Interview
インタビュー

ほぼ0円のスモールスタートでトライ&エラーを繰り返す仕事は一つに絞らなくてもいい。数珠繋ぎのように仕事を増やせるのがスモールビジネス〈ナリワイ代表伊藤洋志さん/第3回〉

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小さく始めて、持続可能なビジネスといっても、どうやってビジネスを始めるのかがわからない。そんな人のために、数珠繋ぎ式にビジネスアイデアを発想するヒントをお伝えします。

プロフィール

持続可能な自営業ナリワイ代表伊藤洋志

自営業・ナリワイ代表。香川県出身。京都大学農学部卒業後、会社員を経てナリワイを発足。仕事の民主化をテーマに、複数の生業(なりわい)を持つ自営業の実践と研究に取り組む。小さい資金で始められて技が身に付き心身が鍛えられる仕事を〈ナリワイ〉と定義し、シェアアトリエや空き家の改修運営や「モンゴル武者修行」、「遊撃農家」などのナリワイを開発し自ら実践するほか「全国床張り協会」といったギルド的団体の運営を行う。著書に『ナリワイをつくる』『小商いのはじめかた』『フルサトをつくる』(ともに東京書籍)がある。

体ひとつではじめるスモールビジネス〈ナリワイ〉を実践する伊藤洋志さん。小さな仕事、小さな収益をいくつも持つことで生活は成り立つといいますが、具体的にどのくらい仕事を作ればいいのか、どうやって仕事を作ればいいのかを聞きました。

生活が向上する活動は積極的にアタック

伊藤洋志さん/本人提供

働くテーマが「ナリワイ」とか「フルサト」とか「イドコロ」とか、仕事っていう感じがあまりしません。

2010年に『ナリワイをつくる』という本を出して、2014年に僕以外の小商いしてる方を取材して集めた『小商いのはじめかた』、都会と田舎に拠点を持つ暮らし方について書いた『フルサトを作る』を出しました。
2021年出した『イドコロをつくる』は、仕事をするには土台としての心身の健康が保てる環境が必要じゃないか、そのために必要なイドコロが世の中には色々ありますよという内容になっています。

一点集中ではなく〈百姓的〉仕事術

最近の活動を教えてください。

ここ半年をふりかえるとこんなかんじです。屋台を作り、羊毛断熱材を販売し、みかんを収穫して頒布し、寿司職人の短期特訓をし、アートディレクター業務をし、ゲル輸入の手続きをし、商品登録申請し、野良着の製造販売をし、床貼りをしました。

《ナリワイ的 1年間の活動》

※2022年時点での時間割の概略図(提供:伊藤洋志)

何屋なんですか? アートディレクターまでやるんですか?

SAGYOという野良着のメーカーもやっているので、イメージ写真の撮影もあったり販促物もつくるのでデザイン周りもやります。
屋台についてはとある美術館展覧会で屋台を使った展示をしたいっていう依頼があって、アジアの屋台の文化や歴史を調べつつ、捨ててあったタイヤなど、ほぼ0円で手に入る廃材で屋台を作ったんです。

屋台って0円で作れるんですか?

厳密にはビスや釘は買っているので0円ではないですが、基本的に世の中って、活用されていない余っているものがものすごくあるんです。つくるより捨てる方がお金がかかる時代。普通にやるとなにをするにも作るにもお金がかかるんですけど、余っているものと自分の特技をうまく組み合わせれば、大体仕事になるって、僕は考えているんですね。
屋台に限らず、わりと常にそういうことを考えて仕事を作り出すという作戦でいっています。だから世間で余っているものは常に探しています。
このやり方のなにがいいかというと、あるものでスタートできるので待つ時間が必要ない。自分の時間の限りチャレンジできるし、持ち出しがないので失敗してもダメージが少ない。うまくいったら続ける、うまくいかなかったらやめる、みたいなことを繰り返してすすめられるので気持ちがとても楽です。

土地を持たない〈流しの農業〉という発想

写真/Canva

みかんの収穫は冒頭でも話してくださったものですね?

そうです。今は、みかんだけじゃなくって、梅、桃、さくらんぼ、ぶどう、イチゴもやってます。農家をやろうと思うと、土地を買ったりとか、先祖代々の土地と持ってないとできないと思うでしょう?
でも、農業ってすごく忙しい時は本職の農家さんだけでは手が回らない時があって、そこに僕は手伝いに行っています。そうこうしていると作物に詳しくなって、その知識をもとに農作物を販売する。八百屋兼助っ人農家みたいな仕事の仕方ですね。実はこれに近い収穫助っ人の生業は過去にあったようです。

野良着の製造販売というのは?

さきほど出た野良着メーカーのSAGYOですね。これもつながっていて、農作業も最初は高校時代のジャージで作業してたんですけど、枝に引っかかって敗れたりで、作業服を買おうとお店に行ってみたら、国産の作業服はほとんど売っていなかった。
国産のものを食べましょう、って農業をやっているのに着ている服がそうじゃないっていうのは気分が盛り上がらないな、じゃあ、作ろうかって。生地まで全部は厳しいかもしれないけど、せめて縫製ぐらいは国内の作業着がいいなって小さなメーカーを作りました。

「業者に発注する」意外の着眼点

床貼りというのも気になります(笑)

これはですね、大工さんというわけではなくて、床貼りを教えつつ床を貼っていく、「全国床貼り協会」という活動なんです。
今って全国的に空き家がすごく多いんですけど、大体が床を貼り直せばかなり快適に過ごせるようになるんですよ。業者さんに頼むと100万くらいしてしまう。でも、材料費だけなら1/5で済んでしまう。時間も3日くらいかければなんとかなるので、じゃあ、みんなで貼りましょうかと。

3日でできるようになるんですね!

そうそう。世の中にはそこそこ習得が簡単で効果が大きいものってたくさんあって、床貼りもそのひとつです。「具体的に生活が向上する活動」を色々とやっていくと、結果的にそれが自分の生活や仕事になって増えていくっていう感じですね。
その道一筋のプロとして仕事をするのはまた別なんですけど、自分の生活に活用するには効果高い技術があるので、そういうのを積極的にアタックするようにしています。

始める前に実験台になってくれる人を見つける

写真/Canva

なるほど。ナリワイを始める時に気をつけた方がいいことはありますか?

なにかナリワイを思いついた時に、まず実験台になってくれる人を見つけて、感想をちゃんと聞くというのが、かなり大事なポイントかなと思います。
実際に感想を聞くと、自分で気付かなかった良さが結構あったり、それを参考に告知をすることもできますしね。ナリワイの内容自体を改良したり、ガラッと変えたり、どんどん良くしていくことができると思います。

新しい働き方を模索する人にメッセージをお願いします!

私のような色々な仕事を複数持つ自営業ナリワイ式もおすすめですが、最近は会社勤めでも週休3日制が議論されているようなので、実現したらナリワイやりながら会社員というのも可能です。
自分も、世の中も、楽しんでいける働き方は絶対にあるので、気になることはまずやってみてください。できればテーマ自体は長く取り組めるものがおすすめです。

第1話「思いついた時に体ひとつで始められるのがスモールビジネス」
第2話「スモールビジネスは困りごとの数だけある!」

取材/I am編集部 ライター/竹本よみを


この記事を書いた人

I am 編集部
I am 編集部
「好きや得意」を仕事に――新しい働き方、自分らしい働き方を目指すバブル(の香りを少し知ってる)、ミレニアム、Z世代の女性3人の編集部です。これからは仕事の対価として給与をもらうだけでなく「自分の価値をお金に変える」という、「こんなことがあったらいいな!」を実現するためのナレッジを発信していきます。

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