Interview
インタビュー

東京大学大学院で就職ではなく起業を選んだロシアの留学生。ノーコードを広めたい!

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株式会社LikePayのCEO・イーゴリー・ヴォロシオフさんは、プログラミングの常識を覆したコードを書かずにコーディングできるNoCodeに注目しています。NoCodeがもたらす未来のビジネス像について伺いました。

イーゴリ

プロフィール

ロシア人起業家イーゴリー・ヴォロシオフ

起業家。株式会社LikePayのCEO。26歳・ロシア生まれ。モスクワ大学卒業後、東京大学大学院へ。修士2年で起業、LikePayを立ち上げる。現在はNoCodeサービス「webflow」の日本語版サービスの立ち上げとアカデミーを運営。また、NoCodeサービスの開発も行っている。

プログラミングの常識を覆した「コードを書かずにコーディングできる」NoCode。今後はこのNoCodeが主流になると言われている。日本で最もNoCodeに詳しいロシア人・イーゴリ・ヴォロシオフさん。モスクワ大学から東京大学大学院に進学。大学院在学中に起業。現在NoCodeの中でもクリエイティビティの高いwebサイト構築サービスwebflowを日本語で教えたり、便利なプラグイン(会員同士チャットとWebflow日本語化サービスなど)を立ち上げている。これからNoCodeがもたらす未来のビジネス像について伺いました。
全2話、前編はこちらからどうぞ。

ビジネスに欠かせないWeb開発の3つの壁

これまでのウェブサイトの開発は、

  1. ディレクターがクライアントから聞いてきた要望を
  2. デザイナーがデザインに起こして
  3. エンジニアが設計する

という流れで行われていましたが、今、日本でもエンジニアが慢性的に不足していることが問題になっています。

プログラミングは誰でもできるものではありません。わたしは日本語を会得するのに数年かかりましたが、プログラミング言語を学ぶのは、同じぐらいの時間がかかります。そこには合理的な考え方が必要だったり、コードを読んでどんな形になるのか想像する力が必要だったりする上に、優秀なエンジニアになるにはさらに長い年月とたゆまぬ努力が必要です。

スタートアップ企業は、数千万円を資金調達しても90%が倒産

イーゴリー・ヴォロシオフ
写真/shutterstock

一方、スタートアップ企業は数千万円、数億円と資金調達してエンジニアを雇い、プログラムを開発しますが、その90%以上は倒産してしまうといわれています。

非常に新しいことをやっているのでそれが本当に必要かどうかは作ってみないとわからなかったり、仮に必要なものだったとしても結局うまく作れなかったり思ったほどに売れなかったり、と様々な問題があるからです。失敗すればそのコストは相当なものとなります。

スピード重視のスタートアップなのに、開発に時間がかかる

さらに問題はその開発にかかる時間です。アイデアはできるだけ早く形にするのが理想ですが、初期段階のスタートアップの人数は通常2〜3人。それぞれのスキルや経験、開発内容にもよりますが、全力で開発して早くて数か月、副業レベルで開発していたら、それこそ年単位でかかってしまいます。

加えて、スタートアップのアイデアを思いつくのはその業界で働いている人、つまり非エンジニアであることが多いため、アイデアを形にするまでに非常に工数がかかります。たとえば毎日介護の仕事についている人がこういうサービスがあったらいいなと思ったとき、その要求をエンジニアがきちんと理解するプロセスが必要になり、どうしても時間がかかってしまうのです。

NoCodeなら、モデルさんでも2カ月でマッチングアプリ開発

イーゴリー・ヴォロシオフ
写真/shutterstock

そこで今、注目を集めているのが、NoCode。NoCodeとは、いろいろなアイデアやソフトウェア、アプリやウェブサイトなどのシステムを、ソースコード(Code)を書かず(No)に開発を行う仕組みです。

子どものプログラミングゲームを見たことはありますか? 基本はそれと同様に、あらかじめできることがパーツとして用意されており、それをドラッグ&ドロップで組み立てていくもの。以前からツールとしては存在していたのですが、最近より本格的なものが作れるようになり、非常に盛り上がってきました。

僕はwebflowというサービスの可能性を感じています。コーディングなしで驚くほどテクニカルでデザイン優位なサイトが構築できるからです。

NoCodeでの開発は、従来の方法と全く異なります。ツール上にすでに個々の機能をコーディングしたブロックが用意されていて、それらを組み立てることでアプリやウェブサイトを作ることができます。コードを書く必要がないので短時間でできますし、エンジニアでなくても少しだけロジックを使えば開発が可能になります。

例えば先日、現役のモデルの方から撮影会社とモデルのマッチングアプリを作りたいという相談を受けました。最初は投資家からどうやって援助を受けるか、エンジニアをどこで雇えばいいかという相談だったのですが、わたしは「それならNoCodeを使って開発してみたら?」とアドバイスしたのです。するとその方はNoCodeの使い方を勉強し、仕事をしながらなんと2か月でマッチングアプリを作ってしまいました!エンジニアではなくてもアイデアとやる気さえあれば、アプリを作ることができるのです。

NoCodeなら無料で始められて、有料プランでも月数千円

イーゴリー・ヴォロシオフ
写真/shutterstock

それに加えてNoCodeのいいところは、余計な投資がいらないこと。NoCodeのサービスはブラウザで開くものなので無料で始められますし、有料プランでも月額数千円。高いお金を払わなくても、パソコンが一台あれば自分で試すことができるから、リソースが少なくてもアイデアをどんどん検証することができます。

簡単なアプリを作って実際にユーザーに使ってみてもらう、なんてこともできるので、スタートアップでVCから資金を調達するための実績として活用することも可能です。

不具合についても、非常に優秀なエンジニアが作ったツールを使って自動生成したコード部分はバグが混入しないため、一から実装するよりNoCodeで作った方が不具合は少なくなりますし、コードも読みやすく、デバッグが早く終わります。

メリットしかないように聞こえるNoCodeですが、デメリットがないわけではありません。一番のデメリットは、「何でも作れるわけではない」ということ。ツールに実装されている機能は限られているため、その範囲でしか作ることはできません。でも、「短時間で」「気軽に」「誰でも」アイデアを試すことができるNoCodeは、スタートアップになくてはならない手法になりつつあるのです。

NoCodeの2強「WebFlow」と「STUDIO」の違い

イーゴリー・ヴォロシオフ
写真/shutterstock

日本国内でホームページを作るNoCodeサービスはWebflowとSTUDIOの2強といわれていますが、この二つのサービスの違いは可能性の大きさというか、どこまで深く設定できるか、ではないかと思います。

例えばSTUDIOのposition設定はstaticとabsoluteしかできないけれど、WebFlowだったらもっといろんな設定ができる。一つ一つを調整することで、ずっと細かい表現が可能です。機能の連携においてもSTUDIOはまだまだできないことが多く、WebFlowのほうが自由度は高いと言えるのではないでしょうか。

でも、STUDIOは日本語で開発されたサービスなので、やはり日本では人気があります。そこで、わたしたちはWebFlowの日本語化プラグインを開発することにしました。現在は、日本語に翻訳するツールを作っているところです。ツール自体はもうできているのですが、翻訳するところが手探り状態で。AIも試したのですが、やはりどうしても不自然になってしまうので、自然な日本語になるように翻訳しています。

早くこのサービスをリリースしようと、現在鋭意作業中です。WebFlowが日本語で使えるようになれば、WebFlow自体に人気が出て、今よりずっと有名になりますよね。そうしてもっとたくさんの人がWebFlowを勉強しにわたしたちのアカデミーに参加してくれるのを、今から心待ちにしています。

また、わたしたちはWebFlowと連携できる様々なツールを開発しています。WebFlowと連携して会員同士が会話できるチャットシステムや、会員同士でモノを売買できるシステムを現在開発中です。完成すれば、NoCodeでメルカリのようなサイトを作ることも可能になります。もっとたくさんの人がWebFlowを使うことで、わたしたちのツールを使う人がもっともっと増えることを期待しています。

そしてデザイナーがNoCodeを使いこなせるようになれば、エンジニアがいなくてもウェブサイトの制作や管理ができるようになります。また、エンジニアを雇わなくてよくなった分価格を下げることで、クライアントに選んでもらいやすくなります。NoCodeを使えるデザイナーは、今後市場価値が高まるに違いありません。

日本語の壁を越えれば、世界の優れたサービスをほとんど無料で使える

イーゴリー・ヴォロシオフ
写真/shutterstock

どんなビジネスでも一番大事で一番大変なのは、自分が作ったサービスを、「お金を払ってでも使いたい!」と思ってもらえるものにすることだと思います。新しい会社は全く信用されませんし、事業として成り立つところまで持ってくるのは、本当に大変です。

今の日本のIT業界は、日本語で守られすぎていると思っています。海外のサービスが浸透しづらい理由は、日本語ではないからですよね。また、営業されて新しいサービスを導入することはあっても、英語で新しい情報を探したり、海外のサービスを取り入れたりすることはほとんどないように思います。

海外では、IT業界は特に競争が激しく、その結果優秀なサービスを低コストで使えるようになっています。しかし、競争から守られてしまっている日本は、性能の悪いシステムでも営業ができれば売れるという、本末転倒な状況になっているといわざるを得ません。そんな状況では、日本のITサービスはいつまでたっても世界に進出することはできない。台湾からはLINEが、中国からはPayPayがいまや全世界に広がっているにもかかわらず、日本発のITサービスが広まらないのはそのせいではないでしょうか。

わたしたちが作っているメンバーチャットシステムは、アメリカをはじめヨーロッパやニュージーランドから様々なユーザーが登録しています。でも、課金ユーザーに日本人は1人も登録していません。

NoCodeツールも、日本発のツールは海外発のものと比べて10倍近く高いにもかかわらず性能が低いものも少なくなく、歯がゆくてなりません。きちんと価値のあるサービスを実現し、その価値が正しく評価されるべきだとわたしは思います。

近い将来、海外で戦える性能のいいサービスを日本の会社として作って、世界で有名になるほどの大企業にするのがわたしの夢です。わたしは日本人ではありませんが、わが社は日本法人ですから(笑)。

全2話、前編はこちらからどうぞ。

取材/I am 編集部
文/堀中里香

この記事を書いた人

堀中 里香
堀中 里香取材・ライティング
知りたがりのやりたがり。エンジニア→UIデザイナー→整理収納×防災備蓄とライターのダブルワーカー、ダンサー&カーラー。強み:なんでも楽しめるところ、我が道を行くところ。弱み:こう見えて人見知り、そしてちょっと理屈っぽい。座右の銘は『ひとつずつ』。

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