Interview
インタビュー

やりがいや心理的成功を目指す「プロティアン・キャリア」で、働き方はこう変わる

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「人生100年」のこれからの時代、働き方も否応なく見直しを迫られています。そんな今、プロティアン・キャリアが注目されています。今回はこの理論について識者にうかがいました。

プロフィール

女性起業家西村美奈子

昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員。働く女性向けのセカンドキャリア研修事業を行うNext Storyを創業。その後、法政大学大学院で田中研之輔教授に師事し、プロティアン・キャリア協会の認定ファシリテーターになる。

数あるキャリア論の1つに、米国発の「プロティアン・キャリア」があります。これは、社会・環境の変化に適応しつつ、働き方を変えながらキャリアを形成していくという考え方で、これがバージョンアップした「現代版」も登場。それはどういったものなのか、一般社団法人プロティアン・キャリア協会の認定ファシリテーター、(株)Next Storyの代表取締役・西村美奈子さんに解説していただきました。

目指すのは目標達成時に得る心理的成功

プロティアン・キャリアとは、ボストン大学のダグラス・ホール名誉教授が提唱したキャリア理論です。「プロティアン(Protean)」には、「変化し続ける」といった意味があり、まさに変化の激しい今の環境に適応しながら、自身が変化しつつキャリアを構築していくというものです。

そして、究極的に目指すのは、昇給や出世よりもまず、自らのやりがいや目的の達成時に得る心理的成功です。

ホール名誉教授が、この理論を初めて提唱したのは1970年代とかなり前のことです。数年前に法政大学キャリアデザイン学部の田中研之輔教授が、これに新たな概念を組み合わせて、現代版のプロティアン・キャリアを唱えました。

その現代版で加わった概念の1つに「キャリア資本論」があります。

キャリア資本論では、資本を「ビジネス資本」、「社会関係資本」、「経済資本」の3本柱に分けています。ビジネス資本は、仕事に直接的に役立つ知識、スキル、経験を指します。社会関係資本は職場や地域の人的ネットワークで、経済資本は収入や貯蓄といったお金に関係するものです。

人生100年でVUCAの時代、これからの働き方は、ひとえにキャリア資本を戦略的に蓄積し、活用していくことにかかっています。

そのための具体的な戦略について、これからお話ししていきましょう。

SWOT分析とSTPで自身を分析する

まず、人生におけるパーパス、目的や理念ですね。その実現を目指していきます。これは、結局は心理的成功を目指していくことに通じます。

その実現のために3つのステップを踏んでいきます。

第1のステップが、マーケティングでおなじみのSWOT分析。自身の強みと弱み、機会と脅威を把握します。自分は、どんなビジネス資本、社会関係資本、経済資本を持っているのか、紙に書いて「棚卸し」します。そして、機会と脅威を知るために外部環境を確認します。国内のマクロな労働環境はどうなっているか、自分が関わっているミクロな領域の環境はどうなっているのかを分析します。

図表:一般社団法人プロティアン・キャリア協会より

第2のステップは、「キャリアのSTP」です。STPもマーケティング用語ですが、セグメンテーション、ターゲッティング、ポジショニングの頭文字をとったものです。セグメンテーションとは、どの業界のどんな組織で経験を積んでいくか、ターゲティングとはどんな層を相手にどんな価値を生み出すかを検討することです。そして、ポジショニングは、自分の生み出す価値を、差別化を図ってどう位置付けるかですね。これらを意識して分析します。

図表:一般社団法人プロティアン・キャリア協会より

書籍の多読など具体的な行動に落とし込む

そして第3のステップは、「蓄積アクション」です。これは、タスクレベルまで落とし込んだ具体的な行動です。

例えば、社会の動きを知り、自分の置かれた環境について考えるため、関連した書籍を読みます。田中教授は、多読と乱読をすすめています。1冊をじっくり読み込むのではなく、新書なら1時間程度という拙速な読み方でかまいません。量が重要なのです。

また、読むべき書籍は3カテゴリーあって、1つはベストセラーのビジネス書です。その内容には現代人が求める真理が記されている可能性が高いというのが1点。そして、なぜこの本が売れているのかという視点で分析すると、思考のトレーニングにもなります。

もう1つは、関心のある分野の専門書です。自身の経験を客観的に理解し、個別の事象を普遍的に捉える習慣を身に付けるのが目的です。

そして、歴史書や洋書。自分の環境とは異なる内容をあえて選んで読みます。今の自分のおかれた環境と比較することで、俯瞰的に物事を捉えることができます。

生涯収入アップだけを考えるのが本当に幸せか

プロティアン・キャリアを実行に移すと、収入が減ったり、長期失業するのではないかという不安があるかもしれません。今の若い人でも、新卒入社した会社で定年まで勤めたいという     人はまだ     多いようですね。

でも考えてみましょう。現実問題として、労働環境がどんどん変わりゆく世の中になりました。コロナ禍のような予想もしないことで、リモートワークが流行ったりと、変化は感じていますよね。

プロティアン・キャリアは、そうした環境変化はあるという前提です。それによって、転職したり独立したり、一時的に収入が減ることもあるかもしれません。

それをリスクと考え、まったく回避してしまうより、リスクヘッジをとりながら、アクションをしていくことが大事です。

そして、1つの会社の中で     決めて、生涯収入をアップすることだけに重きを置くのが本当に幸せかどうかも考えて見るべきでしょう。プロティアン・キャリアでは、目指すべきは心理的成功です。常に前の年よりも稼げるように頑張る人生に、自問してみてもよいかと思います。

副業やボランティアで経験とネットワークを蓄積する

最後に、今注目の副業についてお話しましょう。

副業が世間的にも認知され、副業OKな企業も増えてきました。

プロティアン・キャリアの視点でも、副業は大いにすすめたいところです。

これは、お金が稼げるからというより、異なる世界の経験を積み、人的ネットワークを築けるからです。

仮に勤務先が副業を認めていなかったら、ボランティアをやってみる。経験も人的ネットワークも得られ、そこから、次のステップにつながっていくものです。

先の「資本」で考えれば、「ビジネス資本」と「社会関係資本」が蓄積でき、「ビジネス資本」と「社会関係資本」の蓄積は、結果として将来、「経済資本」であるお金に転換されていきます。    

今では企業も、定年まで面倒を見るスタンスではなくなってきています。多くの若手は、「自分のキャリアは自分で考える」という方向にシフトし始めていますし、それを後押しする人事部も増えています。副業の経験やプロティアン・キャリアの実践で、今の勤務先への仕事のエンゲージメントが上がるという側面もあります。できること、小さなことからアクションを始めてみましょう。

一般社団法人プロティアン・キャリア協会とは

法政大学キャリアデザイン学部の田中研之輔教授が2020年に立ち上げ、現代版プロティアン・キャリア理論の普及事業を行う。これまで、研修を通じて同理論を導入した上場企業は100社(30万人)を超える。ファシリテーターやメンターの認定資格講座を行っており、あわせて約330名が認定。

この記事を書いた人

鈴木 拓也
鈴木 拓也
都内出版社などでの勤務を経て、北海道の老舗翻訳会社で15年間役員を務める。次期社長になるのが嫌だったのと、寒い土地が苦手で、スピンオフしてフリーランスライターに転向。最近は写真撮影に目覚め、そちらの道も模索する日々を送る。

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