Interview
インタビュー

スモールも複数あれば山となる!ナリワイとは「チリツモビジネス」思いついた時に体ひとつで始められるのがスモールビジネス。150人のお得意さんでOKの自営業って?〈ナリワイ代表伊藤洋志さん/第1回〉

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スモールビジネスに〈ナリワイ〉を命名し、自分の体一つで仕事ができることを実践している自営業のプロに話を聞きました。

プロフィール

持続可能な自営業ナリワイ代表伊藤洋志

自営業・ナリワイ代表。香川県出身。京都大学農学部卒業後、会社員を経てナリワイを発足。仕事の民主化をテーマに、複数の生業(なりわい)を持つ自営業の実践と研究に取り組む。小さい資金で始められて技が身に付き心身が鍛えられる仕事を〈ナリワイ〉と定義し、シェアアトリエや空き家の改修運営や「モンゴル武者修行」、「遊撃農家」などのナリワイを開発し自ら実践するほか「全国床張り協会」といったギルド的団体の運営を行う。著書に『ナリワイをつくる』『小商いのはじめかた』『フルサトをつくる』(ともに東京書籍)がある。

多種多様な働き方がある時代に、<ナリワイ>という自給のスタイルを提案し、実践している伊藤洋志さん。 住む場所にも内容にも縛られず複数の仕事をすること生計を立てる最大のポイントは、「具体的に生活が向上する活動」に積極的に関わること。それがやがて、新しい仕事を呼び込むきっかけになると、伊藤さんは実感しています。

仕事を複数持つ<ナリワイ>という働き方

伊藤洋志さん/本人提供

お得意さんが150人で、本当に自営業が成り立つんですか?

そうですね。この150人っていうのは、僕がやっているみかんの販売のお得意さんの目安の数なんです。
これまで色々やってきて感じたことは、仕事を1本に絞り込むのはリスクも高いし、合わない人も多いんじゃないかなということ。あと理想を追求しにくい。だから、ひとつの仕事で生活の糧をすべて稼ぐというやり方でなく、「複数の仕事を持って稼いでいくのはどうでしょうか」という提案で、これを<ナリワイ>と呼んでいます。
僕の場合はいくつかある仕事のうちのひとつがみかんの販売で、150人で規模はともかく割に合う仕事にはなります。中にはお客さんが数人だけという仕事もあります。

お客さんが数人しかいなくて、成り立つんですか?

最初は数人からスタートしても質が悪くなければ150人ぐらいにはなります。フォロワー10万人とかそういう破壊力のある数字を持たなくても、150人ぐらいのちゃんとしたお客さんがいれば、僕ひとりくらいはぜんぜん生きていけるというのが実際10年くらいやってみた実感です。

「好き」や「得意」を仕事にしたらいいんですか?

もちろん、それがあればいいんですが、好きまでいかなくても興味があるものぐらいでいいと思います。どちらにしても、それなりに続けないと仕事としての面白みは出てこないので。「5年くらいは続けられるかな?」というのが目安でしょうか。
得意というもの考え方ひとつで、現状それが得意でなくても、ある程度特訓すれば身につくことっていっぱいあるんですよ。そう考えて、僕の場合は、必要だと思ったことはやってみるようにしています。
それに、自分の特技に固執する必要もなくて、誰かの特技を見つけてその方と協力するというのもありですよ。

住む場所も自分で選べる、仕事の自給

写真/CANVA

仕事を複数持つという考え方のきっかけは?

僕が京都大学に入った(1999年)前後は、京都で地球温暖化会議が行われたり、宮崎駿監督の『もののけ姫』が公開されたり、環境問題が注目された頃なんですね。そんな中、僕も「生物環境学科」に入学しました。
大学で学ぶうちに環境意識がどんどん高まっていくわけです。さて就職活動するかという頃になると「理想の仕事」がないという問題にぶち当たったんですね。どんな仕事を考えても、結局は環境問題的にアウトみたいな気持ちになっちゃうんです。

「理想の仕事がない」と気づいて、どうしたんですか?

考えに考えた結果、「理想の仕事がないのであれば、自分で作るしかないのではないか」という結論に至りました。結果、今はこうして「色々な仕事を自給していく仕事」をしています。

「仕事を自給する」って誰でもきるんですか?

今の日本社会だと特殊に見えるので起業家精神がどうとか言いますが、個人が思い立って商売を始めるカルチャーは少なくともアジアでは当たり前な気がします。会社に就職するというのもひとつの選択肢ではあるんですけど、それって会社が供給してくれる仕事がなければなにもできないってことで、それって不自由だなと思ったんですよ。
住む場所もそうです。田舎や地方には仕事がないから済めないというハードルになりがちですが、土地状況にあった仕事を個人が作れるようになれば、都会でも田舎でも住む場所が選べるようになります。

住む場所の選択肢も広がるわけですね。

そうです。自給といっても分野は色々で、住居、食、衣、娯楽、教育、冠婚葬祭など、重要度が高そうな物を中心にできそうなことはないかなっていうのを片っ端から考えてアタックしています。
僕の場合は年間30~100万円の仕事を6、7個やるのが合っていました。3個ぐらいが合う人もいるだろうし、聞いた話だと、1~3万円の仕事を年間100個くらいしているという猛者もいました(笑)。農村地域に住んでいる方でいろんな頼まれた仕事を請けて生計を立てているそうです。
なので、仕事は複数あった方がいいけど、適切な数は各々が探っていくのがいいんじゃないでしょうか。

<ナリワイ>とは、自分の生活+世の中

写真/CANVA

なにをナリワイしてもいいといっても、悩みそう

自分の仕事を作るとなると、無尽蔵に選択肢が発生してしまうので、その中で何を選ぶかという時の方向性を、僕の場合は、「自分の生活が健康的になる活動」+「世の中全体を良くする活動」という二つを意識することにしています。悩んだ時にこの二つに当てはまるかどうかで、「やる・やらない」を決めていきますね。
例えば床張り講座の主催という仕事があるんですが、人に床張りを教えるのは自分がやってても楽しい。さらに、空き家問題の解決にもつながるし、何より人が自力で住まいを確保できる自活能力を身につける機会になっている。
基本的に、人の生活自活能力が向上するナリワイが良いと思ってやっています。「サブスク」みたいなサービスに依存させるようなナリワイはやりません。

第2話「スモールビジネスは困りごとの数だけある」

第3話「仕事は一つに絞らなくてもいい」

取材/I am編集部 ライター/竹本よみを

この記事を書いた人

I am 編集部
I am 編集部
「好きや得意」を仕事に――新しい働き方、自分らしい働き方を目指すバブル(の香りを少し知ってる)、ミレニアム、Z世代の女性3人の編集部です。これからは仕事の対価として給与をもらうだけでなく「自分の価値をお金に変える」という、「こんなことがあったらいいな!」を実現するためのナレッジを発信していきます。

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