人生を変えるI amな本ChatGPTが使いこなせなくても「人から必要とされる人」になる2つの方法
ChatGPT に象徴されるように、いよいよ本格的な AI 時代の到来が予感されます。はたして、われわれの大半が AI に仕事を奪われるのでしょうか。韓国の作家イ・ジソンさんが、AI に取って代わられない人間だけが持てる能力とはなにか、そしてその能力を身に付ける方法を提言。
目次
AI が持っていない能力「共感能力」「創造力」を磨く
今ある職業の多くが人工知能 (AI)に置き換わる―。何年も前から言われてきたことが、現実味を帯び始めているように感じます。それを受けて、AI 脅威論があちこちで議論されています。
はたしてわれわれは、AI の本格実用化の時代に、どう生き残っていけばいのか? それについて大きな示唆を与えてくれるのが、韓国の作家イ・ジソンさん。
今月邦訳された著書 『AI 時代に 「必要とされる人」になる 仕事を奪われない 8 つの思考法』(黒河星子訳/大和書房)で、イさんは、想像以上に AI が社会に浸透している実情を描き、対応策を論じています。
それは、「プログラミングを学びましょう」といった単純なものではありません。身につけるべきは AI 産業に追従するようなスキルではなく、むしろ思考法。そして、ライフスタイルの大きな変革です。
それはどのようなものでしょうか?
デジタルデトックスで生身の経験を身に付ける
アップル創業者で、iPhone や iPad を生み出したスティーブ・ジョブズの有名な逸話として、自分の子どもにはそうした IT 機器を使わせなかったというものがあります。
これは、ジョブズに限った話ではなく、ビル・ゲイツやクリス・アンダーソンといったシリコンバレーの頂点に立つ名士たちに、しばしばみられるものです。また、ご当地の私学 「The Nueva School」には IT 機器がなく、昔ながらの形式で教育がなされています。そこで重点的に育まれるのは「共感能力と創造的発想力」だそうです。
ここで言う共感能力とは、「他人の考えや感情を他人の立場で感じ、理解し、それを行動に移す能力」、創造的発想力は、「これまでなかったことを新たに創り出したり、既存のものに革新を起こしたりする能力」の意味です。どちらも AI には真似のできない、人間だけが持つことができる能力です。
この二つの用語は本書の随所に登場し、まさに最重要のキーワード。 IT 長者の子息が通うシリコンバレーの私学に入学せずとも、この能力を体得するヒントがちりばめられています。
その1つがデジタルデトックスの習慣。少し長いですが引用してみましょう。
1日のうちに、2、3 時間だけでもスマートフォンを切り、読書をして思索する時間を持ってほしい。週に一度だけでも誰かと本気で話し合って、交流する時間を持ってほしい。いままで探してこなかっただけで、あなたが暮らす地域社会には、人と会って交流する集まりがたくさんあることに気づくはずである。週末にはスマートフォンを引き出しの中に入れておき、美術館やコンサートホール、博物館に行ったり、たまには自然の中に行ったりしてみよう。(本書 38p より)
こうした、一昔前までは普通にしていたはずの事柄と、すっかり疎遠になっているのが今のわれわれです。本来の「人間らしい」といえそうな活動こそが、AI に置き換えられない存在になるための処方箋だと、イさんは力説します。
天才と「対話」する習慣を身に付ける
もう1つ、イさんがすすめるのは、「自分の目指す天才を決める」というもの。
あなたが模倣をしたい天才をひとり決めよう。その天才の肖像画を寝室に飾ってみよう。毎日、心の中でその天才と対話をしよう。その人物に関する本を探して読んでみよう。天才が自分の創造的発想力を育てるために読んだ本も、探して読もう。(本書 56p より)
これには、気づかないうちに共感能力と創造的発想力を発達させる効果があるそうです。根拠として挙げるのが、ビル・ゲイツとスティーブ・ジョブズの例。それぞれ、レオナルド・ダヴィンチとアインシュタインという歴史に残る天才からインスピレーションを受けたそうです。ビル・ゲイツは 25 歳のときに、ダヴィンチの 「勉強法」を自分に適用し、執務室にダヴィンチの肖像画をかけ、日に何百回となく頭の中で対話しました。同じくジョブズも、寝室の壁にかかったアインシュタインの肖像画と生活をともにしました。
ダヴィンチとアインシュタイン―時代も隔たれば、天才性を発揮した分野も異なる二人ですが、思索を重視するなど、勉強法については類似する点があります。そこに、共感能力と創造的発想力を発達させるカギがありそうです。ともあれ、これはと思う天才を探し、「対話」を始めてみましょう。
目の前の課題に取り組むリトル E とリトル C を身に付ける
ここまで読んできて、かなりの難題を押し付けられているように感じたかもしれませんね。
ですが、何も最初から古今の天才を目指す必要はないのです。イさんは、共感能力についてビッグ E (Big empathy ability)、ミドル E (Middle empathy ability)、リトル E (Little empathy ability)と分けています。
ビッグ E | 人類史に残るような能力 |
ミドル E | 社会に役立つような能力 |
リトル E | 日常生活に役立 |
ビッグ E は、人類史に残るようなレベルの能力で、国際赤十字を創設したアンリ・デュナンや近代的な看護学 ・衛生学の確立したナイチンゲールといった歴史上の人物がもつ卓越した能力を指します。ミドル E はそれに次ぐレベルで、リトル E はわれわれが日常生活のなかで発揮できるレベルとなります。
同じように、創造的発想力についても、ビッグ C (Big creative imagination)、ミドル C (Middle
creative imagination)、リトル C(Little creative imagination)と分類されています。
イさんは、リトル E とリトル C のレベルで自身が体験したエピソードを記しています。その人は、イさんの自宅を建てた知人の建築家。自宅は木造でしたが、浴室の漏水問題が悩みの種でした。ほかの建築家は 「防水工事を徹底するしかない」と結論するなか、その建築家は別のアプローチをとりました。それは、木が傷みやすい箇所に鉄板を打ち付け、防水効果にすぐれた水族館用の防水ペイントを塗布するという、シンプルなものでした。
イさんはこれを、リトル E を通じてリトル C を発揮した代表的な事例だとしています。確かに、そのインパクトは施主を感心させる程度のものでしょう。しかし、AI からは決して生まれてこないものなのです。イさんは読者に向け、「共感能力と創造的発想力を備えることができなかった人々は、今後どうなるのだろう?」と問いかけます。
AI 時代の到来に向けて、あなたならどうしますか? プログラミングを学ぶのも意味はありますが、別の視点にも目を向けるべきだと思わせる 1 冊です。
『仕事を奪われない8つの思考法 AI時代に「必要とされる人」になる』
生産性より共感、哲学、体験を重視せよ!
AI時代に人間が人間らしく生きるには、生産性より「共感」「哲学」「体験」だ!
韓国を代表する知性の新時代サバイブ術。
著:イ・ジソン
訳:黒川星子
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この記事を書いた人
- 都内出版社などでの勤務を経て、北海道の老舗翻訳会社で15年間役員を務める。次期社長になるのが嫌だったのと、寒い土地が苦手で、スピンオフしてフリーランスライターに転向。最近は写真撮影に目覚め、そちらの道も模索する日々を送る。