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高森厚太郎の半径5メートルのビジネスモデル#09 どうせ副業をするなら「目先の利益」より「時間をかけれるイノベーション」を!

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前回、企業でも個人でも、これからのビジネスに必要なイノベーションについてご紹介しました。今回はイノベーションにおける個人VS企業、どちらが有利なのかについてご紹介します。

プロフィール

プレセアコンサルティング代表取締役パートナーCFO高森厚太郎

東京大学法学部卒業。デジタルハリウッド大学院客員教授。プレセアコンサルティングの代表取締役パートナーCFO。一般社団法人日本パートナーCFO協会 代表理事。

「個人」か「企業」か?今やお客さんの購買基準はそこにない

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実は個人の方がビジネスアイデアのイノベーションを持続しやすいということは、前回でお伝えしました。

とは言っても、会社の一事業と個人とではやっぱり違いはあるのではないか?と思いますよね。

そもそも、商品やサービスを買うお客さんにとっては、提供するのが個人か会社かは関係ありません。

一番の違いはリソースの多寡、でしょう。当然企業の方がヒト・モノ・カネ・情報ノウハウといった経営資源(リソース)を多く有していることが多いですが、だからと言って一概に有利というわけではありません。

大企業のイノベーションには落とし穴

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実際に私も10年以上前に、ある上場企業の子会社で新規事業の管理部長をしていた時に新規事業立ち上げの難しさを経験しました。

その会社が手掛ける新規事業は、とある商品の流通でイノベーションを起こすもので、業界の大きな課題に一つの答えを出す画期的なアイデアでした。
それもあって業界の名だたる会社が出資をし、更に各社の取締役、マネージャークラスの人が12、3名出向して始まりました。

みなさんキャリアある人々なので、「なるほどな」といういいアイデアも出るし、事業を前進させることができるすごい人脈もある。ただ、「船頭多くして船山に上る」状態で、皆言うことはバラバラだし、色々な思惑もあり、人件費やシステム開発などのコストがかさみました。
その結果、サービスをリリースした時点で1年が経過し、1億円以上を投入してしまっていました。

新規事業は作って世にリリースしたら終わりではありません。
そこから事業として軌道に乗せるには、ユーザーを獲得するための広告宣伝などの時間もお金も必要です。にもかかわらず、社会環境の変化もあり、出資者は追加の資金投入に腰が引き気味になってしまっていました。

私は管理部長として事業の進捗を管理する立場だったので、現実的な計画に引き直し、ベスト・自然体・ワーストのシナリオ考えるとこうなりますということを、サービスリリースを数か月後に控えた定例の幹部会議で進言しました。
みな「まずい」と気づいてもらったようで、そこから手分けして固定費の削減やスポンサー探しに動き出しました。その後、紆余曲折をありながらも、無事サービスリリース、親会社を変える形にして最終的に会社、事業は存続できるようにはなりました。

ワーストケースはなんとか回避できたものの、「大きな資本、人材を抱える大企業で新規事業をやるのは小回り利かず、逆に難しいもの」と実感した出来事でした。

個人の「小回り力」は企業をも上回る?

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現在、私は独立起業して、新規事業となる社外CFOサービスを軸にやっています。

過去の企業内で新規事業をした時と大きく異なるのは、今取り組んでいる新規事業は個人でやっているビジネスなので、自分のリソース(主にお金と時間)を何にどう使うかは自由、事業の戦略、組織体制も自由という点です。
誰にお伺いを立てる必要もなく効率的にリソースを使えて、十分にクライアントのニーズを満たせています。つくづく、ビジネスはリソースあればいい世界ではないと思います。

どんなにいいビジネスアイデアであっても、結局は小回りが利かなかったり、市場規模が小さい(つまり、見込めるリターンが少ない)と判断すれば、大企業であっても(だからこそ)参入できない、しない、ということもあります。

企業にも個人にもイノベーションには「時間」が必要

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デジタルカメラのように、最初はどんなに未熟(プリミティブ)であっても、技術を改善していくことで、ある時市場のニーズを越えて破壊的イノベーションを起こすことができます。
そのカギとなるのが、「時間」です。

ビジネスアイデアを考える時には、まずそれが(持続的、破壊的を問わず)イノベーションのタネであるかどうかを見極めることが重要です。
そのタネというのは、カメラの場合はデジタル化(DX化)でしたが、同様にDX化、デジタル化というのは一つの流れなので、その延長線上でのイノベーションは十分にありうる話です。

そして、タネ以上に大事なのは「続けること」。
ビジネスアイデアを見極めたら、改善をとにかく続けることが「イノベーション」への突破口となります。

デジタルカメラの事例でカシオが何年もかけてお金を投資して開発をしたのは、実は合理的に考えたら出来ないことをあえてしたという話です。それができたのは同社らしさの表れとも。
とすると、持続的にイノベーションに取り組んでいくのは、その実、フルに裁量ある個人の方がやりやすいと言えます。

 個人が研究を続けた成果として破壊的イノベーションを起こした、近年もっともインパクトあった事例が、新型コロナウイルスで実用化された「mRNAワクチン」の開発の立て役者のハンガリー人女性科学者カリコー・カタリン博士の事例です。

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彼女は祖国ハンガリーの大学で生化学を学び、研究を始めたものの、30歳の頃にベルリンの壁崩壊の余波を受け大学の研究開発費も止まってしまいました。
それでも研究を続けたかった彼女は、1985年にスポンサーを見つけてアメリカへ移住。
共同研究者を見つけたり、研究のための実験器具のためにスポンサー活動をしてお金を集めたりして研究を続け、後にドイツのビオンテック社でmRNAの研究を続け、その技術がビオンテック社/ファイザー社が共同開発した新型コロナウイルスワクチンにも利用されたのです。

このように一人の研究者が国や所属する機関を越えて、数十年にわたり研究を続けてきたことが、人類を救った破壊的イノベーションにつながったのです。

「タネ」として可能性はあったけれど、実用化出来るものとは認識されていなかったmRNA。
個人だったからこそ、約30年間という長い期間追うことができたのです。
これこそ、イノベーションにはたゆまぬ改善と時間が必要だという、分かりやすい例です。

個人だからこそ、時間を味方にイノベーションを起こせる

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カリコー・カタリン博士とmRNAワクチンの話は、世界的に有名な事例ですが、決して他人事ではありません。「個人が研究を続けたことが真のイノベーションにつながった」ということを、ぜひ覚えておいてください。

私たちが考える「半径5メートルのビジネスモデル」は、本業で自分の生活が担保されているからこそ、目先の利益にこだわりすぎずに続けていくことができます。
つまり、個人だからこそ、時間を味方につけて長期的に取り組めて、結果としてイノベーションを起こす可能性があるとも言えるのです。

個人だからこそ、自分が信じる、時間はかかるイノベーションにも挑戦できる。
これは本業、副業に関わらず覚えておいていただきたいメッセージです。
イノベーションのタネを見つけたら、ぜひ「時間」をかけて取り組み、あなただけのイノベーションに挑戦していきましょう。

次回は、「半径5メートルのビジネス」のための「アイデアが突然ひらめく」ためにすべきことについて、触れます。

この記事を書いた人

高森厚太郎
高森厚太郎プレセアコンサルティング株式会社 代表取締役パートナーCFO
プレセアコンサルティングの代表取締役パートナーCFO。一般社団法人日本パートナーCFO協会 代表理事。デジタルハリウッド大学院客員教授。東京大学法学部卒業。筑波大学大学院、デジタルハリウッド大学院修了。日本長期信用銀行(法人融資)、グロービス(eラーニング)、GAGA/USEN(邦画製作、動画配信、音楽出版)、Ed-Techベンチャー取締役(コンテンツ、管理)を歴任。著書に「中小・ベンチャー企業CFOの教科書」(中央経済社)がある。

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