高森厚太郎の半径5メートルのビジネスモデル【リーンキャンバス実例】小さく始めて持続可能!半径5メートルの「ビジネスモデル」の作り方【第18回】
半径5メートルのビジネスモデルは「リーンキャンバス」を使って「戦略」を中心に考えていきます。「リーンキャンバス」では何をどのくらい詳しく考えていけばいいのか、事例と共に紹介していきます。
プロフィール
プレセアコンサルティング代表取締役パートナーCFO高森厚太郎
目次
半径5メートルのビジネスモデルを「リーンキャンバス」で作る
前回の【第17回】半径5メートルの「ビジネスモデル」のフレームワークとして「ビジネスモデルキャンバス」と「リーンキャンバス」どちらが適したフレームワークなのか解説しました。
ゼロから立ち上げ、一人で完結するビジネスであることが前提の「半径5メートルのビジネス」では、リソースやオペレーションが揃っていないという点で「リーンキャンバス」が向いているとご紹介しました。
前回の【第17回】の事例で取り上げた中堅学習塾チェーンの人事をしているゆみさん。
副業として知育玩具の製造販売をスタートしたいと思っています。
ゆみさんの事例から「リーンキャンバス」を使ってビジネスモデルを考えてみました。
前回紹介した通り、「リーンキャンバス」は番号順に要素を考えていきます。
まずは①課題と②顧客セグメントについて、一緒に考えてみます。
②顧客セグメントを考えるには、自社の商品・サービスの顧客はどんな人々か、共通のニーズ、行動、態度などによって顧客をグループ化していきます。
課題
安心して使える知育玩具が入手しにくい
- 知育玩具は輸入製品が多く、高価格(価格)
- 知育玩具は買える場所が限られている(販売ルート)
- 知育玩具について考えたり用意する時間がない(時間)
顧客セグメント
- 教育意識への関心が高い乳幼児の親
- 親自身も高学歴又は水準の高い教育を受けている
- 教育にお金をかけることができる比較的所得の高い層
- 教育にお金をかけることができる比較的所得の高い層
- 仕事があるなど、教育にかけられる時間が限られている
次に、③UVP(Unique Value Proposition:独自の価値提供)を考えます。
UVP
- 年齢や発達、趣向に応じた知育玩具の企画開発・提案(含む使い方)
- D2Cモデル、all ECで、リーズナブルな知育玩具を、全国で購入可能
- 安心安全な日本製の知育玩具
以上を踏まえ、④~⑨を考えます。
ソリューション
安心安全で、子どもの発育に合った知育玩具を入手でき、使うことができる
チャネル
- 販売 ECサイト
- 広報 SNS (Instagram、Youtube)
収益の流れ
知育玩具販売
コスト構造
- 知育玩具製造費用、発送費用(梱包資材、送料)
- ECサイト運用費用(サービス利用料、写真・バナー制作費用)
- SNSユーザー関連費用(インフルエンサーへの商品提供代)
主要指標
- 知育玩具の販売個数
- SNSアカウントのフォロワー数、コメント数
圧倒的優位性
- 香港・NYで外国製品を使い尽くしたママ(ゆみの姉)がデザイン・監修
- 蓄積した顧客データに基づく知育玩具の企画開発やパーソナライズされた提案
- 日本製品の安心感
といったように各項目を明確化し、より具体的に入れていきます。
「一人で完結する」ビジネスモデルも「リーンキャンバス」で作れる
知育玩具の製造販売は、製造に一部業者が入り、ある程度コストも外部マネジメントもかかるビジネスでした。
次は【一人で完結するビジネス】として身一つでできる私の事例(中小・ベンチャー企業の社外CFO)を基に、リーンキャンバスの作り方を理解しましょう。
最初に私は②の顧客セグメントは「中小・ベンチャー企業経営者」と考えましたが、顧客セグメントが若干広い気がしました。
そこで、もう少し絞り込み、「アーリーステージのベンチャー企業経営者」としました。
では、アーリーステージベンチャー経営者の①課題は何か。
彼らはミドル、レイターステージに上がりたいと成長を志向している。
企業成長のためには、経営資源、カネとヒトが必要。
しかし、カネヒトを調達して、事業に貼り付けたからといって、それがうまく機能するとは限らない。現に、どこも資金繰り、組織マネジメントに悩んでいる。必然的に、事業計画の未達に陥ることになる。
以上から、カネ(資金繰り)とヒト(組織マネジメント)、事業計画実現を、彼らの三大悩み(①課題)と想定しました。
(※アーリー、ミドル、レイタ―とは、ベンチャー企業の成長段階を表し、アーリー→ミドル→レイターと成長段階が進みます)
課題は同時並行で起こってくるもの。三点同時攻略できないといけないが、経営者にとってミドル、レイターステージは未知の領域。落とし穴にはまって然るべき。
その点、ベンチャーCFOしていた自分には、近い経験がある。
多分これは誰でもできるものではないだろう。
こんなことを考え、「アーリーステージベンチャーの三大悩み(資金繰り、組織マネジメント、事業計画実現)を三点同時攻略」というのは、③の独自の価値提供だと考えました。
以上を踏まえ、④ソリューションとして「ベンチャー成長の歪み乗り越えCFOコンサルティング」をパッケージ化しました。
リーンキャンバスの右側の⑤チャネルについては、「人から紹介してもらう」「知り合いが直接照会してくる」という2パターンを想定しました。
下段では、お金の動きを考えます。
⑥収益の流れでは、伴走支援となるから、主に月額固定のサブスクリプションモデル。
⑦コスト構造は、自分一人でやるコンサルティング業なので「なし」。
⑧主要指標として、新規顧客獲得として新規の問い合わせ数と、実際に契約に至った割合(コンバージョン率)、既存顧客に関してはリピート率を考えました。
商品・サービスの特性に応じて、顧客の成果も指標となりえます。私の場合は顧客は経営者ですので、彼らの企業の経営状況の変化も客観的な指標になると考えました。
なぜスモールビジネスにこそビジネスモデルが必要なのか
事例のように、「一人で完結するビジネス」であっても、ビジネスモデルを考えることは重要です。
理由は3つです。
持続可能なビジネスにするための戦略性
一つは、で触れた通り、持続的なビジネスにするために、戦略性が必要であること。
目標達成のための行動指針を明確にする
二つ目は、目標達成における自分自身の行動指針を把握し動けること。
うまくいかない場合の調整、打ち手を素早く検知
三つ目は、万が一うまくいかなかった場合に、「どの要素をどう変えればよいか」を調整する要素を検討しやすいことです。
前回【第17回】に紹介した通り、「リーンキャンバス」のなかでも特に重要なのは戦略の中でも①~③です。
この3点はつねに意識し、明確にしておきます。
残りの④~⑨は、ビジネスのトライ&エラーを繰り返す中で、変わってくるものです。
ビジネスモデルを修正していく際、①~③を明確にしておくことで軸足がブレることを防ぐことができます。
もちろん、①~③についてもビジネスモデルを作成したときの仮説の一つなので、ビジネスの途中で変わる可能性はあります。その場合でも、なんとなく変えてしまうのではなく、「①~③のうち何をどう変えるのか」を意識して、変更を考えましょう。
「ビジネスモデル」が書けない時、競合を「リーンキャンバス」で分析
半径5メートルのビジネスアイデアを考える過程で、【第12回】でGoogle検索で競合サービスのリサーチ方法を紹介しました。競合サービスのリサーチとして収集した情報は、自分のビジネスモデル作成にも役立ちます。
競合と思しきプレイヤーは、あなたがやりたいビジネスをすでに実現し、商品・サービスを提供しているのです。先人に学ばない手はありません。
「一から自分のビジネスモデルを作るのは難しい」という場合は、既存の商品・サービスについて「リーンキャンバス」の要素を埋めていくことから始めてみましょう。
もちろん、ビジネスモデルの各要素について「まねる」だけでは差別化できませんが、「顧客セグメントや着目する課題をずらす」「ソリューションに自分らしさを加える」「既存の商品・サービスのすき間を探す」など、あなたのビジネスモデル作成の参考になる要素があるのではないでしょうか。
自分のやりたいビジネスに近い商品・サービスを「ベンチマーク」に、自分の半径5メートルのビジネスモデルを作成してみましょう。
「ビジネスモデル」を意識することで持続可能なビジネスとなる
今回ご紹介した「リーンキャンバス」は、ゼロから一人で完結する新規ビジネスに必要な「戦略」を1枚の紙にまとめて可視化し、考えることができる点で画期的なものです。
「リーンキャンバス」を使って、自分が構想するビジネスの戦略性を考えたり、「ベンチマーク」の商品・サービスの構成要素を分解したりして、ぜひ自分のビジネスモデル作りにも活かしていきましょう。
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この記事を書いた人
- プレセアコンサルティングの代表取締役パートナーCFO。一般社団法人日本パートナーCFO協会 代表理事。デジタルハリウッド大学院客員教授。東京大学法学部卒業。筑波大学大学院、デジタルハリウッド大学院修了。日本長期信用銀行(法人融資)、グロービス(eラーニング)、GAGA/USEN(邦画製作、動画配信、音楽出版)、Ed-Techベンチャー取締役(コンテンツ、管理)を歴任。著書に「中小・ベンチャー企業CFOの教科書」(中央経済社)がある。
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