳したものです。本書は 100 万部を超える大ベストセラーとなりました。ちなみに、「天は自ら助くる者を助く」という有名なフレーズは、本書の出だしにあるものです。
『Self Help』は、今風にいえば「ビジネスパーソン向け自己啓発本」。その後も何度か翻訳書が出ており、今は『自助論』という書名になっています。原著者は、スコットランドのサミュエル・スマイルズ(1812 – 1904)。
医師、新聞社編集長を経て、鉄道会社に勤務しながら文筆活動をしていた人物です。1859 年に出版された本書は、「ヴィクトリア朝中期の自由主義のバイブル」と呼ばれるほど人気を博し、イギリスの政治思想に多大な影響を与えました。
160 年以上も前に出た古典ですが、内容は古さを感じさせません。今に生きるフリーランス・個人事業主の方々にも、大いに励みになるものがあります。今回は、『スマイルズの世界的名著 自助論』(知的生きかた文庫)の文庫版をもとに内容を紹介しましょう。
目次
160 年以上前から成功者は「朝活」をしていた?
スマイルズは、「人生の奥義の九割は快活な精神と勤勉にある」と大書し、特に「勤勉」については、最初から最後まで力説しています。ここで言う「勤勉」とは、必ずしも勉強だけを意味せず、一生懸命働くことも含まれます。
といっても、ただやみくもに働くのではなく、時間の有限性を意識するのが大事だとも。
「朝活」といえば、最近の流行りというイメージですが、スマイルズはすでに朝の時間の重要性を知っていました。彼は、一例として博物学者ビュフォンを挙げます。ビュフォンは裕福な家庭に生まれたため、特に働かなくても生きていける身分でした。しかし、これでは自堕落な人生に終わると危機感を抱き、学問の道を目指します。
その大きな障壁となったのが、朝早く起きられないというものでした。そこで使用人のジョゼフに、朝 6 時に起こすよう頼みます。起こしてくれたら、銀貨 1 枚を報酬として与えると約束しました。ところが、
初めのうち、ジョゼフが声をかけても気分がすぐれないからもう少し寝かせてくれと泣きついたり、安眠をじゃまされたと腹を立てたりで、さっぱり起きようとしない。そのくせ、ようやく目を覚ますと「どうして約束の時間に起こさなかったのか」と逆に小言を言う始末だった。(本書 38p より)
1時間が無理なら 15 分でもいい
おかげで、さっぱり銀貨にありつけないジョゼフは、腹にすえかね、主人をベッドの外に引っ張り出すといった荒療治に訴えます。この甲斐あってビュフォンは、朝寝坊の悪習慣を克服。学者として大成するのです。彼は、「私の著作のうち3、4巻は召使いのジョゼフの力に負うところが大きい」と、しばしば語ったそうです。
スマイルズは、早朝の数時間は無理でも、毎日 1 時間でいいから無為に過ごしていた時間を有効活用するようアドバイスします。その時間すら捻出できないなら、「十五分でもいいから自己修養に向けてみるがいい」とも説きます。それだけのわずかな時間でも、1 年続ければ「きっと確かな効果が表れる」からです。
成功からではなく失敗から多くを学ぶ
古代から論議されているテーマに、「才能か努力か」というものがありますね。
スマイルズは、持って生まれた才能は、人生で何かを成すには小さい要素だと断じています。そして、第一に「人間をつくるのは安楽ではなく努力」、さらに失敗や逆境にもまれることも必須だと論じます。その理由は、
われわれは、成功ではなく失敗からむしろ多くの知恵を学ぶ。「何を行うべきか」に気づくのは、「何を行ってはいけないか」を悟る時だ。過ちを犯さなければ、いつまでたってもそこに気づくことはない。(本書 186〜187pより)
具体的な例として記されるのがポンプです。昔から幾多の技術者・研究者が、10 メートル以上の高さにポンプで水をくみ上げようとして失敗を重ねました。ですが、この試行錯誤がもとになって気圧の法則が発見され、ガリレオやボイルといった科学者の研究に新生面が開かれました。
むしろ、科学技術や芸術の歴史は、幾代にもわたる人々の失敗の歴史でもあります。この点をわれわれは肝に銘じるべきでしょう。特に何か新しいことを始めたとき(最たる例は独立開業ですが)、ささいな失敗にものすごく敏感になってしまいます。そこは軽やかに乗り切ることが、その後の流れを決める秘訣なのです。
よき友、よき師を持つ
本書は、とにかく自助の精神をすすめているのですが、孤独に身をやつして精進することを強制しているわけではありません。
むしろ、人格者である「よき友」と積極的に関わることが奨励されています。そうした人たちと付き合うことで、「野辺を行く旅人の衣に草花の香りが染み付くように、よい交際はすばらしい恩恵を手みやげに与えてくれる」と、詩的な表現がなされています。
そして、「よき師」を、仕事のお手本とする重要性についても言及されています。それは、必ずしも実際に付き合いのある人に限定する必要はありません。本書には、作曲家ハイドンの例があります。彼は、親交はないながらもヘンデルを作曲の師と仰ぎました。
ハイドンの天才的資質はヘンデルによって初めてかき立てられたといっても過言ではない。ヘンデルの作品が演奏されるのを聞いて、ハイドンは作曲への情熱を燃え上がらせた。ハイドン自身がいうように、この出会いがなければ彼のオラトリオ「天地創造」は日の目を見なかったにちがいない。(本書 210〜211p より)
「よき師」は、ときには一冊の書物ということもあります。そのジャンルとして、立派な人格の手本が盛りこまれた伝記がすすめられています。読めば、「精神がいっそう豊かになり、何かの決断をするにも心が励まされる」からです。特に役立つのは、自分が持っている才能や情熱が向かう職業で大成した人々の伝記であると、スマイルズは語ります。
『自助論』は、現代人からみたら少々「説教じみている」と感じられる内容かもしれません。ですが、仕事や人間関係に失敗して、心がささくれ立っているとき、挫けそうなときは、意外にも大きな慰めとなってくれるのです。枕頭の書として、少しずつ読んでみてはいかがでしょうか。
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この記事を書いた人
- 都内出版社などでの勤務を経て、北海道の老舗翻訳会社で15年間役員を務める。次期社長になるのが嫌だったのと、寒い土地が苦手で、スピンオフしてフリーランスライターに転向。最近は写真撮影に目覚め、そちらの道も模索する日々を送る。