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人生を変えるI amな本「週15時間労働」経済学者ケインズの予言は大外れ? 効率性を上げれば余計に忙しくなる「罠」から脱出する方法

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少しの自己投資で人生を変える読書術。今回はオリバー・バークマンさんの『限りある時間の使い方』(高橋璃子訳、かんき出版)を紹介。

「週15 時間」労働とは程遠い現代人

1930 年、経済学者のケインズは、2030 年には「富の増加と技術の進歩のおかげで、みんな週 15 時間しか働かなくなる」と予言しました。そして、ありあまる暇な時間をどう生かすかが、大きな課題になるだろうとも。


あと 7 年で、ケインズが予言した年が来ます。現状、どうでしょう? 週 15 時間しか働かないどころか、平日フルタイムで働く人のほうが圧倒的多数ですよね。誰もが、手帳にタスクとスケジュールを詰め込み、いかに効率的にこなすかに必死になっています。


『ニューヨーク・タイムズ』などに寄稿するライター、オリバー・バークマンさんもその 1 人でした。
彼は、「正しい時間管理ツールを見つけ、正しい習慣を身につけ、うまく自制心を働かせることができれば、もう時間に悩まされることはないはずだ」と試行錯誤するも、うまくいきません。


やがて、「効率を上げれば上げるほど、ますます忙しくなる」という「罠」に気づき、そこから抜け出すはどうすればよいかと思索を深めます。その思索の集大成が、著書『限りある時間の使い方』(高橋璃子訳、かんき出版)です。

「何もかもはできない」と認める

写真/Canva

本書の冒頭で、バークマンさんがアドバイスするのが「限界を受け入れる」こと。


そもそも人生は有限で短いものです。どうやっても1日は 24 時間、1 週間は 7 日間であり、人生はせいぜい 4000 週間の短さです。


われわれが時間管理にしゃかりきになりなるのは、人生は短いという事実を直視したくないからだと説かれています。


なので、あえてその現実を直視する。「何もかもはできない」と認め、限界を受け入れる。たたみかけるように、バークマンさんは次のように述べています。

“自分がやりたいことも、他人に頼まれたことも、すべてをやっている時間はない。絶対にない。
だから、それを認めて生きる。そうすれば、少なくとも無駄に自分を責めなくてすむ。タフな選択はいつだってやってくる。大事なのは、意識的に選択することだ。何に集中し、何をやらないか。どうせ全部はできないのだから、少なくとも自分で決めたほうがいい。”(本書 043p より)

もしあなたが、上司や世間からの要求に全部従い、かつ自分のやりたいことも軒並み達成したいと奮闘しているなら、いちどその中身を棚卸ししてみてはいかがでしょう? それは敗北といったようなものではなく、より良い人生への第一歩となるはずです。

思い通りにならない現実に向き合う

限界を受け入れたところで、次に訪れる試練があります。


それは、「気をまぎらせてくれる何かを探して」しまうこと。「何か」の代表的なものは、SNS です。バークマンさんが、「延々とツイッターを見たり」と記しているように、SNS とかかわる時間が多いのです。


それが、気のすすまないタスクの最中であれば理解できます。ですが、「自分が本当にやりたいと思っていること」ですら先延ばしにして、単なる気晴らしへ逃避してしまいます。


ならばデジタルデトックスとしゃれこんで、強制的に電波の届かないところにこもる? おそらくうまくいかないでしょう。なぜなら、邪魔をするのは SNS というより「嫌な現実から逃れたいという、僕たち自身の欲求」だからです。バークマンさんは、こう解説しています。

“あなたがパートナーとの会話に集中できないのは、食卓の下でこっそりスマホをいじっているせいではない。本当は順番が逆だ。会話に集中したくないから、こっそりスマホをいじっているのだ。話を聞くには努力と忍耐と献身が必要だし、話の内容によっては嫌な気持ちになるかもしれない。それよりも、スマホを見ているほうが断然ラクだ。”(本書 131p より)

唯一の対策は、「思い通りにならない現実に向き合う」ことだといいます。苦痛や退屈な現実を見たくないと否定し続ければ、逃避欲求もずっとついて回るでしょう。ですが、覚悟を決め、現実と向き合うことで、重荷はふっと軽くなるものです。

忍耐が強みになる

写真/Canva

時間にかかわる別の問題として、社会が加速するにつれ、せっかちになっていることが挙げられます。


何か知りたいと思ったら、検索すればすぐ答えが出てくる世の中。とはいえ、検索では解決のつかない人生の問題はいくらでもあります。


本書には、優秀な金融アナリストとして活躍していた女性の話が載っています。その人は、子どものしつけに難儀していました。そのやり方は、「朝ごはんをもっと食べさせようとか、早く寝かせようとか、何でも頭に浮かんだ瞬間に解決しようとする」ものでした。そして、心理カウンセラーに「子育てなんて私には無理です。どうしたらいいんでしょう?」と嘆いていました。


これは、「難しい問題に直面したとき、僕たちは未解決の状態に耐えられず、とにかく最速でなんとかしたいと思う」心理のあらわれだと、バークマンさんは指摘します。


では、どうすればいいのでしょうか?


バークマンさんがすすめるのは「忍耐」です。大半の人が手っ取り早く答えを求める今、逆に忍耐が強みになる場面が増えているといいます。


本書には、忍耐につながるコツがいくつか載っていますが、その1つが「小さな行動を着実に繰り返す」。


本書では、もっとも生産的で成功している学者を調べた、心理学の研究結果が紹介されています。その研究によれば、1日のうち執筆に割く時間が少ないかわり、毎日続けているという共通点があったそうです。


ポイントとなるのは、自分なりの「適切なペース配分」。それを把握したら、「もっとできると感じても、それ以上はやらない」のが大事。この習慣で「忍耐の筋肉」が鍛えられ、高い生産性を長期間維持できるそうです。


「いかに時間を有効活用するか」を論じたビジネス書が次々と登場するなか、『限りある時間の使い方』の視点は意外性に満ちており、読んでみて多くの気づきがありました。日本では、刊行半年で 33万のベストセラーとなっているのもうなずけます。日頃「時間がない」と嘆く方に一読をすすめたい良書です。

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この記事を書いた人

鈴木 拓也
鈴木 拓也
都内出版社などでの勤務を経て、北海道の老舗翻訳会社で15年間役員を務める。次期社長になるのが嫌だったのと、寒い土地が苦手で、スピンオフしてフリーランスライターに転向。最近は写真撮影に目覚め、そちらの道も模索する日々を送る。

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