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キャリア設計

主体的に働き方を変えつつキャリアを形成する「プロティアン・キャリア」を実現するコツ

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「人生100年時代」が現実味を帯びる今、ビジネスパーソンのキャリア構築に関心が集まっています。様々なキャリア論が提唱されるなか、今回は「プロティアン・キャリア」について、識者が解説します。

プロフィール

女性起業家西村美奈子

昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員。働く女性向けのセカンドキャリア研修事業を行うNext Storyを創業。その後、法政大学大学院で田中研之輔教授に師事し、プロティアン・キャリア協会の認定ファシリテーターになる。

ここ最近、働き方を取り巻く環境はさまざまな変化を遂げています。それに伴い、多くのビジネスパーソンは、「新卒入社した会社に定年まで勤め上げる」という、これまでのキャリア観の見直しを迫られています。そのヒントとなるのが、今注目の「プロティアン・キャリア」です。今回はこのキャリア論について、一般社団法人プロティアン・キャリア協会の認定ファシリテーター、(株)Next Storyの代表取締役・西村美奈子さんに解説していただきました。

目指すのは自由、成長、心理的成功

プロティアン・キャリアは、まだ多くの方にとって聞きなじみのない言葉だと思います。

これは、ボストン大学のダグラス・ホール名誉教授が提唱したキャリア理論です。「プロティアン(Protean)」には、「変化し続ける」「変幻自在な」「一人数役を演じる」という意味があります。

基本的には、社会や環境の変化に適応しつつ、変幻自在かつ主体的に働き方を変えながら、キャリアを形成していくという考え方です。そして目指すのは、出世よりむしろ、自由、成長、そして目標達成時に得る心理的成功なのです。

心理的成功という言葉を使いましたが、これは、仕事に満足や成長を感じることを意味します。幸福感とも言い換えられるでしょう。昇進できても、幸福な気持ちになれなければ成功とは必ずしも言えませんよね。

また、個人が所属する会社・団体は、経験を積み重ね、能力を高めていく場と考えます。

そして、従来のキャリアの考え方では、環境の変化は前提ではありませんでした。どこかに入社したら定年まで勤め上げるという、変化の乏しい直線的なものですね。しかし現代は、労働環境がどんどん変化して、過去の成功体験が通用しなくなってきています。これに柔軟に対応するため、プロティアン・キャリアは、環境は変化するものというのが前提になっています。

アイデンティティとアダプタビリティのバランスが必要

プロティアン・キャリアで特に重要な概念が、「アイデンティティ」と「アダプタビリティ」です。

アイデンティティとは、一言で言えば「自分らしさ」。仕事の現場で自分らしさを発揮できれば、達成感は高まります。自分は何をしたいのかがわかっており、自分が自分を尊敬できる状態ですね。

ただ、職場で自分らしさを出せていても、それが職場や顧客求めているものでなくてはいけません。そこで、アダプタビリティが重要になってきます。アダプタビリティとは、組織の変化への適応力です。所属する組織で、自分の市場価値を高めるかたちで適応していくという視点です。

自分らしく働いてアイデンティティを確立すると同時に、他からも求められている仕事になっているのが理想です。

これをわかりやすく、4象限で考えてみましょう。

アイデンティティもアダプタビリティも低いと、まったく身動きがとれない状態です。アダプタビリティだけ高いと、組織や世の中の流れに翻弄され人生が空回りしてしまいがちになります。アイデンティティだけが高いと今度は、周りの変化に適応できず、苛立ちも募っていきます。

「今のまま仕事を続けていいのか」とか「仕事のやりがいを感じられない」と悩む方は、アイデンティティとアダプタビリティのバランスがとれていないものです。理想は、アダプタビリティとアイデンティティの両方が高い自律型人材。ここを目指していくことで幸福感につながります。

新たな概念が盛り込まれた現代版のプロティアン・キャリア

ここまでプロティアン・キャリア理論の基礎的なお話をしました。

ダグラス・ホール名誉教授が、この理論を初めて提唱したのは1970年代のことです。これに、新たな概念を組み合わせて、現代版プロティアン・キャリアを唱えるのが、法政大学キャリアデザイン学部の田中研之輔教授です。

2020年、田中教授は一般社団法人プロティアン・キャリア協会を立ち上げました。大学教授と代表理事を兼務しながら、この理論を普及させようと尽力しています。

ホール名誉教授の著作には、プロティアン・キャリアを築くための日常的な実践方法が具体的に記されておらず、また収入面についても言及されていないという問題がありました。

そこで、現代版プロティアン・キャリアでは、新たな概念として「キャリア資本論」、「戦略的手法」、「開発実践手法」を盛り込んでいます。

ユニークなビジネス資本を作る重要性

ここでは、キャリア資本論に的を絞って解説しましょう。これは主に、『ライフシフト』を書いたリンダ・グラットンが説いた「無形資産」と、社会学者のピエール・ブルデューの資本論の考え方を土台にしています。

「資産」と聞くと、まっさきにお金、株、土地を連想しますが、それらは有形資産を指します。対して無形資産は、スキル、知識、人間関係、健康といった、ぱっとお金に換算できないものを言います。

『ライフシフト』では、無形資産はお金より大事とされていますが、それ自体が有形資産を生み出す助けにもなるからです。

これをふまえて、キャリア資本論の考えが生み出されました。これは、資本を「ビジネス資本」、「社会関係資本」、「経済資本」の3つに分け、変化に応じてどの資本を形成すればよいかを論じるものです。

ビジネス資本は、仕事に役立つ知識、スキル、経験のことです。社会関係資本は、職場や地域などでの人的ネットワークですね。経済資本は、収入や貯蓄といったお金に関係するものです。それぞれが独立したものというよりも、ビジネス資本と社会関係資本から、経済資本が生み出されていくという関係があります。つまり、自分だけのユニークなビジネス資本と社会関係資本を作っていければ、それが市場価値になり、結果として経済資本に転換できるのです。

目の前の仕事に没頭し自己成長につなげていく

「I am」の読者さんは、このビジネス資本が一番気になるかもしれませんね。

田中教授は、ビジネス資本の形成で最も大切なのは、「目の前の仕事に没頭できている」ことだと述べています。

なぜなら、目の前の仕事を自己成長につなげていくことが大事であり、その仕事がつまらなければ没頭は無理なのです。

でも、今の仕事が、意に染まないとか、成長を感じられないものでありながら、簡単には辞められない場合もあるでしょう。そんなときは、「今の仕事の範囲内で、自分の能力をどう上げられるか」という発想をしてみましょう。ある人の例ですが、不毛な会議で時間が無駄としか思えなかったそうです。欠席するわけにはいかないので、会議のやりとりを心の中で同時通訳をして、英語力を高める時間にしたそうです。自分には意義の乏しい仕事と思っても、工夫することで訓練の場になりえるのですね。

また、今の職場では、キャリア的に行き止まりかなと思うこともあるでしょう。そんなときは、まず自分がどうなりたいのか、何を目指したいのかを考えてみましょう。

それによって、とるべき行動が定まってくるはずです。

たとえるなら、海へ行きたいのか山に行きたいのかで、準備するものが違います。山に行くにもエベレストに行きたいのか、高尾山に登りたいのかでも、当然違ってきますよね。

目指すべきところが決まったら、現状、自分は何が足りないのか、その差分を埋めるには何をしたらいいのかが見えてくるはず。そこから、小さなタスクに落としこんで、それらをやってみるのです。

例えば、今の仕事は法人向けの事業だけれども、個人消費者向けのビジネスを始めたいと考えたとします。それを始めるには、自分には何が足りないのか。業界の知識が足りないのか、その分野の人たちとの人的ネットワークが足りないのかを見極めて、戦略的にそこを埋めていきます。数年先を見据えつつ、できることから始めていくことが、ゆくゆく大きな結果へとつながるものです。

一般社団法人プロティアン・キャリア協会とは

法政大学キャリアデザイン学部の田中研之輔教授が2020年に立ち上げ、現代版プロティアン・キャリア理論の普及事業を行う。これまで、研修を通じて同理論を導入した上場企業は100社(30万人)を超える。ファシリテーターやメンターの認定資格講座を行っており、あわせて約330名が認定。

この記事を書いた人

鈴木 拓也
鈴木 拓也
都内出版社などでの勤務を経て、北海道の老舗翻訳会社で15年間役員を務める。次期社長になるのが嫌だったのと、寒い土地が苦手で、スピンオフしてフリーランスライターに転向。最近は写真撮影に目覚め、そちらの道も模索する日々を送る。

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