Interview
インタビュー

利尻昆布の6次産業化に挑戦一流企業・三菱商事を退職し、利尻昆布で地方創生に挑戦。待ち受けるのは過酷な昆布干し?〈大路幸宗さん〉

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どのような思い、出会い、勝算があって地方創生の道を選んだのか。閉鎖的な風土に風穴をあけ、地元と都心とのいい交流を生み、ピンチをチャンスにチェンジ!

大路幸宗

プロフィール

漁業法人株式会社膳CSO大路幸宗

静岡県生まれ。株式会社スカイマティクス、社長室兼営業企画本部ゼネラルマネージャー。京都大学文学部日本史学専修卒業後、三菱商事株式会社に入社。宇宙航空機部にて防衛装備品のトレーディングに従事した他、入社4年目で社内ベンチャー、株式会社スカイマティクスの立ち上げに参加、2019年にスカイマティックのMBOに合わせ三菱商事株式会社から転籍。「地方創生」に関心があり、プライベートでは北海道の利尻島で空き家を買い取り、漁業法人株式会社膳のCSOに就任。利尻島の昆布漁師とタッグを組んで一次産業の六次化にも取り組んでいる。その他、石川県能登半島にある明治創業の鍛冶屋「ふくべ鍛冶」の事業支援も。2022年、株式会社文継を設立。

誰しも自分が「これだ!」と思ったものに出会ったら、チャレンジするべきだと思うだろう。しかし、安定企業に就職していたら?

大路幸宗さんは、日本でも有数の総合商社である三菱商事を辞めて、『地方創生』の道を選びました。どのような思い、どのような出会い、そしてどのような勝算があってこの道を選んだのか。『地方創生』のリアルについて伺いました。

全2話、前編はこちらからどうぞ。

大路さんが考える地方創生 4つのポイント

  1. 生産量激減をビジネスチャンスに
  2. 付加価値を生む利尻のストーリー
  3. 人の交流がいい循環を生む
  4. キーパーソンとタッグを組むことが不可欠

利尻昆布、生産量激減をビジネスチャンスに

ライター顔写真

どうやったら利尻昆布の漁師と出会えるんですか?

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2017年に旅行で礼文に行ったときに、礼文町役場の企画に参加し、それがきっかけで漁師さんと仲良くなって、島に通うようになり、気づいたらこういう活動をしていた、という感じです。

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気づいたら三菱商事株式会社という大手企業を辞めていた?

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私自身、今は頑張ればやりたいことに挑戦できる、恵まれた時代だと考えています。だからこそ、自分が興味あること、楽しいと感じることに時間を使おうと思ったことが、会社を辞めた背景にあります。

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三菱商事という超安定の会社を辞めるのに躊躇はなかったんですか? 収入とか・・・。

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多分そういうことを気にしなかったから辞めることができたのかもしれませんね。やはり未知のものに対する好奇心が、会社を辞める原動力になったと思います。

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好待遇とステータスより、未知への好奇心が勝った⁉

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そうですね、利尻昆布であり、今まであまり接点のなかった漁業の現場であったということです。そもそも私は大学で日本史学を専攻していて、日本酒や日本食といった、日本文化に興味を持っていました。その中でも、利尻昆布というのは和食を下支えしている、かけがえのない食材なんですね。その昆布が自然環境の変化などで、生産量が激減していることを知り、何か自分が食文化に貢献することはできないかと考えていました。そんなときに礼文で今のビジネスパートナーである漁師の小坂さんと出会った。それが今の活動の出発点です。

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今、昆布って収穫が激減しているんですか?

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はい。とりわけ函館区界隈の天然の真昆布は、ほとんど採れなくなっています。その一因は海水温の上昇と言われていて、利尻の漁師さんも50年後、100年後に今のように天然昆布があるかは分らないと言っています。

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もはや昆布は貴重アイテムなんですね

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そうですね。ビジネスの観点では供給量が減るということは価値が高まることにつながります。ですから、うまくビジネスと絡めていくために、販売流通や付加価値を高めるお手伝いをしていきたいと考えています。

付加価値を高める利尻のストーリー

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漁師さんが自分たちの商品のブランディングをするのって難しくないですか?

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そうですね。昆布の現場を考えても、私たちは朝の昆布干しだけですが、漁師はその作業の前から昆布の引き揚げをし、昆布を干した後にウニを取り、その殻むきをする。それが終ったらまた昆布の干場に行って重なっていないかを見て、回収する。そうやって1日中動き続けることを1カ月ずっとやり続けている、高い精神力がないとやっていけない商売なんです。
その作業をやりながら6次産業までやるのは、時間的に考えても無理な話ですよね。ですから、得意なところで分業していくべきだと考えています。

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6次産業って具体的に何をするんですか?

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利尻礼文も以前はニシン漁で栄え、人口も今の4倍ぐらいありました。ところがある日突然獲れなくなり、仕事がなくなり、人口減少の一途をたどります。その経験を生かして、現在は昆布だけでなく、ウニや鮭、ホッケ、タラ、毛ガニなど、北海道の豊かな海産物を分散させて、経営を安定させることができるようになってきました。

このような礼文の漁業の歴史や、利尻山から出てくる雪解け水がミネラルと一緒に海水に溶け込み、おいしい昆布ができるというストーリーを、付加価値として商品と一緒に伝えていきたいと考えています。

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ちなみに今、一番高級な昆布はいくらぐらいするんですか?

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そうですね、天然の一等昆布で5年熟成させたものが一番高級かと思いますが、これは昆布全体の供給量でいうと1割もない、とても貴重なものです。昆布の流通の単位は独特なので正確な金額ではありませんが、ざっと換算すると、スーパーで1パックで売られているぐらいの分量で、2〜3000円はすると思います。

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1袋3000円? 激レア昆布ですね!

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残念ながら、供給量が少ないうえ、料亭さんに卸されるため、業者さんが買い占めているような状況です。
ただ、産地としては料亭だけでなく、一般の家庭でも楽しんでもらいたいという思いがあるので、今後はその問題にも取り組んで行きたいと考えています。

人の交流がいい循環を生む

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正直、昆布にビジネスチャンスはあるんですか?

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そうですね。やはり僕も商社に勤めていたこともあり、NGOやNPO的な活動をしようとは思ってはいません。最終的にはインバウンドや世界に向けて、大きな利益を創出するビジネスにつなげていきたいと思っていますし、利尻だけでなく礼文にもとんでもない水揚げを誇る漁師さんたちがいるので、そういう方たちとタッグを組んでいけば、かなりのビジネスになると思っています。現在も、昆布だけでなく、ウニなどもあつかっているので、可能性はあると考えています。

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ビジネスの加速には仲間が必要ですよね?

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そこは、島に来てくれた延べ80人の大学生が貢献してくれています。彼らは普段は東京の一流企業などで働いていて、それぞれの得意分野で手伝いをしてくれるので、正直、ビジネスに必要なピースはかなり揃ってくると思います。

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ビジネスライクな付き合いじゃないところから、ビジネスの応援者が増えているんですね!

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僕らから頼むのではなく、島でおもてなしを受けた彼らが、「何かできることはないですか」とか「こういうことがあったら声をかけてください」と言ってくれるので、本当にいい循環ができていると思っています。

島のおばちゃんたちは、未だになんでわざわざ京都から学生が交通費を払って、島にやって来るのか不思議に思っているようです。島の人たちには分らない価値を、外から来る人が感じる。人と人の交流が生まれることによって、地元の豊かさや価値に気づき、新たな活動につながる。こういう交流が、地域の発展にはとても大事だなと、肌身で感じています。

キーパーソンとタッグを組むことが不可欠

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ここまできたら北海道に移住ですよね?

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そうですね。やはり地方移住は甘くないと思っていて、まだ今の段階ではそこを突破できないでいます。夏場などは礼文にまとまった期間行きますが、定住して地域の活動に参加したり、島のあらゆる人と調整をかけていくということは、やはりそこに生まれ育っていないとなかなか難しいと考えているので……。

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やはり都会者は、地方で生きるのは難しいんですか?

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やはり地方は東京に比べて閉鎖的な人が多いのは事実で、新しい取り組みをよく思っていない人のほうが多いのではないかと思っています。でも、その中の1割ぐらいの島をリードしていくようなキーパーソンとなる人たちが活動を応援してくれる。だから、そういう方々とタッグを組んでやっているというのが実情です。

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IUJターンの方なら6次産業はスムーズなんですか?

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そうですね、一度地元を離れて外を知って帰ってきた方が比較的多いように思います。パートナーの小坂さんも利尻出身で、漁師の家系ではあったものの札幌の証券会社にお勤めされ、26歳のときに島に戻って漁師になったという異例の経歴の持ち主なので、他の漁師さんとは一線を画すところがあると思います。

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むしろ都会を経験することで、地元や地方の価値が再発見できる?

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はい。客観的に地元を見ることができたことによって、新たな活動につながるということが多いと思います。

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誰かとタッグを組めば、閉鎖的な風土に風穴を開けることもできますね

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そうですね。やはり何か新しいことを始めると、地元からの嫉妬や妬みなどのハレーションは起き、それとうまくつきあっていくには、都会にはない人間関係の調整のようなことは必ず発生します。それをうちの場合は小坂さんがうまくやってくれている、というのが実情であり、感謝するところです。

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ビジネスチャンスや田舎暮らしを夢見て移住を考える人は増えましたが、覚悟は必要ですね!

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そうですね。やはり刈り取りまでの時間は長くかかると思います。

全2話、前編はこちらからどうぞ。

取材/I am 編集部
写真/本人提供
文/岡田マキ

この記事を書いた人

岡田 マキ
岡田 マキライティング
ノリで音大を受験、進学して以来、「迷ったら面白い方へ」をモットーに、専門性を持たない行き当たりばったりのライターとして活動。強み:人の行動や言動の分析と対応。とくに世間から奇人と呼ばれる人が好物。弱み:気が乗らないと動けない、動かない。

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