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みらいのとびら 好きを仕事のするための文章術プロフィールは断片だけを並べても伝わらない。自分の「根っこ」からストーリーを集約させる方法【第 6 回】

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文章のプロ・前田安正氏が教える、好きを仕事にするための文章術講座。第 6 回は、300 文字で 3000 文字分の伝えたいことを文章にするには「ストーリーを集約」させよう。

プロフィール

未來交創代表/文筆家/朝日新聞元校閲センター長前田安正

ぐだぐだの人生で、何度もことばに救われ、頼りにしてきました。それは本の中の一節であったり、友達や先輩のことばであったり。世界はことばで生まれている、と真剣に信じています。
2019年2月「ことばで未来の扉を開き、自らがメディアになる」をミッションに、文章コンサルティングファーム 未來交創株式会社を設立。ライティングセミナー「マジ文アカデミー」を主催しています。

書くときは文字数を決める

原稿を書くときには、ある程度字数を決めて書く必要があります。字数を決めて書かないと、どこまでも話が広がって収集がつかなくなることが多いからです。

紙媒体と違い、Twitter などを除けば基本的にネット記事には字数制限がありません。ネット記事の中には読み手を意識してか、一人ツッコミやボケが入っていたり、「〜と思う」といった伝聞の形が頻出したりするものがあります。


「それも味だ」と言われれば、それまでです。しかし、文章は話を横に広げると散漫になります。枝葉ばかりになって、肝心の幹が見えなくなるからです。むしろ、幹をしっかり描くために、縦に深く掘って幹を支える根の部分を語る方が、話がブレずにわかりやすくなります。

会話と文章の違いを理解する


一方、会話の場合は枝葉の部分が面白さを醸します。身ぶりや顔の表情、声のトーンなどもあるので、話が横に広がっても比較的内容が伝わりやすいのです。とはいえ、興に乗りすぎて失言をするところも、枝葉の部分がほとんどなのです。


「根っこ」の部分を50個書き出す


僕は、これがとても重要だと思っています。プロフィール文を書くときに「ことばの芽を探そう」などと言ったのも、「根の部分を語る」ためなのです。それには、やはり思いを 50 個ほど書き出す必要があるのです。

記憶は都合よくつくり変えられていきます。ある断片を切り取っただけなら、それでもいいのです。しかし思いを伝えようとしたときに、記憶の断片だけを描いても全体を語ることはできません。花片 1 枚だけを描いても花全体を描いたことにならないのと同じです。

全体を描く:記憶の断片だけでは伝わらない

あなたが何かをしたいと思ったその動機は、たった一つではないはずです。さまざまな思いが重なった先に、あなたの決断があったに違いないのです。


10 代のときからこれ一本で行くと決めた道に邁進している人なら「メジャーになる」「有名になる」「お金持ちになる」という理由だけで進んでいけるかもしれません。


ところが、社会人も経験し世の不条理を受け止めつつ、その先に新しい世界を描こうとするみなさんは、必ず喜び、行き詰まり、憤りといった浮き沈みがあるはずです。浮き沈みという大げさなものでなくても、時々の思いは千々に揺れていたはずです。それは、何かことを起こそうとしたときの大きなモチベーションになっているはずです。


そうした思いの断片は、花弁 1 枚にしか過ぎません。そこだけ語っても、あなたの根は見えてきません。50個の思いを箇条書きにしようと言ったのは、あなたの根を確認しどんな花の形をしているかを明確にするためです。

多く書いて削る:800文字を300文字に

最初から 800 字のプロフィール文を書くのと、たっぷり 3000 字ほどを書いてそれを削っていくのとでは、書かれた内容の密度が違ってきます。

ここで、800 字にまとめたプロフィール文を 300 字程度に縮めていこうと思います。


まず、ギターに再会したきっかけとギターの関わりを書きます。

息子が小学校を卒業した頃、ギターを練習する音が聞こえてきました。
私も小学 5 年のときに、ジャズギタリストの魅力に引き込まれギターを始めました。一時は、プロになろうとアメリカで勉強もしました。しかし力及ばず挫折。以後、ギターを弾くことはありませんでした。(125字)


次にギターを弾くことになった経緯と、その時の気持ちをまとめます。

長年ギターから遠ざかっていた状態から「楽しい」と思った気持ちとギターへの向き合い方の変化を書きます。それが、ギター教室を始めた動機です。そして、「自らを表現する場」としてのギター教室を開くという志をしっかり書いていきます。

あるとき息子に請われて「一度だけ」と、ギターを構えました。すると指が自然に動き、上手くなりたいと一心に思って練習していた頃の自分を思い出したのです。
「ギターを弾くのは楽しい」
私は再びギターを手にしました。ギターを楽しみながら自らを表現できる場をつくりたいと思い教室を開きました。
現在、10〜70歳代の20人とともにギターを楽しんでいます。一度、遊びにいらっしゃいませんか?(186字)

魅力的なプロフィール文とはその人の「根っこ」がある文章

3000 字と 800 字、300 字のプロフィール文の基本部分は、変わりません。しかし、抽出する内容を絞っています。はじめから 300 字を書くと、真に伝えたい部分(動機や理由)を見失ったまま、履歴だけを書いてしまうことがあるのです。


たっぷり書いて、削り込む。


それだけで、あなたの思いをしっかり伝えることができるはずです。

この記事を書いた人

前田 安正
前田 安正未來交創代表/文筆家/朝日新聞元校閲センター長
早稲田大学卒業、事業構想大学院大学修了。
大学卒業後、朝日新聞社入社。朝日新聞元校閲センター長・元用語幹事などを歴任。紙面で、ことばや漢字に関するコラム・エッセイを十数年執筆していた。著書は 10万部を突破した『マジ文章書けないんだけど』(大和書房)など多数、累計約30万部。
2019年2月「ことばで未来の扉を開き、自らがメディアになる」をミッションに、文章コンサルティングファーム 未來交創株式会社を設立。ことばで未来の扉を開くライティングセミナー「マジ文アカデミー」を主宰。

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