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インタビュー

D2Cビジネスは自分が作りたいモノと人が欲しいモノをつなぐ「一瞬の気づき」 中川ケイジインタビュー第2話

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ニッチからブームにまで押し上げたふんどしブランド「sharefun®」が開店休業状態に追い込まれました。天国と地獄を味わった10年間をもとに、D2Cに必要なナレッジをお伝えします。

中川ケイジ

プロフィール

sharefun®(しゃれふん)代表中川ケイジ

1976年生まれ。一般社団法人日本ふんどし協会会長。大学卒業後、美容師を経て、親族が経営する営業会社に転職するも成績が悪く思い悩みうつ病に。その時たまたま出会った「ふんどし」の快適さに感動。2011年ふんどしブランド『sharefun®(しゃれふん)』をスタートさせ有限会社プラスチャーミングを設立。現在は茨城県水戸市に移住し、子育ての時間も大切にしながら新たな働き方を実践中。著書に『人生はふんどし1枚で変えられる』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)『夜だけ「ふんどし」温活法』(大和書房)がある。

ニッチからブームにまで押し上げたふんどしブランド「sharefun®」が開店休業状態に追い込まれました。運営するプラスチャーミング社代表の中川ケイジさんは逆境の中で、「D2C(消費者直接取引)を通じて自分がやりたかったことは何か」をじっくりと考え、それを形にするためにリブランディングをし、新たな発信方法を模索し始めます。
ビジネスがスランプに陥ったとき、どう考え、どう行動するか。天国と地獄を味わった10年間をもとに、D2Cで必要なナレッジを伺いました。
全2話、前編はこちらからどうぞ。

リブライディングで「なぜ」を明確にしたワケ

ふんどしブームが過ぎ去り、開店休業状態になったことによってたっぷり時間ができ、原点に立ち戻ることができた僕は、

  • なぜ自分でなければいけないのか
  • なぜ自分がこれをやりたいと思ったのか
  • 自分がやるからこその商品作りとはなにか

をじっくりと考え、「自分をいたわる時間」を提案することが、ふんどしをきちんと知ってもらうために必要だと気付きました。そのために、「しゃれふん」を大きくリブランディングすることにしました。

まず、肌や体調のトラブルなどでふんどしを本当に必要としている人に届けるために、使用する素材はオーガニックコットンのみ、縫い目は肌に触れないようにするなど、製品づくりを根本から見直しました。それに伴って型や柄のパターンは激減しましたが、誰にでも安心して身につけてもらえるということを、自信を持って言えるようになったことで、他のメーカー品と明確に差別化できるようになりました。

中川ケイジ

また、価格についても「原価を50〜55%に設定する」と公表して、生地代、縫製代、配送資材、手数料などを含めた総額の55%に収まるように設定しました。

リブランディング前は、高級路線で百貨店にも置いてもらうことを想定して、1枚5000円という価格設定にしていましたが、これを3500円に変更したのです。

そして、プロの人にも入ってもらい、僕にとっては大きな金額をかけて、Webサイトをリニューアルしました。

こうして、「自分をいたわる時間の提案」をコンセプトに、素材や縫製方法、価格設定、しゃれふんに関わる人など、すべてを公開。堂々と「うちはこういうふうにやってます」と言えるようなリブランディングを行ないました。

価格の見直しは効果がありました。以前は1枚しか購入しなかった人が、3枚セットで買ってくれたり、ギフトに使う人が増えてきたのです。やはり、値下げしたことが大きな要因だとは思いますが、「なぜこの価格設定なのか」という説明がきちんとされていたことが大事だったのだと思います。

規模にもよりますが、「しゃれふん」のように少数のチームでやっているところは、「正直であること」「誠実であること」が一番のブランディング。ですから、それまで5000円で買ってくれていた人たちには、「こういう理由で価格変更をしました」と添えて、オーガニックコットンのマスクを送るということもしました。

「誰もふんどしを求めてない」 この一言がV字回復のきっかけになったワケ

「しゃれふん」のリニューアルはしたものの、やはり売り上げ自体は停滞。10年間ふんどし一本で、プロモーションもそれなりにやってきたのに、思うようにふんどしが広がらないことに疑問を持ち始めました。

僕自身、パンツをすべて捨ててふんどし生活をしていたことで、ちょっと感覚がマヒしていたのかもしれませんが、「みんなふんどしを求めている」と思い込んでいたのです。

中川ケイジ

ところが今年、友人に「世の中の人はふんどしを求めてないよ」と言われ、そのとき初めて周囲の人はふんどしのよさを知らないし、ふんどしをしたいと思っていないことに気付きました。きっと今までにも言われてきたのでしょうが、聞いていなかったというか、「そんなわけない」とその言葉を打ち消してきたんでしょう。

その言葉を素直に聞けたことで、「今までふんどしにこだわりすぎていたのかもしれない」と思うことができました。要はお風呂上がりから翌朝まで、締め付けのない状態でいることが重要で、その感覚が得られるなら形にこだわらなくてもいいのではないかと。

実際、僕自身がサウナにハマっているのですが、サウナで“ととのった”はずなのに、みんなボクサーパンツにジーパンをはいて帰るのを見て、「もったいない」と思っていました。せっかく血流がよくなっているときに、再び締め付け、ムレやすくなってしまうのですから。

サウナ後にはふんどしが一番ですが、初めての人にハードルが高いのは確かです。さらに、僕自身もふんどしを締めた上に、市販のステテコやハーフパンツをはくのですが、気に入った丈のものがないので、「1枚で締め付けのないパンツとズボンの2役を果たすリラックスウェアがほしい」と思っていたのです。

リブランディングによって、「締め付けない下着の心地よさを知って、心身ともに健康になってもらいたい」ということが、僕の本当にやりたいことだと再認識できたので、「ふんどし一本」というこだわりを捨てて、新商品の開発に舵を切りました。

そうやって今年の7月にリリースしたのが、ノーパンではけるショートパンツ、「ととのうパンツ」です。これがサウナ人気に伴って支持され、業績的にもととのってきているところです。

必ずしもSNSでバズらせるだけが成功ではないワケ

「しゃれふん」の場合、立ち上げてすぐにメディアで取り上げられ、上々のスタートを切りましたが、その後10年、不安定な状況が続きました。D2Cを考えている人の多くは、「バズらせれば成功」と思われているかもしれませんが、そもそもSNSでバズらせることなんてほとんどできないし、バズったとしても一過性で、長続きしなければ成功とは言えません。

中川ケイジ

もちろんブランドを知ってもらうことは大切なので、ドカンと大きく花火を打ち上げることは意味があると思います。「しゃれふん」で言えば、テレビに出たり、「ふんどしアワード」を発表することがそれに当たります。

それと同時に、僕は毎日Facebookやnoteで、「こういうクレームがあったので、こう対処しました」や、「こんな補助金に応募しました」など、「しゃれふんの中の人」が普段どう動き、何を考えているかを投稿しています。それはPVには表れなくても、きっと何かのきっかけで過去までさかのぼってくれる人たちが現われ、その人たちから輪が広がっていくはずだと考えているからです。

また、今までD2CにはTwitterやInstagramは必要不可欠だと思ってきましたが、僕自身、反応が気になって一喜一憂してしまうので、それらを介さずに発信するにはどうしたらいいのかを模索しています。

そのひとつがポップアップストアでの“手売り”です。一人ひとりに丁寧に商品説明をしながら、目の前のお客さんがどういう反応をするかを見ることが、僕の本当にやりたかったことでしたし、納得して買って、品物に満足してくれた人は、必ず周りの人に広めてくれるということも分りました。この経験を踏まえ、来年からネットでは買えない商品を、全国を回りながら手売りできないかと考えています。

ネガティブな思いに向き合うことで、本当にやりたいことが見つかる

もし僕のようにSNSにこだわりすぎてしんどさを感じている人がいたら、他の方法をトライしてみてもいいと思います。僕がウツと診断されて、「これからどうやって生きていこうか」と考えたときに、まずしたことは「やりたくないこと」をノートに書き出すことでした。

「スーツを着たくない」「営業はしたくない」「電車に乗りたくない」……と、やりたくないことを書き連ねることで、逆にやりたいことが絞り込めてきたのです。

他の人にとっていい方法であっても、それが唯一の方法ではありません。ネガティブな思いを書き出して、自分に向いている方法、楽しみながらできる方法をあぶり出し、試していくことも必要だと、僕は思います。

全2話、前編はこちらからどうぞ。

取材/I am 編集部
写真/本人提供
文/岡田マキ

この記事を書いた人

岡田 マキ
岡田 マキライティング
ノリで音大を受験、進学して以来、「迷ったら面白い方へ」をモットーに、専門性を持たない行き当たりばったりのライターとして活動。強み:人の行動や言動の分析と対応。とくに世間から奇人と呼ばれる人が好物。弱み:気が乗らないと動けない、動かない。

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