Interview
インタビュー

アイデア勝負ではない!誰かにとっての役に立つがビジネスの種スモールビジネスは困りごとの数だけある!仕事の見つけ方と始め方、続け方〈ナリワイ代表伊藤洋志さん/第2回〉

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スモールビジネスを始めたいけど、何をしたらいいのかわからない人、必読。小さな仕事をいくつも生み出したナリワイの伊藤洋志さんにビジネスアイデアの見つけ方を聞く。

プロフィール

持続可能な自営業ナリワイ代表伊藤洋志

自営業・ナリワイ代表。香川県出身。京都大学農学部卒業後、会社員を経てナリワイを発足。仕事の民主化をテーマに、複数の生業(なりわい)を持つ自営業の実践と研究に取り組む。小さい資金で始められて技が身に付き心身が鍛えられる仕事を〈ナリワイ〉と定義し、シェアアトリエや空き家の改修運営や「モンゴル武者修行」、「遊撃農家」などのナリワイを開発し自ら実践するほか「全国床張り協会」といったギルド的団体の運営を行う。著書に『ナリワイをつくる』『小商いのはじめかた』『フルサトをつくる』(ともに東京書籍)がある。

いくつもの仕事を持つことで、自分自身の生活も世の中も良くしていことを目指す伊藤洋志さん。
「そんなにたくさんのナリワイが見つかるのは伊藤さんはアイデアマンだからでは?」とたずねると、困りごとにぶち当たった時に解決方法を模索することが、ナリワイにつながるという答えが返ってきました。

体ひとつでできる仕事が増えると、社会が変わる

伊藤洋志さん/本人提供

ナリワイで目指しているものってなんですか?

今は複雑で高度そうな高給取りな仕事が増えています。でもそれが、社会的には役立っているか疑問です。D.グレーバーの「ブルシットジョブ」で指摘されているような現象です。
昔の仕事のスタンダードは、農業経営や手工芸、行商、何でも屋とかがスタンダードなんですね。このあたりは、体ひとつでできる仕事で、さらに「本人も社会も割に合う」仕事だと思います。具体的で確実に他人のためになる。こう言う仕事が正当な対価が得られることが大事で目指したいことです。
これに近い考え方が、国際労働期間が提唱している『Decent Work』で、個人の権利が保障されて、なおかつ十分な収入があって適切な社会的保護が与えられる仕事を目指そうという考え方の総称です。「ナリワイ」はまさにこの考えに近くて、誰しもが体ひとつでやる気が出た時にパッと始められて、それなりに適切な対価が得られるようになることを目指しています。
でないと本人が稼ぐことが社会を破壊することになってしまう。投資も投機までいけば、前回のバブル経済のように何かを壊して利益を得る商売になりますよね。

体ひとつでできる仕事って響きがいいですね!

誰でも望めば仕事にアクセスできるのが公正な社会だと思います。会社を首になったおしまい!ではなくって、体ひとつでできる仕事が世の中に溢れてるっていう実感があれば不安にならないで済む。
サバイバルのプレッシャーが小さい社会が理想です。

アイデアではなく観察でナリワイは生まれる

写真/Canva

ハイブリッドな働き方は伊藤さんだからできるのでは?

それ、よく言われるんです。とはいえ、誰しも生活をしていて困ったことがあると思うんですよ。結局そこが出発点です。だから、アイデアというよりは、自分が生活や色々な活動をしていて、困ったことにぶち当たった時にそれをなんとかしよう、というのが基本だと思います。
自分だけじゃなくて、友人や知り合い、世の中も含めて、困った場面に出くわした時にどうするか観察することが重要だと思いますね。

困りごとがそのまま仕事になると。

そうです。そのためにはいろんな生活を試したり視点が変わる暮らしが大事です。先ほど紹介した屋台作成や農業、床貼りなども、困りごとははっきりしています。そういうものは専業だと厳しそうでも、ナリワイにはなります。
もちろん、この10年の中でやらなくなった仕事もありますよ。続くものは続くし、休んだり、アイデアだけだったものがある日浮上して仕事になったり。新陳代謝しやすいのも、ナリワイの特長かもしれませんね。

この図はいったい?

提供:伊藤洋志

ある日思い立って書いたナリワイの概念図です。ビジネス雑誌などで取り上げられる仕事って富士山の山頂辺りのことなんですよね。装備も必要だし、登頂できる人数も限られている。でも、ナリワイは富士山の麓ぐらいのことなので、歩いて行けるし、エリアも広いのでたくさんの人が行けますよ、という図です。
結局、見ているメディアによって見てる場所が違うということです。

価値観を変えると見えてくるものがある

ナリワイ式で働くにあたって心がけていることはありますか?

そうですね。まずは外注しないで自分でやってみる、というのは心がけています。
例えば、商品登録の申請をしようと思った時に、弁理士さんに頼むのではなく1回は自分でやる。面倒くさいんですけどね、でも、一度やればその後も自分でやるか、時間がないからプロに頼もうとか判断ができるようになるので、日々DIYにチャレンジしていくと、自分の技術が増えていきます。
次に意識しているのは、価値観の転換です。一般的に「良い」といわれるものも、いや、違う価値観で考えたら別のものがいいじゃないか、みたいに考える練習を常にしています。
例えば、僕はブロック塀を壊すという遊び仕事もしてるんですけど、これって普通は業者さんに依頼するっていう価値観が一般的だと思うんですが、いやいや、ブロック塀を壊したらストレス解消になっておもしろいんじゃないか? むしろせっかくのブロック塀を他人に壊してもらうのはもったいないんじゃないか? そんな風に考えていくことで、新しい発見が出てきます。価値観を変えるのにはお金はかかりません、ぜひ試してみてください。

なるほど。他に意識していることは?

あくまでナリワイレベルの話ですが、なるべく広告にお金をかけずに中身にお金をかけるようにするとか、ひとつの月に仕事が重なり過ぎないように時期をずらすとか、家賃など固定費にお金がかからないような環境を選ぶようにすることなどは意識していますね。
一例でいえば、通勤通学の道を毎日変えてみる。それだけでも、普段と違う発見や問題に出会って、それが仕事のネタになることもあります。
日常生活の中で実験的なことをしていくと、色々なヒントが落ちているので楽しいですよ。

ゴールや目標はあえて立てない

写真/Canva

長く続くナリワイとそうでないナリワイの違いってなんですか?

なにかナリワイを始めいている時点で1、2人はお客さんはいるわけで、その方々の反応次第ですかね。すごく喜んでくれたらもう少し続けよう、みたいな。でも、自分が無理してはやらない。そのあたりは感覚的に判断しているかもしれません。
例えば、『木造校舎ウェディング』というのはもうやっていないんですけど、これも周りが結婚する時期にやっていて、今はもうそこを過ぎたのでやっていないという感じです。もしやりたいって人が現れたら、やり方は教えますよという感じに落ち着いてきました。

人間関係が苦手だとナリワイは厳しいでしょうか?

僕も決して人間関係が得意ではないです(笑)。
昔、会社員で広告を売る営業をしていたんですけど、信じられないくらい売れなくて、コミュニケーション力がないんだ、苦手なんだなって実感しました。
ところが、先ほどのブロック塀を壊す仕事なんかだと、依頼者も僕も「ブロック塀を壊したい」っていう目的が一致していて、その方と関わるのってだいぶ楽なんです。
さらに言うと、ブロック塀を壊しませんか?って募集をかけて10人くらい集まって交代で叩き壊すというイベントをしたんですけど、みんなでわいわい楽しく会話してさわやかに解散しました。
結局、興味があることが共通している間柄だと話しやすい。というより話さなくても時間を過ごせます。

ナリワイをするのに発信力って必須じゃないですか?

発信力って皆さん気になりますよね。でも、先ほどのブロック塀を壊すイベント10人集まればいいことなので、10万人にヒットする必要はないんです。
10人が無理でも、知り合い1人くらいだったらなんとかなったりしませんか? 家族でも友人でもいいので、最初は1人でいいと思うんですよね。なにかナリワイを思いついたら、その1人に実験台になっていただいて、そしたらそれが自信につながるし、それを見て私もお願いしたいって人が現れるのは想像に難しくない。
ブロック塀を壊したい人を募集するにあたって、目標を20人に設定しちゃって10人しか来なかったら失敗だと思ってしまうけど、設定せずに10人来たら上出来!ってなりますよね。個人レベルに関していえば数値目標は楽しくなくなる一つの原因だと思います。
ゴールや目標は立てずに、1、2人をどうやって増やすかに集中した方が楽しくやれると思います。

第1話「思いついた時に体ひとつで始められるのがスモールビジネス

第3話「仕事は一つに絞らなくてもいい」

取材/I am編集部 ライター/竹本よみを


この記事を書いた人

I am 編集部
I am 編集部
「好きや得意」を仕事に――新しい働き方、自分らしい働き方を目指すバブル(の香りを少し知ってる)、ミレニアム、Z世代の女性3人の編集部です。これからは仕事の対価として給与をもらうだけでなく「自分の価値をお金に変える」という、「こんなことがあったらいいな!」を実現するためのナレッジを発信していきます。

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