Interview
インタビュー

ファティマ・モロッコ代表・大原真樹42歳でモロッコブランドを立ち上げ起業。原動力は「モロッコが好きだから」

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会社を辞め、モロッコ雑貨のブランドを立ち上げ。最初の3年間は苦難が続きましたが、今やセレクトショップには必ずといってもいいほど並ぶ人気ブランドに。自分の“好き”を知れば、思わぬ力が発揮できる!

大原真樹

プロフィール

ファティマモロッコ代表大原真樹

1964年、東京生まれ。アパレル会社のバイヤー、芸能人のスタイリストを経て、2006年、42歳でモロッコ雑貨のオリジナルブランド「ファティマモロッコ」を立ち上げる。モロッコのマラケシュにアトリエをかまえ、オリジナルデザインのモロッコ雑貨を製造・輸入。2013年にはコスメライン「フルールドファティマ」も立ち上げる。NHK『世界はほしいモノにあふれてる』に出演、女性の新しい働き方、仕事の作り方が大きな反響を呼んだ。著書に『女は好きなことを仕事にする』がある。

NHK番組「世界はほしいモノにあふれてる」に出演。モロッコへの偏愛に大きな共感を呼んだ大原真樹さん。
憧れて飛び込んだファッションの世界で20年のキャリアで感じた「自分が働く意味」を考えた末、32歳であっさり脱サラ。そのときは“好きなことをやりたい”ではなく、“好きじゃないことをやりたくない”という気持ちだったと言います。次の仕事は何も決まってなかったし、予定もなかった。ただただ、嫌なことをしたくない一心で会社を辞めたら、モロッコ雑貨のブランドを立ち上げることに。
今やセレクトショップには必ずといってもいいほど並ぶ、ファティマモロッコの代表・大原真樹さんにお話を伺いました。

「好きじゃないことをやらない」という選択

会社を辞めること自体は、全然怖くありませんでした。それより、嫌なこと、自分が納得できない仕事をすることで“自分自身が腐っていく”ことの方が怖かった。まぁ、わがままなんですよね、協調性ないですし。

嫌なことというのは、例えば上司の言うことや意見に納得していないのに、合わせなければいけないこと。バイヤーの仕事で、自分が好きではないものを買い付けなければならないことや、自分がいいとは思えないものを買わなければいけないことが、とてもイヤでした。だって、買い付けてきたものに関しては、自分で責任を持ちたいですよね、自分が買ってきたものだから。

大原真樹

胸を張って、「これが私です」と言えない仕事をしなければいけないのが苦しくなってしまった。それで会社を辞めたんです。だから、42歳で『ファティマ・モロッコ』を始めるときには、絶対に自分の思いを曲げないと決めていました。100人中99人が「これ嫌い」と言ったとしても、自分が好きだと思ったら買うという信念、それは今もずっと持っています。

“これが正解”っていうことはないんですよね。何が正しくて、何が正しくないかということではなく、ただ自分の思いに正直なことが、一番自分が楽しく生きていける道なのかな、と思ってやり続けています。

誰も責任を取れないから自分を信じる力は必要

その代わり自己責任だから、自分で責任を取らなければいけない。それはどんなシチュエーションにも通じることですよね。でも、それさえ頭に入れておけば、むやみに人に合わせる必要はないし、逆に人に合わせたところで、人は責任とってくれないわけですし。自分の直感を信じて、好きだと思う気持ちを信じてやっていくことが、巡り巡って最後には自分に戻ってくる。だから、自分を信じることが、自分を幸せにする道だと思います。

とは言え、お店を始めた当初は、「今これが売れているから、うちでもやってみようかな」なんてよこしまな気持ちを持ったことはありました。そういう心の揺れはもちろんあります。でも、最終的には必ず後悔が残ってしまうので、なるべく周りは気にしないことにしています。

お金のためにやるのか、好きだからやるのか

大原真樹

お店を始めて、色々と順調に回りだすまでに3年ぐらいかかりました。最初の1年ほどはスタイリストと二足のわらじでやっていたので、スタイリストで得たお金を全部つぎ込むような状態。その3年間はいつもお金がなくて、銀行の残高5千円なんていうこともざらにありました。

もちろん売り上げがなければ家賃も払えないし、物も仕入れられない。資金繰りの面では大変でしたが、じゃあそのために何でもやるのかって言ったら、それはしなかった。身の丈に合ったことでやる、無理はしない。

例えば売上が欲しいのなら、何だって売ればいいという話になるわけです。でも、好きなことをしたいのか、お金が欲しいのかと考えたときに、私は好きことでお金を稼ぎたいと思った。人のモノマネだったり、好きではないけれど流行ってるからといって、それを売ってお金を稼ぐことができても、虚しさしか残らない。だから“自分にとっての優先順位は何か”を常に考えます。自分が好きなことを貫いて、それが結果的にお金になってくれるのが一番幸せな道なので、そこはもうブレないですね。

本当に好きじゃなければ、伝わらない

やっぱり好きなこと、やりたいことが最優先されないと、自分の思いは人に伝わらないと思います。それが物であれ人であれ、自分の好きなものとか好きな人、好きな国、私の場合だったらモロッコですが、そのときの自分が本当に好きじゃないと、その思いは誰にも伝わらないと思うんです。

誰かのことを好きになったときには、自分の気持ちが一番大切ですよね。この恋愛のときの、“他の人になんて思われようと、誰に反対されようと、好きなものは好きだ”という気持ちに似ているような気がします。「何でモロッコが好きなの?フランスじゃないの?」と言われても、説明つかないですよね。

言葉にはできないけれど、この“好き”という気持ちは誰もが持っていると思います。ただ、それに気が付かないでいる。このとてつもないエネルギーを秘めた気持ちに気付けないなんてもったいないと思いますが、自分のことってなかなか分からないものですよね。私も海外旅行が好きでいろんな国を旅して、好きだなと思った国は何度か行ったりしましたが、モロッコに出会ったときに、この国にはちょっと違う。

「仕事にしよう!」と思ったのが40歳のとき。そう考えると、私自身、情熱を傾けられる“好き”というものに気付くまで、40年間さまよい続けていたわけです。だから本当に好きなことに気付くのに、年齢は関係ないんだと思います。60歳で気が付いたらそこがスタートだと。

好きなものが分かって、これをやりたいという目標は見つかった。でも「本当にそれができるのか」という不安な気持ちはありましたし、周りの人に「スタイリストの仕事がうまくいっているのに、なんでわざわざそんな仕事をするの?」とも言われました。でも自分が決めたことだから、その時はもう迷わず、突っ走っていましたが……。もちろん失敗のリスクはあると思っていましたが、自分の手元にある資金の範囲でやりくりすると決めていたので、失敗してもゼロになるだけ。ゼロになったらもう1回やり直せばいいと割り切っていたので、それほど失敗に対する恐怖心はありませんでした。

14年間続けた、モロッコ通い100回超えの原動力

このコロナ禍までは1年に6回、2ヶ月に1回ペースのモロッコ渡航を14年間続けていて、4年前に100回超えを果たしました。

大原真樹

「モロッコなんて遠いから、お金も時間もかかって大変でしょ」とよく言われますが、最初の頃は一番安く行けるミラノ経由のエコノミー席で、一番安い時期を選んで、往復12、3万円で行っていました。通い出したのが40歳でしたが、行くときはワクワク、ルンルン気分で、帰りは疲れ切って爆睡して帰ってくるので、苦に思ったことありませんでした。

それに、自分が行って、目で見て、触って、買って、作って、という自分の感覚だけが頼りだったので、行くことに意義があったんですよね。モロッコのマラケシュという街で買い付けをしたときも、好きなものを買ってくるだけじゃなくて、“どんなところで、どんな顔をしながら、どんな手で作っているのか”ということが気になって仕方がなかった。だから、気になる商品が作られている街を全部見て歩いたんですよね、モロッコの国内中を。なんでこれがここで作られているのかというそのルーツも含めて、そのもののすべてが知りたかったんです。

もちろんさっきも言ったように、人任せでやる仕事には興味がなかったので、やる以上は自分が動かないといけないという気持ちもあります。人に任せることができたら、もっとビジネスもうまくいくのかもしれないのですが、私はそれができない“たち”なので、必ず自分ですべてやっていましたし、これからも自分でやっていくと思います。自分のブランドですから。

コロナ禍で再確認した自分の芯

ファティマモロッコのアイテムは、主にセレクトショップやアパレルショップで販売しているので、緊急事態宣言でのクライアントの休業の影響は少なくありません。さらに、以前取材、放送された『世界はほしいモノにあふれてる』(NHK総合)の本が昨年の4月に出版されて、その出版イベントやそれに付随する百貨店のイベントなどがいくつか決まっていましたが、それらがすべてキャンセル。イベント用に作ったポップアップや準備していた雑貨などの行き先がなくなってしまうなど、いろいろと大変でした。

でもあっという間に1年が経って、なんとか続いています。

昨年、コロナが騒がれ始めた頃は、「日本は、世界はどうなってしまうんだろう」とか、「もうこのままモロッコに行けなくなったらどうしよう」など、得体の知れない恐怖がありました。きっと皆さんもそうだったと思います。でもだんだんと情報が整理されてくると、「こういうものなんだ」みたいな、慣れのような心境になり、ジタバタせず、今をやり過ごすことができるようになってきました。

キャッシュフローや買い付けのことなど、日々のことで悩みはつきませんが、私の中でファティマモロッコを続けるということに関しては、まったく揺るぎはありませんでした。だって続けるに決まってるんですから。

このコロナ禍で断捨離がブームになりましたよね。私もご多分にもれず、家の中を掃除しまくって断捨離しました。それは物だけにとどまらず、気持ちの断捨離だったり、人間関係の断捨離だったり……。いろんなことを整理して、自分が身軽になったときに、初めて自分の芯が見えてきますが、私の場合、「やっぱりモロッコなんだ」ということでした。この自分の気持ちが再確認できたのは、大きな収穫だったと思います。そしてまた、その気持ちに気付いてしまったからこそ、モロッコに行けない日々が本当に辛くて、先日、1年ぶりに強行突破で2週間行ってきました。丸々1年行けなかったので、現地に降り立ったときには感極まって泣いてしまいました。

そういう意味では、このコロナの不安や、先が見通せない不透明さ、混乱の中で、最後に残ったものが何かを知るチャンスでもあるわけです。例えば今までは惰性で遊んだり、食事に行っていたお友達がいたと思います。だけど、今のように誰とも会えなくなったときに、「会いたい!」と思う人が本当の友達、本当に好きな人なんだと気付けるのではないかと。そうやって自分の周囲を整理して、自分を身軽にしたときに、一番大切なものが見えてくるんだと思います。私の場合は、明確に見えてきました。

今までは本当の自分の気持ちに気付かないふりをして、周りに合わせていたところがあると思います。でも、これからは自分の好きなことをして、好きな人と会うというように、生活をシンプルにしていっていいんだと思います。憎きコロナですが、それで自分の余分な部分が削ぎ落とせたわけだから、この機会を生かした自分のブラッシュアップを続けたいですよね。せっかくダイエットできたのに、リバウンドはしたくないですから。

自分の“好き”を知れば、思わぬ力が発揮できる

大原真樹

好きなことって、本当に長続きするんですよね。無理に長続きさせようとすると辛くなるけれど、心の底から続けたいと思っていると自然と長続きにつながる。飽きることなく、ずっと大事にできることだけが残って『ファティマ・モロッコ』になったから、売上が減ったとしても、私にとってかけがえのない宝物です。

お金のためとか、自分のステータスのためだけに頑張り続けるのは大変ですよね。もちろん、お金は大切です。お金がなければ何もできないから。でもお金が先に立ったら続かないと思います。自分の本当に好きなことに気付き、そこから出発すれば、あとは頭を使って考えていけばいいこと。自分の好きなことをどうやって伝えていくか、人にどうやって知ってもらうか、そういうことは“好き”という思いや力が大きければ大きいほど、周りの人に伝播して、新しいアイディアや出会いがどんどんつながっていくはずだから。

好きなことだから必死になれるんです。好きなことだから情熱を傾けられるんです。だからこそ、自分の“好き”を、もっと真剣に見つけてほしいと思います。

取材/I am 編集部
写真/MARU・長谷川
文/岡田マキ

この記事を書いた人

岡田 マキ
岡田 マキライティング
ノリで音大を受験、進学して以来、「迷ったら面白い方へ」をモットーに、専門性を持たない行き当たりばったりのライターとして活動。強み:人の行動や言動の分析と対応。とくに世間から奇人と呼ばれる人が好物。弱み:気が乗らないと動けない、動かない。

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