資本主義の終焉―IT×哲学「5年後の働き方と生き方」①場所と時間が変われば「価値」が変わる。自分の持っている知見や経験を最適な場所で発揮させるという5年先を行く働き方とは?〈尾原和啓×苫野一徳/第1話〉
IT界のゼロイチ男・尾原和啓さんと哲学の新騎手・苫野一徳さんの異色の対談。5年後の働き方と生き方をテーマにした「自分の価値」と「働き方」のくっつけ方とは?
プロフィール
フューチャリスト尾原和啓
IT界のゼロイチ男と呼ばれる尾原和啓さんと、誰もが簡単にアクセスできる哲学を模索する苫野一徳さんのふたりの対談から、ヒントとなる生き方となるロールモデルが浮かび上がります。
目次
「5年先を歩く」尾原和啓の生き方とは
尾原さん、よろしくお願いします。
まずこの “資本主義の終焉? 5年後の働き方と生き方”というタイトルですが、すごく広いテーマですよね。
たしかに。私自身は、資本主義については哲学的にお話することはできるとしても、働き方に関してはとても語れるようなものはないので。最先端を行っている尾原さんに教えていただこうと思っていました。
そうですね、たしかに働き方に関しては他の人よりも5年、10 年早い働き方をしていると思います。僕は逆に“資本主義の終焉”と“これからの生き方がどう変わるか”ということはリンクしていると思うので、そこら辺を苫野さんにお聞きしたいと思っています。
まず、尾原さんの働き方でいうと、今の拠点はシンガポール。長い間、シンガポールとバリ島を行ったり来たりしているとお聞きしましたが。
そうですね。コロナが流行する前はバリ島に 100 日、シンガポールに 200 日、日本に 50 日、残り 100 日は他の国というような生活をしていました。その理由というのが、今回の“生き方”にも関わるところだと思うんですが、娘が9歳のときに、グリーンスクールに通わせたくてバリ島に引っ越したんです。そのときに、娘と交わした約束が、「日本語よりも外国語で話す親友の数が上回ったら、次の住む場所はお前が決めていいよ」でした。
斬新すぎる住む場所の決め方
お嬢さんに住む場所の決定権を与えると。
そう。僕自身は6年くらい前からリモートワークをしていて、どこででも働ける状態でした。ということは、唯一、住む場所が縛られるのは、学ぶ場所が決められている娘ですよね。思春期の頃の親友は大切ですから、その娘が住む場所を選ぶべきだということで。 ただ、僕としては英語で喋る友達が増えたら、絶対に日本に住みたいとは言わないと思っていたんです。グリーンスクールには東南アジアや欧米など、いろんな国々の人が集まっていたんですが、意外と日本の人気が高かったんですね。原宿は海外の若い子にとっても憧れの場所で、「私よく原宿に行ってた」ということが、彼女の中で美化されていたんでしょう。中学2年のときに娘に聞いたら、「日本に戻りたい」と言ったので、今は娘と妻は日本に住み、僕がシンガポールベースで時々日本へ行くみたいな形をとっています。
尾原さんは我々の5年後、10 年後の働き方を体現されていると思うので、その謎に包まれた働き方をお聞かせいただきたいと思うのですが……。
そうですね、僕自身、今まで 14 職をやってきて、13回転職をしています。ただ、就職や転職と言うと、多くの場合“就社”“転社”というように、会社に紐付いて考えられています。そういう意味では僕は 13 回、転プロジェクトをしているけれど、職としては1つの職を全うしているつもりなんです。インターネット上に皆さんを繋ぐ仕組みを作ることで、笑顔が増え、自分らしさが増すような事業開発や投資をするという職を。ただ、ガラケー時代には i モード、スマホ時代になったら Andoroid、スマホが人の営みを繋ぐプラットフォームになった時代は Viberというふうに、時代の流れに合わせてプロジェクトが変わると考えているんです。
転職 13 回でも、一つの仕事を全うする働き方
どこでも仕事ができるけれど、あえてシンガポールにいらっしゃる理由は?
結局、人間って環境の生き物ですよね。今までの僕たちの生き方では、働く場所に縛られていた。だから友人関係や出会う人、時間の過ごし方というものもそこに縛られてしまうわけです。 以前、大前研一さんが「人を成長させるには3つの要素を変えるといい」という話をしていました。その3つが“住む場所”“友人関係”“時間の使い方”。この3つを満たして、僕にとって一番美味しくなる場所はどこだろうと考えたときに、インターネットの中心地が欧米からアジアに移ってきた今は、東南アジアがホットスポットになってくると考えたんです。
交友関係などが刺激的なんですね。
そう。僕はインターネットのいいところって、小分けにしたものを繋げていくことだと思っているんです。それはシェアリングエコノミーのように、自分の車に誰かを乗せてあげたり、空いている部屋を貸す Airbnb だったり。今まで資本って会社しか使えなかったけれど、個人の資本を分け合ってくっつき直すことができるというのが、今の時代の変化だというふうに。 そう考えると、自分が持っている資本を、一番ありがたく感じてもらえる場所に自分の身を置く方がいいですよね。日本だと所詮、インターネットをちょっと早めに知ってる人ぐらいにしか思われませんが、東南アジアだと日本でビジネスを作ってきた僕の知見をありがたがってもらえる。 商売って価値を安いところで仕入れて、高いところに持っていくというのが基本なので、自分の身を置くところを考えたときに、東南アジアの中心にあるシンガポールを選んだというところです。
ようやく「価値」が見直されてきた哲学
その考え方で多くの人がやっていけそうでしょうか?
どうでしょうね。そこが多分5年後の働き方、というより生き方になってくるんだと思います。
でも、そうできたら最高でしょうね。自分では価値があると気づかなかったものでも、他のところに行ったら価値があると気づきやすいし。今って、あまりにも情報量が膨大になっていて、何に価値があるのか分からなくなっているところがあるのかもしれませんね。 私自身のことで言えば、子どもの頃、哲学的なことを言っても難しいやつと思われるだけで、誰にも認められませんでした(笑)。でもまず、教育の世界で哲学が必要だと理解してもらえるようになり、ついでにビジネスや、行政など、芋づる式に哲学が必要だと言ってもらえるようになった。 それで自分がやってきた哲学にも価値があると改めて確信することができたんです。
そこですよね。なんで今、資本主義の終焉みたいなことをみんな言い始めたかっていうと、みんなこのままの生き方ではダメかもしれないと思い始めたということなんだと思うんです。苫野さんがさっき言っていた、哲学が周りから必要と言われるようになった転換点、とくに教育の場で言われるようになった転換点を深堀ると、このタイトルにつながる、大きなテーマのようなものが見えてくるような気がするんです。
第2話に続く
*これは 2022 年2月に I am で行われた対談イベントを記事にしたものです。
〈著書紹介〉
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取材/I am 編集部
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この記事を書いた人
- 「好きや得意」を仕事に――新しい働き方、自分らしい働き方を目指すバブル(の香りを少し知ってる)、ミレニアム、Z世代の女性3人の編集部です。これからは仕事の対価として給与をもらうだけでなく「自分の価値をお金に変える」という、「こんなことがあったらいいな!」を実現するためのナレッジを発信していきます。